高市政権の経済ブレーン、会田卓司氏は「民間貯蓄が余っている状態では、政府が国債を発行してお金を使うべき」と主張
みなさん、こんにちは。
2025年11月現在、高市早苗政権の経済政策を支える「経済ブレーン」として名前が挙がる方がいます。クレディ・アグリコル証券チーフエコノミストの会田卓司(あいだ・たくじ)さんです。
高市首相が掲げる「サナエノミクス」の理論的支柱となっている人物であり、為替や債券市場を見るうえでも、彼の発言や理論は非常に重要になります。
彼がなぜ高市政権の「経済ブレーン」と呼ばれるのか。それは、会田さんが自民党内の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」の勉強会で講師を務めるなど、高市氏の経済政策形成に深く関わってきたからです。
そんな会田さんは、財政規律を重視する財務省が目標として掲げる「プライマリーバランス(PB)黒字化」に対し、強く反対する立場をとっています。
つまり、「財政赤字を減らすべき」「国の借金を抑えるべき」という従来の財政規律の考え方に反対し、「民間貯蓄が余っている状態では、むしろ政府が国債を発行して支出(=負債、赤字)を増やすべき」という逆の主張をしているということです。
ここでポイントなのは、「民間」が企業と家計を指すということ。
企業がお金を使わずに貯め込んでいるなら、家計も将来不安から貯蓄を増やし、誰もお金を使わないため経済が縮んでしまいます。その分、政府が国債を発行してお金を使わないと、経済が回らないというのが会田さんの主張です。
そして、経済全体でお金を回っているかを見るうえで、会田さんが参考にしているのが「ネットの資金需要」です。
その計算式のイメージは「企業貯蓄率+財政収支」。企業貯蓄率がプラスなら企業がため込んでいる、財政収支がマイナスなら政府がお金を使っている(政府の赤字)という見方で、この2つを足し合わせて経済全体でお金が回っているかを見ていきます。
「政府の赤字は民間の黒字」というMMT(※)に近い側面もありますが、「ネットの資金需要」はより実務的・市場分析的なアプローチで、これが高市さんの「戦略的な財政出動」の理論的裏付けになっています。
(※編集部注:「MMT」とは、政府が自国通貨建ての借金(国債)を増やしても財政は破綻することなく、インフレもコントロールできる。したがって、借金を増やしてでも積極的に財政出動すべきだとする理論のこと)
こうしたことを解説していると極めて長くなりますので、ここでやめておきますが、彼のスタンスに賛否両論はあるものの、金融関係者は当然、彼のコメントに注視しているところがポイントです。
★ザイFX!で人気の西原宏一さんの有料メルマガ「トレード戦略指令!」では、タイムリーな為替予想や実践的な売買アドバイスなどをメルマガや会員限定ウェブサイトで配信! メルマガ登録後10日間無料です。
高市政権では米ドル/円は158~160円が介入警戒水域。1日2~3円急騰するようなら、介入の可能性は急速に高まる
その会田さんが、下記のようにコメントして話題になっています。
「政府はこれまでよりも為替介入を積極的にやり、円安の副作用を軽減していくことになると思う」(出所:Bloomberg)
ここから介入について読み取れることは、2つあります。1つは、これまでの政権は為替を基本的に市場に任せ、介入はよほどの時だけだったものの、高市政権は円安の副作用が大きいなら、積極的に介入してもよいと考えているということ。
もう1つは、スピードが速すぎる円安や水準的に行き過ぎた円安に対して、介入のハードルが下がるイメージです。
その結果、以前より早いタイミングかつ大きな規模で、介入しやすい政権という印象をマーケット参加者に与えることになります。
そもそも、高市政権の政策の考え方は先ほどから書いているとおり、民間貯蓄が余っている状態では政府が国債を発行すること。そして、AI・防衛・造船など17分野にお金を使い、日本の「作る力・稼ぐ力(成長力)」を強くして、将来の税収・雇用アップにつなげることです。
その副作用として円安が行き過ぎ、物価が高騰して生活が苦しくなるなら、為替介入で「円安にブレーキ」をかけるということでしょうから、会田さんのコメントも理解できます。
繰り返しになりますが、会田さんの考え方に賛否はあるものの、マーケット参加者は経済学者ではありませんし、トレーダーとして彼のコメントに注目しています。
こうしたことから、これまで米ドル/円での為替介入は基本的に160~162円からと考えていましたが、水準は158~160円で警戒水域、加えて例えば、1日に米ドル/円が2~3円急騰するようなボラティリティが高まる局面があると、介入の可能性が急速に高まるため、要注意です。

(出所:TradingView)
★ザイFX!で人気の西原宏一さんの有料メルマガ「トレード戦略指令!」では、タイムリーな為替予想や実践的な売買アドバイスなどをメルマガや会員限定ウェブサイトで配信! メルマガ登録後10日間無料です。
英ポンドは「第2のトラス・ショック」回避の安心感や、悪材料出尽くしから買いが優勢に
一方、11月26日(水)の注目は、英秋季予算案の発表でした。
市場は、財政悪化で暴落する「第2のトラス・ショック」をもっとも警戒しており、英ポンド/米ドルは予算案発表直後に乱高下したものの、それが回避されたことで安心感が広がり、事実上の悪材料出尽くしによる買いが優勢となりました。
英ポンド/米ドルの値動きを詳しく見ていくと、予算案発表直前から直後は「財政のゆとり(※)が約220億ポンドと予想以上に大きい」という報道や内容が伝わり、安心感から1.32ドル台前半へ急伸。
(※「財政のゆとり」とは、財政規律を破ることなく追加の歳出増加や減税を行うための資金的余裕のこと。ヘッドルームとも呼ばれる)
その後、リーブス英財務相が増税策や、成長率見通し引き下げのOBR(※)予測を発表すると、景気への懸念から売りが強まり、1.3125ドル近辺まで急落しました。
(※OBR(Office for Budget Responsibility、予算責任局)とは、英国の独立した財政監視機関のこと。政府予算案に対する経済見通しや財政の持続可能性について独立した予測を提供し、財政の透明性を高めることを目的としている)
そして、予算案の内容を精査した結果、「英国債市場が崩壊するような無謀な予算ではない」との判断から急速な買い戻しが入ります。結局、1.32ドル台半ばまで上昇し、発表前の水準を超えてその日の取引を終えました。

(出所:TradingView)
英ポンド/米ドルが今回、最終的に買われた背景には3つのポイントがあります。
1つ目は「トラス・ショック」の再来の回避による安心感です。市場がもっとも恐れていたのは、2022年のトラス政権時のように「借金頼みのバラマキ」で英国債が暴落(英金利急騰、英ポンド暴落)することでした。今回の予算は約260億~300億ポンド規模の増税で財源を確保する姿勢を見せたため、債券市場が落ち着きを保ち、これが英ポンドの支えになりました。
2つ目は、財政のゆとりが予想以上だったことです。将来の予期せぬ事態に備えるための資金的余裕(ヘッドルーム)が、事前予想の約100億ポンドを大きく上回る220億ポンド確保されたことが好感されました。
最後は、悪材料が織り込み済みだったことです。「増税」や「成長率の下方修正」といったネガティブな話が事前にかなり報じられていたため、発表後は悪材料出尽くしで、利益確定の買い戻しが入りました。
★ザイFX!で人気の西原宏一さんの有料メルマガ「トレード戦略指令!」では、タイムリーな為替予想や実践的な売買アドバイスなどをメルマガや会員限定ウェブサイトで配信! メルマガ登録後10日間無料です。
英予算は「リスク回避がかえってリスクを生んでいる」。当面英ポンドの動きに注意。米ドル/円は160円をめどに戻り売り
ひとまずは「無難にイベントを通過した」という展開で、英ポンド/米ドルは短期的に上昇しましたが、中長期的には注意が必要です。
OBRが2026年以降の成長率予測を引き下げたことは、ボディブローのように効いてくる可能性があるほか、財政支出の拡大がインフレを長引かせ、BOE(イングランド銀行[英国の中央銀行])の利下げペースを遅らせる可能性があります(これは英ポンド高要因にもなり得ますが、スタグフレーション懸念も招きます)。
そして、僕が注目しているFT(フィナンシャルタイムズ)のマーティン・ウルフは「せっかく圧倒的多数の議席を持っているんだから、もっと大胆なことができるはずなのに、結局は小さくまとまった予算しか出してこなかった。これじゃあ英国の未来は変わらない。それが一番がっかりだ」と見立てており、「リスク回避がかえってリスクを生んでいる」と批判をしています。そのため、当面は英ポンドの動きに要注意です。
一方、スイスフラン/円は当コラムの目標値である200円に届いていませんが、年初からすでにほぼ30円近く急騰しており、いったん調整に入りそうなので、反落に警戒しています。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル/円は片山シーリングの160円に向けてじり高に。スイスの関税が39%から15%に引き下げられる可能性が浮上。最強通貨スイスフラン/円はついに200円が視野に!(11月13日、西原宏一)
米ドル/円については過去半年にわたり、徹底的に押し目買いを繰り返していましたが、介入の可能性が高まってきているため、160円をめどに戻り売りスタンスで臨みます。
【ザイFX!編集部からのお知らせ】
ザイFX!で人気の西原宏一さんと、ザイFX!編集部がお届けする有料メルマガ、それが「トレード戦略指令!(月額:6600円・税込)」です。
「トレード戦略指令!」は10日間の無料体験期間がありますので、初心者にもわかりやすいタイムリーな為替予想をはじめ、実践的な売買アドバイスやチャートによる相場分析などを、ぜひ体験してください。
























株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)