■東地中海における地政学的リスクの高まりに警戒
トルコリラは、対米ドルで7.00リラの壁が突破されてから急速に下がりました。
【参考記事】
●トルコリラ/円、早くも14.50円近辺へ下落。なぜ? 利上げなしに本格的な上昇は困難か(8月12日、エミン・ユルマズ)
(出所:IG証券)
パンデミックによるトルコ観光収入の激減とトルコ企業の外貨ニーズについては、たびたび紹介してきましたが、実は、トルコリラがこのタイミングで下落しているもうひとつの要因があります。それは、東地中海における地政学テンションの高まりです。
【参考記事】
●リビア内戦がトルコとエジプトの戦争に!? 新観光政策の効果がリラの運命を決める!(6月24日、エミン・ユルマズ)
トルコ、エジプト、ギリシャ、キプロス、イスラエルなどの周辺国は、東地中海の天然ガス資源をめぐって対立しています。
トルコはリビア政府と手を組んで、東地中海のガス油田調査を進めていますが、これにエジプトとギリシャが反発。それにリビアの内戦でトルコと利害がぶつかったフランスも加わって、トルコに対する風当たりが強くなっています。
■トルコ政府は、外国との対立を煽って国内を統率?
トルコは、8月10日(月)からギリシャのカステロリゾ島の南に位置する海域に調査船を派遣しました。トルコ海軍の軍艦は調査船をエスコートしていて、これに反発したギリシャも現地に軍艦を派遣した結果、8月12日(水)には、トルコとギリシャの軍艦が軽い衝突事故を起こしてしまいました。
同じ海域に、トルコをけん制する目的でフランスも軍艦と戦闘機を派遣することを決め、テンションがさらに高まっています。
フランスは、東地中海に面している国ではありませんが、リビアでトルコと激しく対立していて、7月にフランスの軍艦がリビア海域付近でトルコ海軍の妨害を受けました。マクロン大統領は、トルコによるリビア政府の支援を名指しで批判し、危険な策略と定義しています。
トルコ、ギリシャ、フランスは、いずれもNATO(北大西洋条約機構)加盟国なので、3カ国の対立が何らかの軍事衝突に発展する可能性は低いと考えます。トルコ政府は、パンデミックによる景気低迷と通貨安(トルコリラ安)で窮地に立たされているので、外国との対立を煽って国内の統率を図ろうとしている可能性もあり、要注意です。
(出所:IG証券)
■トルコ中銀の大幅利上げの可能性はあるのか?
今週(8月17日~)のトルコリラですが、対米ドルで7.40リラ近辺まで下がり、対円でも14.20円水準まで下がってきました。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
市場が注目しているのは、8月20日(木)に行われるトルコ中銀の政策会合です。トルコ中銀が大幅利上げに踏み切れば、トルコリラは2018年のように大きく反発する可能性があるからです。
しかし、エルドアン大統領の利上げ反対姿勢が続いているため、大幅利上げの可能性は低いと思います。
エルドアン大統領が利上げに反対姿勢を示しているため、トルコ中銀の大幅利上げの可能性は低そう… (C)Anadolu Agency/Getty Images
以前からお伝えしているように、トルコ中銀は、直接、政策金利を上げなくても、裏口利上げに踏み切りました。
【参考記事】
●トルコ中銀は禁じ手使ってリラ防衛に成功! だが、秋以降の相場は荒れる懸念あり(8月5日、エミン・ユルマズ)
●トルコリラ/円、早くも14.50円近辺へ下落。なぜ? 利上げなしに本格的な上昇は困難か(8月12日、エミン・ユルマズ)
先週(8月10日~)から、市場に供給しているトルコリラの量を減らすことを決め、この方法で実質金利を引き上げています。
トルコ中銀は、金利コリドー制度(※)を採用していて、金利コリドーの上限は10%です。トルコ中銀はトルコリラの流動性を縮小することで、実質金利を政策金利である8.25%から金利コリドーの上限である10%に近づけてきました。
実質金利はすでに9.50%を超えていますので、これは1.25%以上の裏口利上げが行われたということになります。
(※編集部注:金利コリドー制度とは、中央銀行の金融政策において誘導目標とする金利に上限と下限を設けて、一定の範囲内で変動するよう促すしくみのこと)
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