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ビッグイベントが続いた「勝負の週」を振り返る
今週(6月11日~)は、米CPI(消費者物価指数)、FOMC(米連邦公開市場委員会)、ECB(欧州中央銀行)理事会、日銀金融政策決定会合とビッグイベントが続く「勝負の週」でした。
それぞれのイベントを振り返るとともに、今後のマーケットについて考えてみます。
はじめに米CPIは、総合が対前月比+0.1%(予想+0.2%)上昇、対前年比が+4.0%(予想+4.1%)上昇となり、予想対比で少し低下しました。
一方、このところあまり下がらず重要視されているコアの数字は対前月比+0.4%(予想+0.4%)上昇、対前年比+5.3%(予想+5.2%)上昇となり、対前年比が予想を若干上回りました。
基本的に、市場予想と大きく変わらずサプライズはありませんでした。コアの数字がなかなか下がらない、この点がパウエルFRB議長を悩ませています。
そして、FOMCの結果には驚かされました。ドットチャート(ドットプロット)の2023年末の金利予測でもっとも多かったのが5.50-5.75%の部分で、これは今年(2023年)あと2回の利上げを意味します。
(出所:FRB)
1回程度の上方シフトと市場は考えていたので、2回はサプライズ。米ドル/円は139円台で推移していましたが、財務省、金融庁、日銀による3者会合発表時の高値140.93円を突破して、141.50円前後まで急騰しました。
(出所:TradingView)
ECB理事会は0.25%利上げを決定。ラガルド総裁は7月の利上げを示唆
しかし、翌日(6月15日)のECB理事会の結果発表時、驚くことが起きました。
ECBは21時15分に0.25%の利上げを発表し、中銀預金金利を3.50%に引き上げました。
21時30分には米小売売上高をはじめ複数の経済指標が発表になったのですが、新規失業保険申請件数の改定値に反応し(26.2万件)米10年債利回りが低下(前日の3.84%前後から3.70%前後へ)、米ドル安の反応となったのです。
その米ドル安も、米ドル/円が下落するだけでなく、ユーロ/米ドルが重要な1.0900ドルのレジスタンスラインを突破したり、英ポンド/米ドルが1.2700ドルの重要なレジスタンスラインを突破するなど、対欧州通貨で米ドル安が進みました。
そして、この上昇の結果、英ポンド/米ドルなどでは、テクニカル的に大きな底入れのシグナルとなりました。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
ECBは予想通り0.25%利上げ。物価見通しも2023年+5.4%、2024年+3.0%、2025年+2.2%とそれぞれ0.1%ずつ上方修正し、決してハト派的な内容ではありませんでした。ラガルド総裁も会見で7月利上げを示唆しました。
とはいえ、年内2回の追加利上げを示唆したFOMCの内容と比べると、タカ派度は落ちます。欧州経済は米国経済より弱く、ドイツが2期連続のマイナス成長となりましたが、欧州全体も先日発表されたGDP改定値がマイナス0.1%の成長となり、テクニカル的にはリセッション(景気後退)入りしています。その一方、インフレ率はなかなか下がらないので、そこがFOMCでも焦点となりました。
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なぜ米ドルが売られて、ファンダメンタルズの悪いユーロや英ポンドが買われるのか
英国のファンダメンタルズの悪さは、多くの人が認めるところ。先進国でもっとも高いインフレ率は、やはりブレグジット(英国のEU離脱)の影響で人も物も入ってこなくなったからと考えられています。
トラス政権のときには、稚拙な経済政策からギルト債(英国債)が暴落し、英ポンド/米ドルは1985年、37年前の史上最安値1.0520ドルを割り込み、1.0357ドルまで下落しましたが、またその安値に挑戦するときが来るのではないかと私自身は考えていました。
こうした、必ずしもファンダメンタルズの良くない欧州のユーロ、英国の英ポンドが買われ、チャート上で大きなリバーサルを示唆するような格好になっているのは、我々が気付いていない何か大きな変化が起こっているのかもしれません。
チャート上の変化は、ファンダメンタルズの変化に先行するとは、よく言われることです。
ユーロや英ポンド以外でも、米ドル/カナダドルもこのところの1.3300カナダドル~1.3900カナダドル前後のもみ合い圏を下抜け、下落トレンド入りしそうです。
(出所:TradingView)
米ドル/スイスフランも、2021年1月安値0.8757フランを下抜ければ、スイスショック時の安値挑戦が見えてきます。
(出所:TradingView)
ですが、今年(2023年)あと2回利上げする事になっている米ドルがどうして売られるのか。そのロジックが容易に浮かびません。「脱ドル化」とは言われていますが、陰謀論者の大好きなシナリオ通りに現実世界が動くとも思えません。
事実上、今でも米ドルが世界の基軸通貨であり、その地位が揺らぐようには今のところ見えません。
しかしチャートから浮かび上がる世界は、円以外の通貨での米ドル安がスタートするかもしれないことです。
今年後半はクロス円の上昇に賭ける展開になるか
一方、米ドル/円においては、日銀が世界で唯一とも言える超金融緩和を続けていることから、容易に円高に転じるとは思えません。
植田日銀総裁は、就任前はYCC(イールドカーブ・コントロール)等に対する批判から、いつかは政策変更に踏み切ると見られていましたが、今のところは黒田前日銀総裁と変わるところはありません。ちょっと丁寧に説明する黒田さんです。
ここからイメージできることは、ユーロ/円や英ポンド/円といったクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が今後大きく上昇しそうということです。
今月(6月)、ユーロ/円は安値148.62円、高値154.71円と、6.09円上昇しています。英ポンド/円は安値172.66円、高値180.85円と、8.19円上昇しています。
豪ドル/円は安値90.30円、高値97.26円と6.96円上昇しています。豪ドル/円はかなり買われすぎと言えます。ユーロ/円の1カ月で6円の上昇は、まあまあの動きですが、4月には8円近く上昇したことを考えると、まだ上昇余地はあります。
上値の余地ですが、仮にユーロ/米ドルが本当に反転した場合、1.11ドルを抜けたら1.15ドル、そして1.20ドルとなるでしょう。
そうなれば、米ドル/円が現状は141円前後でも、169円とリーマンショック前の高値近辺となります。英ポンド/円は、リーマンショック前の250円はさすがに無理だと思いますが、2015年の高値195円はあるのかもしれません。豪ドル/円は、100円、そしてリーマンショック前の108円近辺でしょうか。
にわかには信じがたいのですが、今年(2023年)後半は、こうしたクロス円の上昇に賭ける展開になるのかもしれません。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 日足)
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米ドル安が起こるロジック、米国経済のリセッションシナリオはひとつの理由になる
ただ、円以外の通貨で米ドル安が起こるロジックが浮かばないと書きましたが、何かつじつまが合う理由があるとすれば、米国経済がリセッションに向かうというシナリオです。
新規失業保険申請件数の改定値が26.2万件と、通常であれば無視されるような経済指標に激しく反応するのは、債券市場の参加者が、イールド・カーブの逆転が意味するのは米景気後退であり、少し時間がかかってはいますが、やはりいずれ来ると信じているからです。
だからこそ、あと2回利上げとFOMCで言われても、米10年債利回りは3.7%前後から上昇していかないのです。
この米国経済のリセッションシナリオの場合、ユーロ/米ドル等は反転するでしょうが、その時の米ドル/円は下落する可能性があります。
この場合は、クロス円の上昇シナリオではなく、単純な米ドル安シナリオになると考えられます。
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