■注目集まったイエレン議長とドラギ総裁の講演
直近でもっとも重要なイベントだったジャクソンホール会議(※)が、8月24日(木)~26日(土)に開催されました。
(※編集部注:「ジャクソンホール会議」は米ワイオミング州ジャクソンホールで開催される、カンザスシティー連銀主催の年次経済シンポジウムの通称。世界中の中央銀行総裁や金融関係者の多くが参加するイベントのため、毎年、市場参加者から高い注目を集めている)
【参考記事】
●英ポンド/円トレードで500pipsの利益獲得! ジャクソンホールでユーロ安誘導はあるか?(8月22日、バカラ村)
本来、ジャクソンホール会議は中銀関係者が金融政策の変更を示唆する場ではないのですが、過去にバーナンキ前FRB(米連邦準備制度理事会)議長やドラギECB(欧州中央銀行)総裁が今後の金融政策を示唆する講演を行ったことから注目され、それをきっかけに大きなトレンドが形成されたこともありました。
今回のジャクソンホール会議で特に注目されたのは、日本時間25日(金)23時からのイエレンFRB議長の講演と、同26日(土)4時からのドラギECB総裁の講演でした。
【参考記事】
●ドラギ総裁が3年ぶりにジャクソンホールへ。その意味は?あえて賭ければドル安一服に!(8月25日、陳満咲杜)
●ジャクソンホールでのドラギ総裁講演への期待剥落…。ユーロ/円のショートを継続!(8月21日、西原宏一&大橋ひろこ)
●ジャクソンホールを前にドラギECB総裁講演への期待後退。ユーロ/円は調整局面入り(8月17日、西原宏一)
■両氏とも金融政策への言及なし。米ドル安、ユーロ高へ!
市場には9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でバランスシートの縮小開始が発表されるとの予想が多く、さらに、年内にあと1回の利上げが実施されるかどうかを見極めるため、イエレンFRB議長の講演から、これらに関するヒントとなる発言があるか、期待されていました。
しかし、金融政策への言及はなく、マーケットは米ドル売りへ。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)
また、ドラギECB総裁の講演に関しては、テーパリング(※)の開始時期でヒントとなる内容が出てくるか、あるいはユーロ高を牽制する発言が出てくるかに注目が集まっていました。
(※編集部注:「テーパリング」とは、量的緩和政策により、進められてきた資産買い取りを徐々に減少し、最終的に購入額をゼロにしていこうとすること)
しかし、ドラギECB総裁の講演にも金融政策の変更を示唆する内容はありませんでした。また、ユーロ高を懸念する発言もなかったことで、ユーロは上昇しました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロVS世界の通貨 1時間足)
■ユーロ/米ドルは時間的な調整だけだった
ユーロ/米ドルは4月10日(月)安値1.0569ドルを起点とした上昇トレンドで、すでに1400pips以上も上昇していますが、調整は時間的な調整だけで、価格的な調整がないトレンドとなっています。
(出所:Bloomberg)
価格調整による買いポジションの振るい落としがないことから、市場の投機的なユーロ/米ドルの買いポジションは多い状態だと推測されます。
IMM(国際通貨先物市場)における投機筋の米ドルに対するユーロの買い越しは約8.8万枚(8月22日時点)なので、極端な水準までとは言えませんが、ここからもユーロ買いポジションが多いと推測されます。
(詳しくはこちら → 経済指標/金利:シカゴIMM通貨先物ポジションの推移)
■どっちにしてもユーロは上昇するとの見方が多かった!?
ドラギECB総裁の講演が日本時間で土曜日の早朝4時だったということは、金曜日の海外市場が閉まるまで2時間しかなく、流動性も薄くなってくる時間のため、ドラギECB総裁からユーロ売りとなる何かしらのサプライズ発言が出れば、値が飛び、偏ったポジションが手仕舞いできずに急落するリスクがあったといえる状況でした。
ポジションが偏ったまま、このような重要イベントを迎えるのはリスクが高く、通常であれば、イエレン議長やドラギ総裁の講演前に偏ったポジションは調整されることが多いです。
しかし、そのようなイベント前の調整はなく、ユーロ/米ドルは8月17日(木)に1.1661ドル、23日(水)に1.1739ドル、当日の25日(金)には1.1773ドルと、徐々に安値を切り上げ、ポジション調整がほとんど起きていなかったことから、市場参加者はユーロ/米ドルの買いポジションを保有したまま、ドラギ総裁の講演に臨んだといえます。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
これは、市場参加者が、今後もユーロ/米ドルは上がると考えていることの表れだと思われます。
仮に、ドラギ総裁がユーロ高を牽制する発言をしたとしても、ユーロ/米ドルは調整だけですぐに上昇が再開すると予想している人が多かった、ということではないでしょうか。
日本時間の早朝4時から始まったドラギ総裁の講演にユーロ高を牽制する内容がなかったことで、様子見していた市場参加者もユーロの買いに動いたため、週明け28日(月)にユーロ/米ドルは1.1983ドルまで上昇してきました。
(※編集部注:本記事の寄稿後、8月29日(火)の東京時間にユーロ/米ドルは一時、1.1986ドル付近まで上昇した)
ドラギ総裁がユーロ高を牽制しなかったこと、9月7日(木)のECB理事会でテーパリングの議論を開始する可能性もあることから、ユーロはまだ上昇しそうです。
■ユーロ/米ドルは上昇トレンド再開へ。押し目買い戦略で
米ドルは、トランプ政権に対する不信感が根強く、債務上限問題も控えていることから、積極的に買えない状況となっています。
【参考記事】
●ジャクソンホール無風通過で、次の注目は米債務上限問題! 米国株急落に要注意!(8月28日、西原宏一&大橋ひろこ)
●衝撃のバノン解任。ヒンデンブルグ・オーメン点灯で米株急落、ドル/円は108円下抜けも!?(8月24日、西原宏一)
ユーロ/米ドルは3週間ほど時間調整をしていましたが、重要イベントが終わり、米ドルが買えない状況の中でドラギ総裁からユーロ高を牽制する発言がなかったことから、上昇トレンドがゆっくり再開していくのではないかと考えています。
目先は1.2ドルの節目を目前にしており、25日(金)から大きく上昇してきたこともあるので、押し目を買う戦略がいいのではないかと考えています。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)