■なぜ、日銀の介入は2011年10月31日だけ成功したのか?
「そんなことはないぞ! 2011年10月31日には日銀が為替市場に介入したではないか?」といった反論もよく聞かれるところだが、こういった反論には次のように聞きたい。
すなわち、1971年以降、日銀の介入で成功した事例と失敗した事例はどちらが多いのか? そして、2011年は何回介入していたか、なぜ2011年10月31日だけ成功したのかと。
インターネットで検索すれば、すぐ答えが出てくるので、ここでは詳細の検証を省くが、強調したいのは、日銀介入という材料が効いたのは、他ならぬ、サイクル的に米ドル/円が大底をつける時期にあったということである。
言い換えれば、日銀の介入がなければ、米ドル/円はさらに安値を更新し、より長い円高周期を形成する余地があったものの、それはかなり限定的なはずであった。
相場の内部構造による制約がある以上、遅かれ早かれ、円安トレンドへ転換してくる。それがたまたま日銀の介入があったから、ピタリとした形でより鮮明に表れた。
■日銀はサイクルの概念に沿って介入の時期を狙っていた!?
いや、たまたまではなく、もしかしたら日銀がサイクルの概念に沿って意図的に狙っていたのかもしれない。
この意味では、エコノミストよりテクニカルアナリストのほうがバンカーにふさわしいと思える節がある。したがって、次期首相が誰であれ、日銀と霞ヶ関から高給取りのエコノミストを一掃し、テクニカルアナリストに代わってもらうことを真面目に提案しておきたい……。
やや脱線した冗談で申し訳ないが、以上の話から今回の「安倍発言」の性質を理解していただけたのではないかと思う。
仮に安倍さんが「日銀大好き、デフレを温存しよう、金融緩和と相場介入は怪しからん」と発言しても、円安トレンド自体は修正されないはずだ。だが、円安トレンドが決定された以上、安倍さんの発言は当然円安を助長するし、また市場関係者の神経を刺激する。
こういった話が、“後出しジャンケン”でないことは前回の当コラムをもって証明できるだろう。
【参考記事】
●想定どおりのオバマ再選にもかかわらず、「オバマショック」が起こったのはなぜか?(11月9日、陳満咲杜)
79円台の死守はのちの急騰につながったが、筆者が執筆した時点では、安倍さんの発言がまだ出ていなかったことを強調しておきたい。ちなみに、前回コラムの最後で触れたウェーブカウントは修正されたが(詳細は筆者のブログを参照)、大まかな構造はそのままである。
■米ドル/円は日銀の介入なしでも大底をつけていたはず
ところで、2011年10月31日の日銀の介入がなかったら、相場はどうなっていただろうか。筆者は2008年11月のインタビューですでに指摘していた。
【参考記事】
●陳 満咲杜さんに聞く(3) ~ドル/円は2010~11年に72~74円へ!~(2008年11月17日)
つまり、2011年までの円高は「宿命的」で、また、介入がなければ72~74円台のターゲットが達成されていた可能性が高い(このような視点は2011年年末のコラムで再度強調していた)。
【参考記事】
●【2012年相場見通し】米ドル/円の16~17年サイクルは2011~12年の底打ちを示唆!(2011年12月26日、陳満咲杜)
ただし、それが「最後の円高」となること自体は何ら変わりなく、日銀の介入なしでも大底をつけ、反騰していたものとみる。相場の世界は巷の常識と違って、明日の市況より実は2~3年、あるいは5年、10年後の状況の方が推測しやすいものである。
■相場は大衆の懐疑の中で育つ
実際、テクニカル要素以外では、市場関係者の心理も筆者にとって大いに参考にする価値があった。
筆者が某FX会社のチーフアナリストを務めていた2007年後半、筆者はブログや講演で円安トレンド(といっても大きな円高トレンドにおける調整に過ぎなかったが)の終焉を指摘し、キャリートレードの危険性を繰り返し指摘していた。
しかし当時、個人投資家とFX会社の両サイドから、その内容は懐疑的に思われ、また嘲笑されていた。当時は外貨さえ買えば儲かるという雰囲気の中、円高論調はタブーでさえあった。
しかし、だいぶ円高トレンドが続いてきたせいで、今回は円安予測に関して、「ホンマか」といった懐疑的な目線を個人投資家とFX会社の両サイドから感じていた。
だからこそ、筆者は…
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