■トルコ中銀の防衛ライン突破! リラ相場は大荒れに…
先週(8月3日~)から、トルコリラ相場は大きく荒れています。
(出所:IG証券)
クルバンバイラム(犠牲祭)の連休明けに、ロンドン市場でトルコリラのオーバーナイトのスワップ金利が6%から1050%まで上昇するという異常事態が発生したことを前回のコラムで伝えました。
【参考記事】
●トルコ中銀は禁じ手使ってリラ防衛に成功! だが、秋以降の相場は荒れる懸念あり(8月5日、エミン・ユルマズ)
これは、時々、中国人民銀行も使う、通貨の供給量を減らし、借りにくくすることで空売りできないようにするという通貨防衛策です。
通貨の借り入れコストの急増は、株式市場でいう空売り規制による逆日歩(※)の急騰に似ています。
(※編集部注:「逆日歩」とは、信用取引において発生する可能性があるコストのことで、発生すると売り方(空売りをする側)が負担することになる)
トルコ中銀は、この方法を使って今まで死守してきた米ドル/トルコリラの7.00リラのラインを、一瞬、防衛できたように見えたのですが、トルコリラの売り圧力は止まず、その後、米ドル/トルコリラは、一時7.40リラ水準まで上昇してしまいました。
(出所:IG証券)
トルコリラ/円も、14.50円近辺まで下落しています。
ちょうど1カ月前(7月8日)のコラムで、トルコの外貨ニーズの高まりで、年内は14.50円までの下落を想定していることを書きました。早くも、私の下値想定値まで下がってきた状況です。
【参考記事】
●トルコリラ/円は14.50円までの下値想定だが、目先は犠牲祭の買い物需要で上昇か!?(7月8日、エミン・ユルマズ)
■なぜ、このタイミングでトルコリラは動いたのか?
私はトルコリラの下落が9月以降になると想していましたので、それよりも早く動いてしまった格好です。ではなぜ、このタイミングで動いたのでしょうか?
ひとつの理由は、外貨債務を抱えているトルコ企業が、クルバンバイラムが終わった直後、つまり、為替がまだ安いうちに米ドルの調達に動いたことではないかと推測しています。
【参考記事】
●トルコリラは犠牲祭前で底堅いが、アヤソフィアのモスク化は長期的にマイナス(7月15日、エミン・ユルマズ)
現地の情報によると、イスタンブールなどの観光地に数多くある外貨両替所の交換レートは、トルコ中銀の公式レートより高いとのことです。これは、現地で米ドル紙幣が不足していることを意味します。
つまり、銀行やFX会社でオンライン取引をした場合は中銀の公式レートに近いレートで取引できますが、その外貨を手に取ってみたいと思えば、中銀の公式レートよりも、ずっと高いお金を払わないといけないということです。
このような事態が起きるのは、通貨の信頼性が大きく揺らいでいる時です。極端なケースでは、ベネズエラやイランのようになってしまいます。
トルコリラについては、まだそこまでのリスクはないものの、先週(8月3日~)からの流れは、赤信号を発しています。
■利上げなしに、トルコリラの本格的な上昇は難しい…
では、今後のトルコリラの動きはどうなるのでしょうか?
トルコ中銀に残されている、もっとも効果的な通貨防衛策は利上げです。しかし、そのためにエルドアン大統領の許可をとらないといけません。
エルドアン大統領は、先週(8月3日~)の金曜礼拝の後に行った演説で、トルコリラの下落は、パンデミックとレバノンの首都ベイルートで起きた爆発事件のせいだと発言しました。
エルドアン大統領は、トルコリラの下落はパンデミックとレバノンのベイルートで起きた爆発事件のせいだと発言した (C)Anadolu Agency/Getty Images
エルドアン大統領は、今回の下落が一時的なものと考えているようですので、トルコ中銀による大幅利上げの可能性は、あまり高くないといえます。
直接の利上げほど効果はないものの、トルコ中銀にできる防衛策はもうひとつあります。それは、レポ入札によって市場に供給しているトルコリラの量を減らすことです。
すでにトルコ中銀は、8月7日(金)と8月10日(月)に予定されていたレポ入札を行いませんでした。これは間接的な利上げであり、金融引き締めです。
個人的には何もないよりは良いので、この手法によって対円で14.50円前後を維持できる可能性があると考えます。
(出所:IG証券)
しかし、この手法でトルコリラの本格的な上昇は難しく、近いうちに利上げをしないといけないでしょう。
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