■アルメニアとアゼルバイジャンが突然、戦争を始めた
トルコの隣国であるアルメニアとアゼルバイジャンは、突然、戦争を始めました。
アルメニアとアゼルバイジャンは、いずれも旧ソ連諸国で、ソ連崩壊後に勃発した領土問題をめぐって長年対立してきました。
両国はナゴルノ・カラバフ地域をめぐって1992年に戦争をして、多数の犠牲者が出ています。1994年にロシアの仲介で停戦になり、和平交渉が始まりましたが、交渉の結果、平和条約の締結に至っていません。
日本人にはあまりなじみがないので、よくわからない人も多いと思いますが、今回の戦闘で状況をさらに複雑にしているのは、ロシアとトルコの存在です。
アルメニアとアゼルバイジャンの開戦で、状況をさらに複雑にしているのはロシアとトルコの存在だとエミンさんは指摘している。写真は2018年9月に開催された、トルコ、ロシア、イランによる3カ国会談のときのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
■トルコとロシアの覇権争いが影響? 代理戦争第3弾
平和条約の締結はなかったものの、1990年代から平和が保たれた地域が、なぜ、このタイミングで再び戦闘状況になったのでしょうか? その背景には、トルコとロシアの覇権争いがあります。
シリアとリビアの内戦に続いて、アルメニアとアゼルバイジャンによる戦争は、トルコとロシアの代理戦争第3弾です。なぜならば、ロシアはアルメニアと防衛協定を結んでいる一方で、トルコは同じトルコ系民族であるアゼルバイジャンを支援しています。
【参考記事】
●トルコリラは固定相場制のような値動き。新たなトルコとロシアの代理戦争を懸念…(7月22日、エミン・ユルマズ)
戦闘の激化を受け、ロシアが再び介入して両国に停戦を求めました。トルコのエルドアン大統領も英国のジョンソン首相と電話会談を行って、停戦に向けての働きかけを協議したようです。
戦闘激化を受け、エルドアン大統領はジョンソン英首相と電話会談を実施して、停戦に向けての働きかけを協議したという (C)Anadolu Agency/Getty Images
トルコは、はっきりとアゼルバイジャン支援を表明していて、軍事物資を送っていると報道されています。シリアやリビアの内戦で大活躍したトルコ製の軍事ドローンが、アゼルバイジャンにも提供されているとアルメニア側が主張しています。
■トルコ中銀利上げも、実質的な金利は、まだマイナス水準
今週(9月28日~)のトルコリラですが、対米ドル・対円での下落が加速していて、米ドル/トルコリラは7.80リラを超え、対円でも13.50円を割る水準まで売られました。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
9月24日(木)に行われたトルコ中銀の政策会合で2.00%の利上げが行われ、トルコの政策金利は、8.25%から10.25%に引き上げられました。
【参考記事】
●トルコリラの足元の下落は、9月24日発表の政策金利据え置きを織り込んだ動きか(9月23日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)
利上げのニュースを受け、トルコリラは瞬間的に上昇しましたが、その後、再び下落に転じました。その主な理由は、市場が2.00%の利上げに満足していないからです。
(出所:IG証券)
トルコ国内の、来年(2021年)に対するインフレ率期待は、すでに12%に近づいているため、2.00%の利上げでも政策金利は、まだ実質的にマイナス金利の水準です。
そこに世界の主要な石油・天然ガス生産地域のひとつである南コーカサスの政情不安定化も加わり、トルコリラが大きく売られる結果となりました。
アルメニアとアゼルバイジャンの戦争が、直接、ロシアとトルコを巻き込んだ地域紛争に発展する可能性は低いと考えますが、トルコリラは、その可能性も織り込み始めているのではないかと考えます。
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