■大統領選挙まで4カ月。トランプ大統領の支持率低下
なんと言っても、本年(2020年)最大のイベントは米大統領選挙。11月3日(火)の投票日まで4カ月ほどとなってきました。
当初は再選の可能性が高いと考えられていたトランプ大統領ですが、このところの新型コロナウイルスを軽視する姿勢や、「Black Lives Matter(ブラック・ライブス・マター)」運動(※)に対する無慈悲な対応に批判が集まり、支持率を落としています。
(※編集部注: Black Lives Matter運動とは、米国ミネソタ州ミネアポリスで黒人男性が白人警察官に膝で首を押さえつけられ死亡した事件を受けた抗議運動のこと)
【参考記事】
●株価上昇=経済政策が正しいと言えるのか? 迫る大統領選、人種問題がトランプの逆風に!(6月10日、志摩力男)
2020年最大のイベントである11月3日(火)の米大統領選挙。当初は再選の可能性が高いと考えられていたトランプ大統領だが、このところの新型コロナウイルスを軽視する姿勢や、Black Lives Matter運動に対する無慈悲な対応に批判が集まり、支持率を落としている (C)Mark Wilson/Getty Images
年初、バイデン元副大統領とトランプ大統領の支持率は、バイデン48%-トランプ43%といった感じで、5%前後バイデン元副大統領の方が高いものの、この程度の差であれば、実際に大統領選挙が行われた場合、トランプ大統領が再選されるのではないかと見られていました。
しかしながら、このところの支持率を見ると、バイデン53%-トランプ38%といった感じで、バイデン氏が15%近く現職のトランプ大統領に差をつけています。
2020年の米大統領選挙における、このところの支持率を見ると、バイデン53%-トランプ38%といった感じで、バイデン氏が15%近く現職のトランプ大統領に差をつけている (C)Scott Olson/Getty Images News
支持率が低いのに「再選濃厚」というのも変な話ですが、それだけ表に出てこない「隠れトランプ支持者」が多いと考えられています。
また、多くの世論調査は「偏向」しており、実際の米国世論を正しく反映していないという批判も信じられています。
それだけ、前回2016年大統領選挙において、支持率で上回るヒラリー氏が敗北した衝撃が大きかったからでしょう。
【参考記事】
●米大統領選挙は予想外のトランプ氏勝利! リスクオフで米ドル/円急落も意外な動き…(2016年11月9日)
●激戦州のオハイオなどでトランプ氏勝利! ドル/円は101円台、日経平均は900円超安(2016年11月9日)
■2016年大統領選挙の総得票数はヒラリー氏が上回った
2016年大統領選挙の事前の世論調査では、大体ヒラリー48%-トランプ45%といった感じで、ヒラリー氏が3%前後リードしていましたが、蓋を開けてみると、獲得した選挙人はヒラリー227人、トランプ304人と、大差でヒラリー氏が敗北しました。
しかし、だからと言って「隠れトランプ支持者」の多さを強調したり、メディアや世論調査が偏向していると決めつけたりするのは間違っていると思います。
なぜならば、2016年大統領選挙における総得票数は、ヒラリー6584万4954票(48.04%)、トランプ6297万9879票(45.95%)とヒラリー氏が上回っていました。
しかもその差は、世論調査の結果を忠実に反映しています。
■おかしいのは大統領選挙の制度そのもの
おかしいのはメディアや世論調査会社ではなく、大統領選挙の制度そのものです。
選挙人制度というのは、あまりにも特殊。州ごとに投票しますが、わずかでも過半数を取った候補者がすべての選挙人を獲得します。
しかも、民主党の強い州と共和党の強い州は、おおむね決まっています。
民主党の強い州は「ブルー・ステート」と呼ばれ、太平洋・大西洋の両岸側に多くあります。
一方、共和党の強い州は「レッド・ステート」と呼ばれ、米国の中央部に多く存在します。
「ブルー・ステート」の代表的な州は、カリフォルニア州やニューヨーク州であり、こうした州では、たいがい民主党候補が勝ちます。
例えば、もっとも選挙人の多いカリフォルニア州ですが、2016年はヒラリー氏の得票率62%に対し、トランプ大統領は32%でした。
こうした「ブルー・ステート」では、共和党候補はハナから勝ち目がありません。
一方、「レッド・ステート」の代表は、テキサス州やテネシー州です。たいがい共和党候補が勝ちます。
2016年のテネシー州では、トランプ大統領の得票率は61%、クリントン氏は35%でした。
大統領選挙のたびごとに民主党、共和党、どちらが勝つのかわからない激戦州のことは「スイング・ステート」と呼びます。
オハイオ、フロリダ、ミシガン、ウィスコンシン、ペンシルベニア、ノースカロライナ、アリゾナ、ミネソタ、オハイオといった州です。
極論すれば、世界でもっとも重要な人物である米大統領は、人口にして約8000万人強、わずか数州の「スイング・ステート」の結果によって決まるわけです。
【参考記事】
●株価上昇=経済政策が正しいと言えるのか? 迫る大統領選、人種問題がトランプの逆風に!(6月10日、志摩力男)
■今回、トランプ大統領は「スイング・ステート」で苦戦
2016年の大統領選挙では、トランプ大統領は1%前後の「微差」で「スイング・ステート」の多くを制し、大統領となりました。
例えばペンシルベニア州は、ヒラリー氏48%(293万票)、トランプ氏49%(297万票)。ウィスコンシン州はヒラリー氏46%(138万票)、トランプ氏47%(140万票)となりました。
しかし、今回の2020年大統領選挙では、トランプ大統領は「スイング・ステート」において苦戦しています。
米ニューヨーク・タイムズ紙は、6月25日(木)に世論調査の結果を発表しましたが、「スイング・ステート」においても、バイデン氏がトランプ大統領より、かなり優位に進めています。
ペンシルベニアで10%、ミシガン、ウィスコンシンで11%、フロリダで6%、アリゾナで7%、ノースカロライナで9%、バイデン氏がトランプ大統領をリードしています。
President Trump has lost significant ground in the 6 battleground states that clinched his 2016 Electoral College victory, a New York Times/Siena College poll shows.
— The New York Times (@nytimes) June 25, 2020
His once-commanding advantage among white voters has nearly vanished, @Nate_Cohn writes. https://t.co/4IwMKgk5Qe
定評ある、英エコノミスト誌のサイトにおいても、バイデン氏がトランプ大統領を大きくリードしています。
前回、トランプ大統領が獲得した大票田であるフロリダ州やペンシルベニア州はバイデン支持となっており、現時点で選挙を行えば、恐らくバイデン氏が勝利するでしょう。
Our predictive model for November’s presidential election, updated daily https://t.co/lJLteCExa3
— The Economist (@TheEconomist) June 30, 2020
■バイデン氏が大統領となった場合、増税が待っている
ところで、バイデン氏が大統領となった場合、どのように変わるでしょう。その場合、増税が待っています。
バイデン氏は、トランプ税制改革で21%に引き下げられた法人税を28%に増税し、年間所得40万ドル以上の個人に対し増税すると公約しています。
長期的には正しい方向性でしょうが、短期的に株価には望ましくない政策です。
増税すれば、企業収益は低下します。税率が低いうちに株の益出しをしようとする人は増えるでしょう。
トランプ大統領を支持する人たちは、大統領の「経済政策」を支持しています。金融界に隠れトランプ支持者が多いのは、そういうことです。
【参考記事】
●対GDP比17.9%! 巨額の米財政支出で溢れたマネーが次は米ドル相場を押し下げる?(6月24日、志摩力男)
●株価上昇=経済政策が正しいと言えるのか? 迫る大統領選、人種問題がトランプの逆風に!(6月10日、志摩力男)
●FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった。市場正常化とともに米ドル下落が始まる(4月15日、志摩力男)
●下品なツイートを浴びせるトランプ大統領が作り出す米国株バブルはいつ崩れる?(2月12日、志摩力男)
●俺の手から血が吹き出るまで買う! 米国株の強さの理由はトランプの「信用」にあり!(2月5日、志摩力男)
■バイデン大統領誕生を織り込み始めたら、株価は下落
どちらの候補が勝つのか――。
現時点で大統領選挙を行うと、恐らくバイデン氏が勝利するでしょう。
しかし、11月3日(火)の大統領選挙までは、まだ時間があります。
公開討論会も3回あります。過去、何度も優勢な候補者が討論会で失敗しました。まだまだわかりません。
しかし、マーケットがバイデン大統領誕生を織り込み始めたら、当然株価は下落します。
そのリスクは、認識しておいた方が良いでしょう。
(出所:TradingView)
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