■株価の上昇だけで経済政策の正しさは測れるのか
株価の上昇を、自らの経済政策の正しさと訴える政治指導者がいます。
トランプ大統領がそうです。安倍首相もかつてはよく言っていました。
【参考記事】
●下品なツイートを浴びせるトランプ大統領が作り出す米国株バブルはいつ崩れる?(2月12日、志摩力男)
もちろん、株価は低いより高い方が良いに決まっています。
しかし、経済政策全体の正しさはそれだけで測れるのでしょうか。
政策を測るには、その政策の「コスト」と「ベネフィット(便益)」を比較しなければなりませんが、「コスト」を語る政治家はあまりいないのではないでしょうか。
株価の上昇には企業収益の上昇が必要ですが、政策当局者がそうした環境を作ることは意外に簡単なのかもしれません。
減税等で財政支出を増やし、金融緩和をすれば良いのです。
【参考記事】
●コロナバブルが当面、弾けない理由とは? ドル/円・クロス円は反動狙ってエントリー(6月4日、今井雅人)
●新型コロナ対策の補正予算は巨額! リスクは円安方向。ユーロ/円は長期の大底形成中か(6月3日、志摩力男)
●日本は緊急事態を海外に合わせて解除!? 巨額の政府支出で危険な通貨は?(5月7日、志摩力男)
●FRBはトランプ政権の「無限の財布」になった。市場正常化とともに米ドル下落が始まる(4月15日、志摩力男)
■財政拡大や金融緩和は未来からのお金の前借り
しかし、財政支出が増えれば、国の負債が増えます。
金融緩和をすれば、借り入れコストが低下しますが、預金者の金利収入も低下するし、必要以上に債務が増える可能性があります。
国家債務にしても、民間債務にしても、要は未来からお金を前借りする行為です。
もちろん、それが全面的に悪いわけではありません。
しかし、現役の政治指導者が、自らの再選のために、財政を拡大し金融緩和を求めるのは、未来からのお金の前借りを増やすことになり、突き詰めると、次世代の負担を増やして自らの政治生命の維持を図ることになります。
はたして、それは良いことなのでしょうか。
トランプ大統領が意図していることは、そういうことです。
トランプ大統領が意図していることを突き詰めると、次世代の負担を増やして自らの政治生命の維持を図ることだと志摩氏は指摘 (C) Chip Somodevilla/Getty Images News
■今年の米財政赤字は驚異の金額。経済は強いリバウンドへ
トランプ大統領が2016年に政権を取って以降、財政赤字は増え続け、2019年には9840億ドルと1兆ドル近くに到達。対GDP比では4.6%となりました。
しかし、驚くのは今年(2020年)の数字です。
新型コロナという問題に直面しているので、財政が膨らむのは致し方ない面がありますが、今年(2020年)の財政赤字は驚異の3兆7000億ドル、対GDP比で17.9%です。
米国では予算は議会が決めるので、トランプ大統領の意志のみで決まっているわけではありません。
しかし、「大きな政府」を志向する大統領の意志はかなり反映されているはずです。
新型コロナの影響が今後どうなるのか、見通せない部分はあります。
しかし、ここまで財政を出せば、経済はやはり強くリバウンドするのではないでしょうか。
■コロナ問題や人種問題がトランプ大統領の逆風に
トランプ大統領は、いまだかつてないほどの逆風にさらされています。
新型コロナは米国の脆弱な部分を突きました。
貧富の差が激しいので、必要な医療が低所得層に十分行き渡っていません。コロナショックで失業した人も黒人層に多い。
その一方、金持ちはコロナから離れたところにいます。
ヘッジファンドマネージャーたちは、コロナ感染者数の多いNYにはもういません。郊外の別荘に移り、そこから売買しています。
リモートと親和性の高いネット企業の従業員も、価格の高いサンノゼやサンフランシスコを離れ、田舎に一軒家を購入し、そこで仕事を始めています。
【参考記事】
●現実とマーケットの違いに猛烈な違和感。米マイナス金利導入なら米ドル大暴落も…(5月13日、志摩力男)
そのため、驚くことに、米国の新築住宅の販売件数が予想に反して大きく伸びました。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:米国主要経済指標の推移)
ジョージ・フロイド氏の事件(※)はトランプ再選への致命傷になるかもしれません。
(※編集部注:米国ミネソタ州ミネアポリスで5月25日(月)、黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警察官に膝で首を押さえつけられ死亡した事件のこと)
トランプ大統領の事件後の無神経なツイートが米国民の感情を逆なで(※)したからです。
(※編集部注:ジョージ・フロイド氏の事件を受けたミネアポリスでの抗議暴動について、トランプ大統領はツイッターで「暴徒たちはジョージ・フロイドの名誉を傷つけている」と主張。ミネソタ州のティム・ウォルツ州知事に「軍が最後まで支援する」と話したことを明かし、「略奪が始まる時、銃撃が始まる」と警告した。市民に対して軍事力を行使するという脅しが米国民の感情を逆なですることになった。なお、Twitter社はトランプ大統領のこのツイートが暴力の賛美に関するポリシーに違反しているとして、自動表示されないようにした)
■抗議デモが黒人層だけでなく広い層に支持されている
今の大統領選挙は、「トランプ」か「バイデン」か、ではありません。「トランプ」的なものを是認するのかどうかが問われています。
そもそも黒人層はトランプ大統領に投票していなかったので、今回の事件で失うものはない、かえってトランプ大統領への支持層が固まると見る意見もあります。
事実、これまではそうでした。人種対立を煽れば煽るほど、支持層が固まりました。
しかし、ジョージ・フロイド氏の事件を受けた抗議デモの様子を見ると、運動が黒人層だけでなく、広い層に支持されていることがわかります。
重要な支持層の一つである福音派の牧師たちが、今回はトランプ氏から離れ始めています。
そのため、トランプ大統領はホワイトハウス近くの教会で聖書を手にパフォーマンスしたのですが、その際に催涙弾を使ったことが、大きな反発を呼んでいます。
米抗議活動、ホワイトハウス近くで警察が平和的デモに催涙ガス https://t.co/skvdnfojvh
— ロイター (@ReutersJapan) June 2, 2020
共和党の重鎮も動いています。
マティス前国防長官はトランプ大統領が米国を「分断」していると激しく非難しました。
そして、コリン・パウエル元国務長官は「トランプ大統領は憲法を逸脱している」とバイデン氏支持を表明しました。
■米大統領選の重要州でバイデン氏がリード
米国の大統領選挙は「いびつ」で、多くの州は共和党支持か民主党支持か決まっています。
結局はスイングステートと呼ばれる、民主党と共和党の支持が拮抗しているペンシルベニア、オハイオ、ミシガン、フロリダ、ウィスコンシン、ノースキャロライナ、アリゾナといった州の動向で決まってしまいます。
世界で最も重要な人がこの数州の投票結果で決まるわけです。
【参考記事】
●米大統領選挙は予想外のトランプ氏勝利! リスクオフで米ドル/円急落も意外な動き…(2016年11月9日)
●激戦州のオハイオなどでトランプ氏勝利! ドル/円は101円台、日経平均は900円超安(2016年11月9日)
現在、米選挙ポータルサイト「Real Clear Politics」によると、バイデン氏とトランプ大統領の支持率は以下のようになっており、
・フロリダ 48.2% 対 44.8%
・ペンシルベニア 48.3% 対 45.0%
・ウィスコンシン 46.4% 対 43.0%
・ノースキャロライナ 45.5% 対 45.8%
・アリゾナ 46.7% 対 43.3%
ノースキャロライナ以外では、いずれもバイデン氏がトランプ大統領をリードしています。
バイデン氏は選挙区こそデラウェア州ですが、出身はペンシルベニア。スイングステートには強い面があります。
■市場の大統領選挙への注目度は今後大きくなる
コロナ問題、人種問題で劣勢に立たされているトランプ大統領ですが、そうなってくると、得意の「経済」で得点を稼ごうとするでしょう。
また、市場もそうしたトランプ大統領の性格がよくわかっています。
株式市場は急反発していますが、市場のトランプ大統領への信頼感には絶大なものがあります。
【参考記事】
●俺の手から血が吹き出るまで買う! 米国株の強さの理由はトランプの「信用」にあり!(2月5日、志摩力男)
株価が高いということは、株式市場はまだトランプ勝利を信じているのでしょう。
(出所:TradingView)
バイデン氏は法人税を28%に引き上げると公約しています。
バイデン新大統領の可能性が高くなると、株式市場は調整局面を迎えるものと思われます。
投票まで残り5ヵ月となりましたが、市場の米大統領選への注目度は今後、徐々に大きくなるでしょう。
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