■エルドアン大統領の次の狙いはカリフ制の復活か?
アヤソフィアのモスクとしての再オープンの後に、トルコではもっと大事な議論が盛り上がっています。
【参考記事】
●トルコリラは固定相場制のような値動き。新たなトルコとロシアの代理戦争を懸念…(7月22日、エミン・ユルマズ)
●トルコリラは犠牲祭前で底堅いが、アヤソフィアのモスク化は長期的にマイナス(7月15日、エミン・ユルマズ)
アヤソフィア前に集まったコアなエルドアン支持者は、カリフ制の復活を訴えるデモを行いました。エルドアン寄りのメディアでも、カリフ制を復活させるべきとの記事が、最近、増えてきました。
エルドアン大統領の次の狙いは、カリフ制の復活ではないかとウワサされています。
■カリフとは? 預言者ムハンマドの後継者
カリフとは、簡単に言うと預言者ムハンマドの後継者という意味です。ムハンマドは、預言者であると同時に国家のヘッドでもありました。
その後、「四代の正統カリフ」と言われる預言者の親友・側近がカリフを務めましたが、正統カリフと呼ばれている理由は、全員、合議制で選出されたからです。
ウマイヤ朝の時代になると、カリフは王様のような世襲制になって、戦争でその国が滅びるとカリフというタイトルは勝利した側に渡っていきました。
オスマン帝国が1517年にマムルーク朝を滅ぼすと、スルタンがカリフと名乗るようになって、それが1924年まで続きましたが、トルコ共和国建国の父、ムスタファ・ケマル・アタテュルクは、1924年にカリフ制を廃止しました。
タリバンの指導者オマル師が、自らをカリフと宣言したり、2014年にテロ組織ISIS(イラク・シリア・イスラム国)のバグダディ指導者が、同じく自らをカリフと宣言したりしていますが、イスラム世界で承認された最後のカリフは、オスマン家のアブデュルメジト2世であり、1924年以降、カリフは存在しません。
■エルドアン大統領がカリフに…?
エルドアン大統領の支持基盤であるイスラム主義者は、長年、カリフ制の復活を狙ってきました。彼らは、アタテュルクによるカリフ制の廃止は間違いで、復活させればトルコのイスラム世界での影響力は拡大すると主張しています。
当然ながら、アヤソフィアを再びモスクに戻したエルドアン大統領は、カリフになるべきと彼らは考えています。
エルドアン大統領の支持基盤であるイスラム主義者は、長年、カリフ制の復活を狙っていて、エルドアン大統領がカリフになるべきと考えているという (C)Anadolu Agency/Getty Images
■国内政治の不安定化で、秋以降の相場は荒れる可能性
実際のところ、エルドアン政権がカリフ制を復活させるのは容易ではありません。憲法を改正しないといけないし、アヤソフィアと違って野党が強く反発します。
世俗主義者とイスラム主義者が激しく衝突して、国内政治が不安定化する可能性が極めて高いです。
それを懸念しているからか、今週(7月27日~)に入ってからトルコリラの動きも不安定になってきました。米ドル/トルコリラは6.95リラ水準まで上昇し、対円では円高の影響もあり、15.10円水準まで下がっています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
トルコは、7月30日(木)からクルバン・バイラム(犠牲祭)の連休に入り、市場は来週(8月3日~)の火曜日(8月4日)まで休場となりますので、トルコリラ安が大きく進行すると思えませんが、秋以降の相場は、荒れる可能性が高くなったと考えています。
【参考記事】
●トルコリラは固定相場制のような値動き。新たなトルコとロシアの代理戦争を懸念…(7月22日、エミン・ユルマズ)
●トルコリラ/円は14.50円までの下値想定だが、目先は犠牲祭の買い物需要で上昇か!?(7月8日、エミン・ユルマズ)
■株式指数の表示桁数変更は、トルコリラに影響なし
今週(7月27日~)から、イスタンブール株式市場は、指数表示からゼロを2つ削除しました。実に、23年ぶりの出来事です。
表示が変わったことに驚いた方も多いと思いますが、投資家の株式指数が高すぎるという感覚を捨てさせたい、という狙いがあります。
つまり、一種の心理作戦です。デノミネーション(※)と勘違いされている方もいますが、通貨がデノミされたわけではなく、株式指数の表示が変わっただけなのでトルコリラに影響を与えません。
(※編集部注:「デノミネーション(デノミ)」とは、通貨単位を切り下げること)
(出所:TradingView)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)