■ムーディーズがトルコ国債を「B2」に格下げ
米格付け会社のムーディーズは、9月11日(金)にトルコ国債の格付けを「B1」から「B2」に引き下げました。
B1もB2も投資不適格水準、つまり、ジャンク級ではありますが、トルコにとって、B2は史上最低の格付けとなりました。
格付け会社の格付けには、それぞれ独自のスタンダードがありますので、一般投資家にはわかりにくいところもあります。
簡単に説明すると、ムーディーズのB2は、投資適格水準より5段階下にあるものです。トルコ以外では、エジプト、ルワンダ、ジャマイカなど財務状況が極めて悪い国に与えられています。
トルコ政府からこの引き下げに反発があり、エルドアン大統領は名指しでムーディーズを批判しました。
格付け会社ムーディーズのトルコ国債格下げに対して、エルドアン大統領は名指しでムーディーズを批判した (C)Anadolu Agency/Getty Images
その根拠は、トルコの公的債務対GDPの比率が、これらの国(エジプト、ルワンダ、ジャマイカなど)に比べ、大幅に低いことです。
2019年末で、トルコの公的債務はGDPの33%に相当します。確かに同じ格付けのジャマイカではこの比率は110%、エジプトでは90%なので、トルコの財務状況がこれらの国より良いのは明らかです。
■格下げのおもな理由は、海外投資家の不信感か
では、なぜムーディーズは、これほど低い格付けをトルコに与えたのでしょうか?
そのおもな理由は、政治的不安、つまり、今のトルコ政府に対する海外投資家の不信感ではないかと指摘されています。
政府は、トルコ中銀の判断にすべて口出ししているため、トルコ中銀の独立性が失われています。
その象徴は、必要であるのにも関わらず、トルコ中銀が利上げを実行できないことです。
【参考記事】
●トルコ中銀は次の会合で利上げに踏み切る必要あり! 米大統領選がリラ相場に影響!?(9月2日、エミン・ユルマズ)
■地政学的リスクの高まりも,、格下げの背景に
もうひとつの懸念は、トルコの地政学的なリスクです。
現在、東地中海でギリシャを中心とする周辺国と対立していて、それが、何らかの軍事衝突に発展する可能性まで指摘されています。
【参考記事】
●ガス田発見は、すぐにトルコリラ上昇要因にはならない! 市場は利上げを望んでいる(8月26日、エミン・ユルマズ)
個人的にも、ムーディーズの格下げの背景には、これらの政治的・地政学的なリスクがあるのではないかと思います。
■トルコには、ファンダメンタル面でも大きなリスク要因あり
一方で、経済的なファンダメンタルだけで判断した場合も、大きなリスク要因はいくつかあります。
それは、トルコの外貨準備高の低さと、建設・不動産セクターに依存しすぎているトルコ経済の脆弱さです。
トルコ中銀は、米ドル/トルコリラが7.00リラを超えないように、ずっと直接の為替介入をして、トルコの貴重な外貨準備高を使い切りました。
【参考記事】
●トルコリラ下落…。大幅利上げなら反発の可能性あるが、エルドアン大統領は反対姿勢(8月19日、エミン・ユルマズ)
(出所:TradingView)
シンプルに利上げするのではなく、このような手段に出たのも、やはり政治的な圧力に逆らえなかったからです。
■トルコリラ/円は年内13.50円への下落も覚悟
今週(9月14日~)のトルコリラですが、対米ドル・対円ともに弱い動きが続いていて、米ドル/トルコリラは節目の7.50リラ水準まで上昇、対円でも14円の大台を割る手前まで下がっています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
ムーディーズは、トルコの格付けを引き下げただけではなく、見通しも「ネガティブ」にしているので、今後、トルコリラの売り圧力がさらに強まると予想しています。
(出所:TradingView)
引き続き、9月24日(木)に行われるトルコ中銀の政策会合に注目が集まっていますが、利上げがなかった場合、対円では年内13.50円までの下落を覚悟すべきだと考えています。
(出所:TradingView)
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