過去数年、動きが緩慢だった米ドル/円とユーロ/米ドル。今年は値幅はあったが、他の通貨ペアと比較すると物足りず
みなさん、こんにちは。
今年(2021年)も早いもので、あと1週間を残すのみとなりました。
今年(2021年)はビットコインを筆頭に、仮想通貨が急騰し相対的にいいスタートを切りました。
為替に関しては、エネルギー価格の高騰に追随する形で、豪ドルやカナダドルに注目が集まりましたが、中長期にわたって維持できるような明確なトレンドを形成することはできませんでした。
ここで、通貨の方向性ではありませんが、為替取引が時代の変遷に対応するかのように、注目されている通貨ペアが変化していることをひとつご紹介しておきます。
20年前までは、為替取引といえば対米ドルでの通貨ペアでの取引が中心でした。
たとえば、FOMC(米連邦公開市場委員会)のアクションによって、米金利が上昇した場合、米ドル/円も、ユーロ/米ドルも、そして英ポンド/米ドルも、米ドル/スイスフランもすべて米ドルが上昇していました。
対米ドルの対象国の中央銀行のスタンスは大きな意味を持たず、米ドルの行方のみが重要視されていたわけです。
その後、2000年代に入ると、日本がゼロ金利政策を取るようになり、円キャリー取引に注目が集まります。
結果、リスクオン=「株高、債券安(金利高)、コモディティ(商品)高、コモディティ通貨高、円安、スイスフラン安」というのがコンセンサスとなり、リスクオン、リスクオフの切り替えで、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が好まれて取引されるようになりました。
その後、日本以外の主要国でもゼロ金利政策が一般的となり、円とユーロはファンディングカレンシー(調達通貨)となり、ボラティリティが急激に低下しました。
なぜ、ボラティリティが低下したかといえば、この主要3通貨(米ドル・ユーロ・円)は極めて低金利であり、金利差を主体とした相場のテーマに欠けるからです。
そのため、過去数年の米ドル/円とユーロ/米ドルの値動きは緩慢でした。
値幅だけピックアップしてみれば、今年(2021年)の米ドル/円とユーロ/米ドルは他通貨ペアと比較すると値幅は出ているといえます。ただ、他の主要通貨が動くときとは比較にならないほど、緩慢な動きではありました。
たとえば、2015~2016年にかけてブレグジット(英国のEU離脱)が注目され、下落を始めた英ポンド/円は、約74円も大暴落しています。
(出所:TradingView)
一方、昨年(2020年)のコロナ危機からの株価の反騰に追随して急騰した豪ドル/円は、半年で20円近く急騰しています。
(出所:TradingView)
結果、米ドル/円、ユーロ/米ドルという2大通貨ペアは、時折大きな動きを見せるものの、ほとんどの局面では狭いレンジに終始しているため、トレンドを必要とするFXトレードには向かず、クロス円に注目したほうがよっぽど取引しやすいといえます。
今年、欧米の参加者が注目したのが豪ドル/カナダドル。資源国通貨同士のマイナー通貨ペアに注目が集まる
その後、今年(2021年)に入ると、主要通貨離れはさらに進み、欧米の参加者が注目していたのが、豪ドル/カナダドルでした。
以下の図は、主要通貨の対米ドルの騰落率(12月1日~22日まで)で、対米ドルで一番反発したのが豪ドル、急落しているのがカナダドルとなっています。
豪ドルとカナダドルは、どちらも資源国通貨と言われ、似たような値動きを示しやすい通貨同士の通貨ペアなのですが、その豪ドル/カナダドルが、今月(12月)はもっとも値幅を出しています。
(出所:TradingView)
豪ドル/カナダドルは、ゴールドマンサックスが売りを推奨していたこともあり、今年(2021年)後半は続落していましたが、先月(11月)から調整局面に入り、急騰しているといった要素もあります。
これは、同じように資源国通貨として位置づけられているニュージーランドドルにもいえます。
たとえば、豪ドル/ニュージーランドドルというマイナーな通貨ペアも注目されており、今月(12月)は急反発しています。
(出所:TradingView)
このように、これまでは資源国通貨同士というくくりで、マイナーな通貨ペアといわれていた豪ドル/カナダドル、豪ドル/ニュージーランドドルが、今年(2021年)はピックアップされ、よく報道されていたのが記憶に残っており、そういう時代なんだろうなと思わされました。
2022年も、豪ドルクロスを筆頭にクロス取引が注目を浴びる機会が増えるか
今回取り上げた通貨ペアの特色は、まずどちらも対象通貨が豪ドルであること。
こうしたことも、過去数年、筆者が豪ドルを主体にして取引している要因のひとつでもあります。
もうひとつは、どちらもゴールドマンサックスが売り推奨している通貨ペアでもあること。
今月(12月)、この2つの通貨ペア(豪ドル/カナダドル、豪ドル/ニュージーランドドル)は大きく値を戻していますが、裏を返すと、ゴールドマンサックスの推奨トレードをシンプルにコピートレードしている参加者も多いともいえ、10数年前と比較すると大きく落ちたとはいえ、その影響力はまだ甚大なものがあるなと思わされました。
ともあれ、来年(2022年)も、豪ドルクロス(豪ドルと米ドル以外の通貨との通貨ペア)を筆頭に、クロス取引が注目を浴びる機会が増えるのではないかと想定しています。
カナダドルが再び上昇トレンドに戻ることを想定。原油の行方に注目
では、次に主要通貨の行方を探ってみましょう。
ポストコロナの影響なのか、今年(2021年)はすでに、サプライズが始まっています。
過去のコラムでご紹介させていただいたとおり、いくつかの米銀では2022年の注目通貨としてカナダドルがピックアップされています。
【参考記事】
●【2022年の注目通貨は?】カナダドルへの注目度は高い。しかし、市場心理が一変した豪ドルの、上昇スピードが加速する可能性も!(12月9日、西原宏一)
モルガンスタンレーなどは来年(2022年)末、米ドル/カナダドルで1.12カナダドルの予想を出しているようです。
(出所:TradingView)
これらの予想は来年(2022年)の予想なので、問題は年明けからのカナダドルの動向になります。ただ、これまでは、そうした主要米銀の予想を12月に織り込みにいくのが一般的でした。
その後、2月ごろまでにある程度マーケットがカナダドルのロング(買い)になり、調整で大きく反落するというのが例年よく見られる光景ともいえます。
ところが、今年(2021年)は11月末に新型コロナウイルスの新たな変異種オミクロン株の報道でリスクアセットが大きく下落。
カナダドルも大きく売られ、米ドル/カナダドルは、一時1.3000カナダドル近くまでカナダドル安が進みました。
筆者は12月の調整後、カナダドルは再びアップトレンドに戻る可能性があると想定していますが、カナダドルは原油の動きに大きく左右されるところもあり、原油の行方にも注目です。
最近はサプライズがないほうがサプライズと言われるほど、為替市場もコンセンサスとは大きく相違する動きをみせることも多いので、それを念頭に2022年の相場を構築しようと考えています。
2022年は豪ドルの反発に注目。豪ドル/米ドルの目先のターゲットは0.7500ドル、そして0.8000ドルに向かう展開を想定
筆者が来年(2022年)注目している通貨は、前回のコラムでご紹介させていただいたように豪ドルの反発。
【参考記事】
●豪ドル/米ドルは、0.7500ドルへの反発開始!FOMCで信頼を回復したFRB、マーケットは(12月16日、西原宏一)
今年(2021年)豪ドルの上値を抑えていたのが、コモディティの反落。
筆頭は鉄鉱石の急落でしたが、先週(12月13日~)からの反発は継続しており、本稿執筆時点では、120ドルレベルまで値を戻しています。
鉄鉱石の反発は、中国経済の復活を連想させます。
中国政府は今年(2021年)、大手テクノロジー企業や不動産セクターへの依存度を下げるべく不動産業界への融資を制限したことなどから、世界的機関投資家は中国株にネガティブに反応。
香港市場のオフショア中国株は今年(2021年)、世界的にもパフォーマンスの悪さが際立っていました。ナスダック・ゴールデン・ドラゴン中国指数は2月の高値から50%超下落。
(出所:TradingView)
MSCI中国指数は世界の株式に対し、2006年以来の低水準近く落ち込んでいます。
ただ今月(12月)に入り、多くの機関投資家は中国経済に対し前向きになっています。
ブラックロックは規制のピークが過ぎ去ったとみて、年明け後は経済促進策の強化が効果を発揮し始めると見込んでいる。
出所:Bloomberg
中国政府が打ち出した「共同富裕」の発表から、多くの参加者は中国経済に対してネガティブな見方が増えてきているため、上記のように楽観的な見方が増えると、マーケットがそれを織り込む形で、豪ドルは主要通貨に対して大きく値を上げるのではないかと想定しています。
加えて、先週(12月13日~)からの天然ガスの急反発も豪ドルにとって追い風。
豪ドル/米ドルのターゲットとしては、前回のコラムのとおり、まず0.7500ドルの回復。そして、次が0.8000ドルだと想定しています。
【参考記事】
●豪ドル/米ドルは、0.7500ドルへの反発開始!FOMCで信頼を回復したFRB、マーケットは(12月16日、西原宏一)
(出所:TradingView)
豪ドル/円だと、まず85円の回復。
(出所:TradingView)
中国経済とエネルギー価格の動向を横目に、来年(2022年)も豪ドルの行方に注目です。
本年もご愛読いただきまして、ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えください。
※次回の配信は2022年1月6日(木)の予定です。
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