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財務省の公表している資料から、生保が大量に外債を売却していることが話題に
財務省は「対外及び対内証券売買契約等の状況」を週次と月次で出していますが、月次には「指定報告機関ベース」と運用主体別の売買状況が発表されるため、重要な情報源となっています。
ただ、この報告書には読み方があり、プロでも間違った解釈をしている人が多く見られます。
8月8日(月)に発表された7月の「対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベース)」では、生命保険会社(以下、生保)が大量に外債を売却しているということで話題になっています。
【参考コンテンツ】
●対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベース)
報告書の2ページ目、その他の金融機関というところに、生保が1兆5622億円、中長期の外債を売却したと報告されており、生保が1.5兆円程円買い・米ドル売りしたと言われています。
(出所:8月8日に財務省が公表した対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベースより一部抜粋))
しかし、外債投資には2つの方法があります。為替リスクをフルヘッジした「ヘッジ付き外債」と、為替ヘッジしない「オープン外債」です。オープン外債の部分を売却したのであれば、1.5兆円ほどの円転があってもおかしくありませんが、ヘッジ付き外債を売却した場合、為替は発生しません(通貨の交換は行わない)。
【参考記事】
●米ドル/円は112円の大きなサポートを割り込むと、強気シナリオが大きく後退する。米国株が崩れれば、「米ドル安・円高」に(1月19日、志摩力男)
●本邦投資家の外債投資が、ドル/円の重しに。欧州のワクチン接種進展で、ユーロ反発へ(2021年4月14日、志摩力男)
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生保の中長期外債投資が為替に影響を与える時代は終わった…。「ヘッジ付き外債」が7~8割
では「ヘッジ付き外債」と「オープン外債」の比率はどの程度なのか?
毎年、生保各社は運用方針を発表しており、おおよその方向性については伺い知ることができますが、その比率についてははっきりとは書かれていません。
私自身、正確な数字を知っているわけではありませんが、知り合いの大手生保運用者に聞いたところでは、ほとんど「ヘッジ付き外債」です。オープンに積極的な会社もあるかもしれませんが、ざっと7~8割は「ヘッジ付き外債」と考えて良いと思います。
よって、1.5兆円の円買い・米ドル売りが出たのではなく、多くてその2~3割程度でしょう。生保の中長期外債投資が為替市場にインパクトを与える時代はずいぶん前に終わっています。
同じ表に銀行等(銀行勘定)という欄があります。ここはかなり大規模に中長期外債の売買を行います。しかし、ここでも為替は出ません(通貨の交換は行わない)。外貨を短期市場で調達し、それを中長期債で運用します。長短金利差が収益源です。ちなみに今期は米金利上昇=債券価格下落にやや苦しんでいるようです。メガバンク3行で含み損が2.6兆円と報じられています。
3メガバンク、外債含み損2.6兆円 米金利上昇で膨らむ
(出所:日経新聞)
実は、先月分(令和4年6月)の「対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベース)」を見ると、外債の売りはもっと巨額でした。
生保が8000億円、銀行が3.2兆円も売っていますが、話題になりませんでした。6月の米ドル/円が比較的堅調だったからということもあると思いますが、銀行(銀行勘定)や生保の外債売買は為替にあまり関係ないということがわかると思います。
この「対外及び対内証券売買契約等の状況」で見るべきところは、信託銀行(信託勘定)の項です。その部分は、年金の動きがわかります。今は事実上ほぼGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のみと考えられます。
7月、GPIFは中長期債を8658億円売却しています。相当の金額ではあります。
(出所:8月8日に財務省が公表した対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベースより一部抜粋))
では、GPIFは円買い・米ドル売りをしたのでしょうか?
よく見ると、株式・投資ファンド持分のところで7486億円購入しています。
(出所:8月8日に財務省が公表した対外及び対内証券売買契約等の状況(月次・指定報告機関ベースより一部抜粋))
つまり、ほぼ売買が相殺されていることがわかります。GPIFは株価下落を受けてポートフォリオの外国株を買い増ししたのでしょう。そして、その資金確保のために外債を売却した、そういうストーリーが描けます。
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7月の円高は、ソフトバンクグループのアリババ株売却が影響したと見る理由とは?
それでは、7月の円高は、単に投機筋がロング(買い)ポジションを投げただけだったのでしょうか。
そうかもしれませんが、もうひとつ話題になっている動きがあります。ソフトバンクグループによるアリババ株売却です。
アリババ株、大量売却か=ソフトバンクG、3兆円調達―英紙
(出所:時事通信)
実際に、どの程度売却が済んだのかわかりませんが、今回の米ドル/円下落の一部にソフトバンクグループの円買い・米ドル売りがあった可能性は濃厚だと思います。
なぜなら、円高は東京時間に起こったからです。しかも大体9時過ぎぐらいに円高が進みました。かつて正式には、東京為替市場は9時オープンでした。それを律儀に守っていると言うのは、流動性の問題もありますが、邦銀を経由した大量売買だったからでしょう。
売り方も、丁寧に売るのではなく、とりあえず大量の米ドルを円転したという、結構アバウトな売り方でした。
それも、ソフトバンクグループらしさがあります。その動きに投機筋のストップロス(損切り)が巻き込まれ、大きな動きになったのでしょう。投機筋のロングポジションの投げと合わせると、数兆円規模の円が買い戻されたと推測されます。
(出所:TradingView)
これで7月の円高がそれなりに急激だった理由が解けた感じがします。今後もFRB(米連邦準備制度理事会)は利上げを続けるのでしょうが、こうした円買い戻しもところどころで入る局面になってきたのでしょう。米ドル/円相場も、向こう数カ月はもみ合い局面となるのかもしれません。
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