7月の米ドル/円は139.39円から130円台半ばまで、実に9円も下落。背景は米景気の早期後退懸念
いよいよ9月がスタートしましたが、ここで7月、8月の円相場を振り返ってみたいと思います。
7月前半は米ドル高が進み、米ドル/円は139.39円の年初来高値を更新する局面がありました。しかし、その後相場は崩れ130円台半ばまで米ドル安・円高が進む場面がありました。実に9円ほど下落しました。
(出所:TradingView)
その背景は端的に言えば1つです。7月に入ってから、米国の経済指標で事前予想を下回る結果が続いたことで、「利上げによって、米国の景気が思ったより早く後退するのではないか」との懸念が広がったことにあります。
【参考記事】
●米ドル/円は週足チャートを見ると、130円程度までの下落もありそう。米国の景気の落ち込みが、予想より早く到来する可能性(7月29日、今井雅人)
現在の利上げは、インフレを抑制するためのものであることは言うまでもありません。利上げをすれば、消費活動や投資活動が徐々に停滞してくるので、物の値段が上がらなくなってくるというロジックです。
つまり、インフレを抑えるためには、景気をある程度落ち込ませることが必要だということです。
ですから、利上げで景気が落ち込むということはある意味当たり前のことなのですが、そのスピードが速いと、利上げのペースが鈍ってくるのではないかということが米ドル安を誘発した原因となりました。
そして、その後発表された経済指標は、良い結果と悪い結果が入り混じって、指標の結果に相場は上下動を繰り返す展開が続いていました。
【参考記事】
●米ドル/円は、しばらく130~135円のレンジになると想定。経済指標の結果に振り回されそう、荒い相場では短期トレードに徹したい(8月4日、今井雅人)
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FRB関係者のインフレ抑制に対する強い決意を市場が感じ、再び米ドル高に向かっている
しかし、そんな中でも徐々にまた米ドル高に戻ってきています。それはどうしてでしょうか?
(出所:TradingView)
その理由はFOMC(米連邦公開市場委員会)のメンバーであるFRB(米連邦準備制度理事会)関係者のインフレ抑制に対する強い決意を市場が感じてきたからです。その代表的なものを1つ紹介します。
先週(8月22日~)、ジャクソンホールで行われた経済シンポジウムの場で、パウエルFRB議長が講演を行いました。彼の発言で重要であると思われるところを抜粋すると以下の通りです。
「インフレを抑え込むには家計や企業に何らかの痛みをもたらすことになるが、それは避けられないコストだ。ただ、物価の安定を取り戻すことに失敗すれば、もっと大きな痛みを伴うことになる」
「インフレを抑制するまで金融引き締めはやり遂げなければならない」
「物価の安定を回復させるためには、金融引き締め策を一定期間維持することが必要となる可能性が高い」
「歴史は時期尚早な金融緩和を強く戒めている」
などなどです。つまり、利上げで景気は落ち込むが、それよりインフレが収まらない方がよほど問題である。FRBはインフレ抑制を最重要に考え、これからも積極的に利上げをしていくということを強調しています。
さらに、最近になって「来年にはFRBは利下げに転換するのではないか」という観測が広がっていることに対して、「そんな議論を今するのはあまりにも時期尚早である」と一蹴しているわけです。
パウエルFRB議長は、ジャクソンホールで行われた経済シンポジウムの講演で、FRBはインフレ抑制を最重要に考え、これからも積極的に利上げをしていくことを強調。来年の利下げに関する議論は時期尚早と一蹴した (C)Bloomberg/Getty Images News
他のFOMCメンバーも同様の発言を繰り返してしてきていますが、こうした首尾一貫した当局の姿勢を見て、市場もやはり、当面利上げのペースは減速せず、年末には政策金利であるFFレート(※)が4%程度にまで上がるとの予想が主流となってきていることで、再び米ドル高に向かっています。
(※編集部注:「FFレート」とは、フェデラルファンド金利のことで、FF金利とも呼ばれる。米国の政策金利)
【参考記事】
●米ドル/円は139円台、ユーロ/米ドルは0.98ドル程度が当面の目標に! 米国の長期金利が上昇しても米ドルが上昇しない状況は、いずれ米ドルの上昇で修正される(8月25日、今井雅人)
●米ドル/円は、139円台が再び視野に入ってきた! 9月FOMCの利上げ幅が0.5%でも0.75%でも、中期的な米ドル高に変化なし! 米ドル買いのポジションをキープしたい(8月19日、今井雅人)
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米ドル/円が24年ぶりの高値を更新。新たな上のレンジを目指す可能性はかなり高い
もちろん、これからの指標がどんどん悪化すれば、また状況は変わってきますが、米ドル/円は本日(9月1日)、年初来高値を上抜け24年ぶりの高値を更新して買われています。
今の状況では、大きなショックがなければ、新たな上のレンジを目指す可能性はかなり高いと思います。
(出所:TradingView)
ただ、ユーロ/米ドルに関しては、最近ECB(欧州中央銀行)の関係者が「ECBも利上げのペースを上げるべきだ」という発言をしており、FRB、ECB共に利上げを実施していくということで、少し綱引きのような状況が続くかもしれません。
ですから、パリティ(1ユーロ=1.00ドル)を大きく割り込んでいくような展開はあまり期待できません。
(出所:TradingView)
また、今週、金曜日(9月2日)に米国の雇用統計が発表されますが、今後の方向を占う点において非常に重要です。
事前予想は失業率5.3%、非農業部門就業者数の増減は30万人の増加となっています。注目しておきましょう。
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