■昨年夏ごろから、マーケットで起きたことを振り返る
昨年(2020年)夏ごろ、多くの人は、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融緩和は向こう数年続く。数年利上げがないのだから株価は上昇し、米ドルは下落。金価格は上昇を続ける、と思っていました。
事実、その後のジャクソンホール会議でパウエル議長は、「平均インフレ率」という概念を提唱し、インフレ率が平均して2%を超えない限り、金融引締しないと明言しました。
パウエル議長の方針は、その後も一貫しています。新型コロナウイルスの影響を強く受けている産業、人々がいるので、緩和的政策は続けなければならないと。
パウエルFRB議長は一貫して緩和政策を続けることを提唱しているが、マーケットで起こったことは米長期金利の上昇だった (C)Bloomberg/Getty Images News
しかし、マーケットで起こったことは、米長期金利の上昇です。インフレを容認するのなら、米長期金利はインフレ率以上に上昇しないと投資する価値がありません。
米長期金利の上昇は、民主党がジョージア州の決選投票を制してトリプルブルーを実現すると、加速しました。2020年夏ごろ、0.5%前後だったものが、あっという間に1.7%となり、米長期金利の上昇に為替市場でも米ドル高が進んで、金価格は低迷しています。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
手前味噌ですが、私は昨年(2020年)の夏に、金価格が高すぎるので、大幅に調整するのではないかと考えましたが、そのとおりの動きになっています。
【参考記事】
●ユーロ/米ドルの巻き返しに注意!マーケットはコロナ克服を織り込み始めたか(2020年8月26日、志摩力男)
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■「ヘッジ付き」外債投資が、米ドル/円の重しになる皮肉
では、今、マーケット参加者の多くはどう思っているかというと、米長期金利の上昇は続く、よって米ドルは上昇を続けると……。
米長期金利が大きく下がることはないでしょうが、もうすでにかなり上昇しているので、目先は1.6~1.7%前後のところで安定するのではないでしょうか。
(出所:TradingView)
というのも、1.7%という米長期金利は、日本の長期金利がほぼゼロであることを考えると、本邦の機関投資家にとって垂涎のレベルです。為替リスクを取らない、ヘッジ付き外債投資でも1.3%ぐらいの利回りが確保されるようです。
つまり、本邦機関投資家は新規投資を開始するのですが、ヘッジ付き外債があまりにも魅力的なので、積極的に行うことになるでしょう。その投資は「ヘッジ付き」なので、米ドル買い・円売りが生じません。
そのため、日本の投資家が新規投資を大量にすればするほど、それは米長期金利を低下させるので、むしろ米ドル/円の売り材料となってしまうという皮肉な関係性があります。
(出所:TradingView)
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■米ドル上昇を邪魔する、各国ワクチン接種の進展
もう1つ、米ドル上昇の邪魔をする要因があります。前回のコラムでもご紹介しましたが、ワクチン接種の進展です。
【参考記事】
●ワクチン争奪戦後、市場は欧州経済復活を織り込むか。ユーロは1.20ドル台回復も(4月7日、志摩力男)
ワクチン接種に関しては、英国と米国がワクチン確保に成功し、非常に速いペースで接種を進めていますが、そのうち欧州もそれに追いつくはずです。以下は、先週(4月5日~)終わり時点の、各国のワクチン接種率を比較したものです。
英国 48.3%、米国 36.8%、ドイツ16.3%、日本 0.9%
※4月9日時点
(出所:Our World in DATA)
明らかに米国と英国が進んでおり、為替市場でも英ポンドと米ドルが買われていました。しかし、ワクチンはそのうち世界中に行き渡り、接種も進みます。その中でも、欧州は早いでしょう。単に時間の問題です。
そうであるならば、ユーロが買い戻され、英ポンドや米ドルが落ちることが予想されます。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
米ドル/円に関しては、まだ少し時間がかかりそうですが、さらなる上昇のためには米長期金利が一段と上昇しなければならないでしょう。それには、時間がかかりそうです。
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