旅行会社・てるみくらぶ破綻!戻ってくるお金はわずか1%
大騒ぎとなっている旅行会社・てるみくらぶの破綻。
旅行代金を支払ったのにも関わらず、ホテル代や航空券代を請求されるとか、そもそもホテルや航空券が取れていないというのは理不尽極まりない話。しかし、今回の一件ではそんな人が続出しているらしい。
てるみくらぶは破綻直前に新聞で大々的な現金一括入金キャンペーンの広告を打っていたことなどから、「計画倒産」ではないかといった声も出ているようだ。
この破綻で影響を受けるのは3万6000件、約99億円の旅行申込者と報道されている。1件に複数の参加者がいることから、影響を受ける旅行者は8~9万人にものぼるとの見方もあるようだ。その影響の大きさに驚かされる。
てるみくらぶも加盟している日本旅行業協会(JATA)には弁済業務保証金制度というものがあり、旅行申込者は一定程度救済されるようだ。ただ、てるみくらぶの場合、弁済保証金限度額は1億2000万円となっており、顧客に戻ってくるお金は全体の1%ほどと見込まれている。
たったの1%である。
日本旅行業協会公式サイトのトップページには、弁済業務保証金制度についての案内がある。協会にはてるみくらぶの件で電話が殺到、電話はつながりにくい状態になっているようだ。
“破綻でお金が戻ってこないリスク”を考える2つの観点
さて、ザイFX!がなぜ、旅行業界の話を?と怪訝に思われた読者もいるかもしれないが、今回取り上げたいのは、金融業界で同じような破綻劇が起きた場合、投資家の資産はどうなるのかという話だ。
筆者はこのような“破綻でお金が戻ってこないリスク”については、以下の2つの観点から考察する必要があると考えている。
(1)しくみとして安全かどうか
(2)総合的に見て安全かどうか
旅行業界の場合は先ほど述べたとおり、弁済業務保証金制度というものがあった。上記(1)について、安全性を担保する「しくみ」は一応、あるわけだ。けれど、てるみくらぶの場合は、規模が大きかったため、その「しくみ」がスカスカだったわけである。
このようなケースで、安全性を担保する「しくみ」がたとえあったとしても、それが完全なものでないということは旅行業界に限らずあるようだ。
ペイオフの対象外! 外貨預金はある意味、かなり危険!?
ただ、金融商品のなかにはその安全性を担保する「しくみ」さえないという、ある意味、かなり危険なものがある。その代表格は意外にも銀行が扱っている外貨預金だ。
銀行というとお堅いイメージで、信用のおける存在と感じられるが、外貨預金については「しくみ」上はそうでもないのだ。
ペイオフ(預金保険制度)という制度は耳にしたことのある人も多いだろう。ペイオフによって、銀行が破綻した場合でも、定期預金や普通預金は1人当たり元本1000万円+利息が保護される。また、当座預金や利息のつかない決済用預金は全額が保護される。
ところが、外貨預金はこのペイオフによる保護の対象外なのである。外貨預金には万が一の場合に保護してくれるしくみが存在しないのだ。
【参考記事】
●日本振興銀行の破たんで再確認。外貨預金はペイオフの対象外ですよ!
(出所:金融庁)
一方、株式や投資信託は万が一のケースでの安全性は高い。
まず、証券会社では、「金銭や有価証券などの顧客の資産」と「証券会社自体の資産」は分別管理することが義務づけられている。そして、株式はほふり(証券保管振替機構)、金銭や投資信託は信託銀行によって管理されている。
株「券」といっても、現在、上場企業の株式は紙ではなく、電子化され、ほふりで管理されることが基本となっている。
だから、仮に証券会社が破綻しても、株式や投資信託は別の証券会社へ移管すれば、それでOKなのだ。
さらに株式や投資信託の保護のしくみは二段構えとなっている。証券会社の破綻時に移管がスムーズに行われないケースに備え、「投資者保護基金」というものがあるのだ。これにより、万が一の場合は1人当たり1000万円を上限に補償が行われることになっている。
株式や投資信託の保護のしくみは二段構えとなっており、第二段に構える「投資者保護基金」では、投資家1人当たり1000万円までが補償されている。
ただ、株式の信用取引の建玉や含み益は分別管理の対象とはなっていない。信用取引を行うなら、健全性に不安が感じられるようなマイナーな証券会社は避けておいた方が無難だろう。
また、生命保険の場合には「生命保険契約者保護制度」、損害保険の場合には「損害保険契約者保護制度」というしくみがあり、生命保険会社や損害保険会社がもしも破綻した場合であっても、100%ではないものの補償が行われることになっている。
FX会社に義務づけられている「信託保全」とは?
さて、ここまで主要な金融商品について、万が一のケースで安全性を担保する「しくみ」について、ざっと紹介してきた。
肝心のFXについてはこの点、どうなのだろう?
少し詳しい読者なら、「信託保全」という言葉をすぐに思い浮かべたことだろう。そう、FXには信託保全がある。
FX会社は顧客の資産を信託銀行などへ金銭信託しなければならない。これが信託保全だ。信託保全は以前から導入しているFX会社もあったが、2009年から法令で正式に義務づけられた。
万が一のケースに備え、現在、FX会社には顧客資産を信託保全することが義務化されている。
ここでざっくり「顧客の資産」と書いたのは、顧客が入金した証拠金に実現損益、評価損益、スワップ金利(スワップポイント)を加算・減算し、未払い手数料を差し引いた金額を指す。一般的にイメージされる、FX会社にある顧客資産のすべてと言っていいだろう。
つまり、FXの顧客資産は信託保全のしくみがあることにより、信託銀行などでガッチリ保護されているということなのだ。
そして、信託銀行は信託を受けた財産については、信託銀行自体の財産とは分別管理することが義務づけられており、万が一、信託銀行が破綻した場合でも、信託された財産は守られることになっている。
しくみとしての「信託保全」に多少穴があるとすれば、FX会社が信託銀行に金銭信託すべき義務があるとされているのは、顧客の資産を計算した日から2営業日以内となっていることだ。計算日から多少のタイムラグはあり得るため、そのしくみは完全とまではいえないかもしれない。
しかし、弁済業務保証金制度という、さも立派そうな名前の制度はあっても、払い込んだお金のわずか1%しか戻ってこないと言われる、旅行業界における、てるみくらぶの事例に比べれば、FX業界の信託保全ははるかにシッカリした、顧客資産の安全を担保するしくみではないだろうか。
そう、信託保全があるからFXは安全なのだ(※)。FX業界では、てるみくらぶ事件は起こり得ないのである。めでたし、めでたし。
──と、ここまでは一般的なFX情報サイトにも書いてあるような、信託保全に関する内容だろう。ザイFX!内のコンテンツでもそのように書いているところはある。それで、おおむね、間違いはない。
しかし、本シリーズ記事では、てるみくらぶ破綻を記念して(?)、“破綻でお金が戻ってこないリスク”について、さらに突っ込んで考えてみたいのだ。
「信託保全は安全とは限らない」という、日本FX史上に燦然と輝く事例を…
(※もちろん、FXのトレードでは損することがあり得る。FXがトレードも含めて元本保証のはずはない)
(「信託保全の安全神話をぶち壊してくれた日本FX史上に燦然と輝くFX会社とは?」へつづく)
(ザイFX!編集長・井口稔)
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