■オスマン帝国時代のアルメニア人殺害をジェノサイド認定
先週(4月19日~)から、トルコ情勢は目まぐるしく動いています。
米国のバイデン大統領は4月24日(土)に、オスマン帝国時代の1915年に起きたアルメニア人大量殺害事件を「ジェノサイド」だと正式に認めました。
【参考記事】
●東ローマ帝国滅亡からクーデター失敗まで! トルコリラ急落の今、トルコの歴史を振り返る(2018年8月28日公開)
以前もジェノサイドに言及している米大統領はいましたが、正式に認めたのはバイデン大統領が初めてとなります。この声明を受け、トルコ政府は米国に猛反発し、「ジェノサイドという声明を極めて強い言葉で拒否し糾弾する」と発表しています。
バイデン米大統領は、オスマン帝国時代の1915年に起きたアルメニア人大量殺害事件を「ジェノサイド」だと正式に認めた (C)Scott Olson/Getty Images News
トルコの伝統的な立場は、1915年にオスマン帝国政府がアルメニア人を強制移住させた際に、たくさんのアルメニア人が犠牲になったが、組織的な民族浄化が行われたわけではないということです。
トルコ政府は、トルコとアルメニアの国家アーカイブをオープンにし、歴史学者がジェノサイドがあったかどうかを決めるべきと主張してきましたが、あまり反響はなく、EU(欧州連合)諸国を中心にジェノサイドを認めている国が年々多くなっています。
■トルコ政府が「ジェノサイド」という言葉に猛反発する理由
そもそもオスマン帝国とトルコ共和国は別の国家で、現在のトルコは1919年にオスマン帝国政府に反旗を翻した、ムスタファ・ケマル・アタテュルクが建国した国です。
では、なぜトルコ政府はここまで「ジェノサイド」という言葉に反発しているのでしょうか。実はそこに経済的な要因があります。トルコ政府はアルメニア政府や1915年に亡くなったアルメニア人の親族らに対する損害賠償が発生することを懸念しています。ジェノサイドだと認めたくない大きな理由はここにあります。
では米国は、なぜこのタイミングでジェノサイドと認定したのでしょうか。一言でいうと、この事件は米国とトルコの関係がいかに悪化してきたかの象徴です。
米国では、今まで何度もアルメニア人へのジェノサイドが話題になりましたが、トルコとの関係を壊したくない歴代の米政権はそれを認定しようとしませんでした。
トルコ政府のワシントンにおけるロビー活動も効果的で、ジェノサイド認定を阻止できました。しかし、エルドアン政権がロシアや中国に接近したこと、ロシアからミサイルシステムを購入したことなどが米国とトルコの関係を悪化させています。
【参考記事】
●トルコリラはスワップ金利狙うには好環境!? トルコが抱えるリスク、S-400問題とは…?(2019年2月27日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領と仲の良かったトランプ大統領がいなくなり、バイデン政権が誕生したことはエルドアン政権にとってかなり悩ましい問題になっていますし、今後もなり続けるでしょう。
写真はエルドアン大統領とトランプ前大統領。エルドアン大統領と仲が良かったトランプ大統領がいなくなったことは、エルドアン政権にとって悩ましい問題になっている (C)Anadolu Agency/Getty Images
■ハルクバンク裁判の行方とトルコ中銀の5月会合に注目
今週(4月26日~)のトルコリラですが、対米ドル・対円で上昇に転じていて、対米ドルでは8.20リラ水準、対円では13円を超えてきました。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
トルコリラにとって今後の重要なイベントは、米国で続いているハルクバンク裁判とトルコ中銀の5月の政策会合です。
【参考記事】
●インフレ減速と原油下落はトルコに追い風!21円台維持はハルクバンクへの罰金次第か(2018年11月7日、エミン・ユルマズ)
そのため、ラマダンが明ける5月中旬以降に、相場が大きく動くと見ています。
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