米ドル/円10円暴落で退場に…。「湾岸戦争」から得た大相場を生き残る術とは?
みなさん、こんにちは。
「セル・ザ・ルーマー、バイ・ザ・ファクト(ウワサで売って事実で買う)」という相場の格言があります。この有名な格言は、具体的には次のような意味になります。
例えば、あるイベントに対し、マーケットが悪材料とする場合には、先んじて株式を売っておき、そのイベントが事実として明確になった場合は、売却していた株式を即座に買い戻すべしというものです。
長きに渡ってトレードに携わってきた筆者のようなトレーダーは、この言葉がかなり体に浸透しており、いつも身構えているといえます。
特に筆者の場合、「湾岸戦争」開始時にかなり痛い目にあったからです。
湾岸戦争とは、1990年8月2日のイラクによるクウェート侵攻をきっかけに、国際連合が多国籍軍(連合軍)の派遣を決定し、1991年1月17日にイラクを空爆して始まった戦争のことを指します。
写真は「湾岸戦争」開戦時の様子。1991年1月17日、「湾岸戦争」は多国籍軍によるイラク空爆で開戦した (C) Laurent VAN DER STOCKT/Getty Images
当時、「有事は米ドル買い」というのが相場のルールでした。
1991年1月17日のイラク空爆を織り込む形で、年末から年始にかけて米ドル/円は押し目もなく続伸を続けます。
当時、筆者はマーケットのコンセンサスに合わせて、米ドルロング(買い)を維持し、かなりの収益を積み重ねていました。
その当時、筆者の心理は「有事は米ドル買い」であり、年末年始にかなり収益を積み重ねていた事もあって、振り返れば心理的なスキがあったのだと思います。
そして空爆が始まった時の米ドル/円は、瞬間的に2円ほど急騰。
引き続き「有事は米ドル買い」と思った次の瞬間から、米ドル/円は10円ほど暴落し、収益はプラスから大きなマイナスに変わり、その日は退場するハメになってしまいました。
つまり、ここでは「バイ・ザ・ルーマー、セル・ザ・ファクト(ウワサで買って事実で売れ)」という言葉を大きな痛手とともに体感することになり、その後の大きな相場で生き残る術を身につけたともいえます。
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ロシアのウクライナ侵攻「バイ・ザ・ファクト」になるタイミングを狙っていた
こうした経験から、今回のロシアのウクライナ侵攻が「ウワサから現実のもの」となり、バイ・ザ・ファクトになるタイミングを狙っていました。
そして、先週(2月21日~)24日(木)、ロシアによるウクライナ侵攻が現実のものとなります。
個人的には、株とリスクアセットである豪ドルのショート(売り)を手仕舞い、同日(2月24日)のNY市場でナスダック総合指数が値を戻すのを確認して、豪ドル/円も日経平均もロングに転じました。
この「セル・ザ・ルーマー、バイ・ザ・ファクト」という格言は、トレードの基本中の基本ともいえ、筆者を含めマーケット参加者の多くが、リスクオフからリスクオンにポジションを変更したと想定されます。
それでは、この動きが続くかどうかを検証してみましょう。
それに関しては、3月2日(水)、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長が大きなヒントをマーケットに提示してくれます。
パウエル議長は「3月の0.25%の利上げを提案し、支持する方向に傾いている」とコメント。加えて「インフレが高過ぎる状態が続けば、より大幅な利上げの可能性を閉ざさない」とも表明。
さらに「米国経済は利上げに耐えられる」との見方を示したほか、「緩和解除を慎重に進める」と表明したことが、米国株の買い安心感につながった展開。
パウエル議長の発言で、FRBの大幅利上げ予想が後退。米国株は大幅反発
パウエル議長のコメントにより、3月2日(水)の米国株は反発。
ナスダック総合指数はプラス1.6%。米国債利回りは急伸し、2年債利回りは一時1.51%に上昇しました。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
つまり、ウクライナ情勢の悪化が、FRBの大幅利上げ予想を大きく後退させています。
振り返れば、ナスダック総合指数は、FRBの大幅利上げを懸念して1月から調整が始まっています。
【参考記事】
●豪ドル/円、ユーロ/豪ドルでの豪ドル売りが拡大すると予想。ウクライナ関連が沈静化しても、米国株の下げ基調は変わらない(2月24日、西原宏一)
そのFRBが大幅利上げを否定したわけですので、ナスダック総合指数は、当然反発するわけです。
ただインフレが続く中、利上げを停止したわけではありませんので、ナスダック総合指数は反発するものの、再び最高値を更新するといったような展開ではなく、急落した反動という流れでしょうか。
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北半球で地政学リスクが高まれば、足の速い資金は南半球に避難する傾向がある
インフレを封じ込めるための米利上げ観測が後退しているわけですので、コモディティ(商品)は堅調推移。
結果、資源国通貨は対円で続伸しています。
まず、原油通貨ともいえるカナダドル。
3月2日(水)には、ウクライナ問題を横目に、BOC(カナダ銀行[カナダの中央銀行])は政策金利を0.50%に引き上げています。30年ぶりの高水準にあるインフレとの闘いに乗り出した格好で、今後の追加利上げも示唆しています。
そのため、カナダドル/円は91.48円まで上昇しました。
(出所:TradingView)
一方、筆者が注目しているのは、豪ドルとニュージーランドドル。
この両オセアニア通貨は、コモディティ通貨であると同時に、南半球の通貨であるということも特徴のひとつ。
このところ、北半球で地政学リスクが高まれば、足の速い資金は南半球であるオセアニア通貨に避難する傾向があると指摘するのが、シンガポールの友人。
【参考記事】
●豪ドル/米ドルや豪ドル/円の押し目買いで!ウクライナ情勢で核の恐怖が現実的なものとなり、資金は「北半球から南半球」へ(2月28日、西原宏一&大橋ひろこ)
ロシアのウクライナ侵攻後の為替の動きを確認。資源国通貨は軒並み堅調
それを確認するため、ロシアのウクライナ侵攻後の為替の動きを確認してみます。
以下のグラフは、主要通貨の対米ドルの騰落率(ロシアのウクライナ侵攻後~3月2日まで)。
上昇しているのが豪ドル、ニュージーランドドル、カナダドルの資源国通貨。そして下落しているのが、ユーロや英ポンド。
総じてみれば、ロシアのウクライナ侵攻後はリスクアセットのコモディティ通貨が値を上げていることになります。
一方、ユーロ/米ドルの上値は重いままで、本稿執筆時点でも1.1100ドル水準で推移。(安値は1.1058ドル)。
(出所:TradingView)
ロシアのウクライナ侵攻が、ECB(欧州中央銀行)のタカ派姿勢も後退させることになるため、ユーロの上値は重いまま。
ただロシアのウクライナ侵攻という欧州にとって歴史的悪材料を受けても、ユーロの下落は緩慢。
筆者の使用しているチャートのインジケーターを見ると、ユーロ/米ドルは、来月(4月)にボトムをつけそうな形になっていることもあり、ダウンサイドも徐々に限定的になってきているのではないかと想定しています。
ロシアのウクライナ侵攻で、マーケットは「バイ・ザ・ファクト」の流れとなり、ナスダック総合指数は反発。
インフレを封じ込めるための「米国の大幅利上げ」予測は、ロシアのウクライナ侵攻により大幅に後退。
結果、資源国通貨は上昇トレンドに戻り、豪ドル/円は、一時84.44円と年初来高値を更新。豪ドル/米ドルも年初来高値である0.7314ドルに迫る0.7307ドルまで上昇。
今回の、ロシアのウクライナ侵攻というリスクオフ局面でも0.7000ドル割れが底堅いことを確認した豪ドル/米ドルは、中期では再び0.8000ドルに向けて上昇を再開したと想定しています。
(出所:TradingView)
ウクライナ問題は長期化する可能性も高まっていて、欧州通貨はまだ不安定な展開に終始するのでしょうが、インフレを背景に、豪ドルを筆頭に上昇基調に回帰した資源国通貨に注目です。
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