■仮想通貨の送金は「ガラス張り」
ビットコイン(BTC)などの仮想通貨はガラス張りだ。「どこからどこへ、いくら送金されたのか」は、ブロックチェーンに残された記録を見れば一目瞭然となる。
「だったら、コインチェックから消えたNEM(XEM)の行方もわかるのでは?」と思う人も多いだろう。なぜ、XEMを不正に受領した人が判明しないのだろうか?
【参考記事】
●コインチェック事件は全額返金で一転解決!? 消えた580億円分の仮想通貨NEMどうなる?
●【超初級】 ビットコイン・仮想通貨入門(4) ブロックチェーンって結局、何なの!?
ちょうどいいきっかけなので、コインチェック事件を考えながら、仮想通貨のブロックチェーンやウォレットアドレスの特徴を見ていこう。
「コインチェックからNEM(XEM)が不正送金されたのでは?」とのウワサは、コインチェックが記者会見を行なう前からSNSでささやかれていた。ブロックチェーン上に不審な送金の履歴が残されていたからだ。
■ブロックチェーンの記録は誰でも見られる
仮想通貨の送金履歴(トランザクション)はすべて、インターネットに接続さえできれば誰でも見られる。
送金履歴を知りたい仮想通貨の名前と「blockchain explorer」という単語を組み合わせるなどして検索すると、その仮想通貨のブロックチェーンを閲覧できるページが見つかるはずだ。
(出所:blockexplorer.com)
仮想通貨のウォレットには、それぞれ固有のアドレスがついている。検索窓に知りたいウォレットアドレスを入力すると、そのウォレットで過去にどんな入出金があったかを閲覧できる。ただし、ウォレットの中身は公開されていても、「そのウォレットの持ち主が誰か」は非公開だ。
つまり、「通帳は見られるけれど、その持ち主はわからない」ということだ。
【ブロックチェーンの記録からわかること】
・過去のすべての送金
・ウォレットごとの残高
・ウォレットごとの過去の送金履歴(金額、時間、送金先、送金元)
【ブロックチェーンの記録からはわからないこと】
・ウォレットの持ち主
すべての口座の預金通帳は公開されているが、その口座の持ち主が誰かはわからない――ビットコインなどのブロックチェーンはそんなイメージだ。
しかし、ブロックチェーンの履歴を見ていると、ウォレットに名前(タグ)がついていることがある。たとえば下図だが、これには内部告発情報などを暴露してメディアを騒がせた「WikiLeaks(ウィキリークス)」のタグが付されている。
ウォレットの持ち主や第三者などが申請し、承認されると、このように持ち主を示すタグやリンク先のURLが表示される。仮想通貨を決済に利用する企業や募金用のウォレットなどに利用されることが多いようだ。
■送金の履歴をたどることでわかるNEMの行方
ブロックチェーンの履歴を見ることで、先日のコインチェック事件で不正送金されたNEMの行方を推理することもできる。
不正送金されたNEMを受け取ったウォレット(不正送金ウォレット)が送金を始めたのは、流出から5日後の1月31日(水)。周囲の反応を試すように100XEM(6200円相当。本稿執筆時点の1XEM=62円で計算、以下同)を10個のウォレットへ送金した。
より興味深い動きがあったのは翌日の2月1日(木)だ。いくつかのウォレットを経由して、海外取引所と思われるウォレットへ、1000XEMずつ送金が行われている。
ウォレットの持ち主は本来わからないはずなのに、この場合に取引所と推測できるのは、取引所への入出金の際などに記録されるアドレスから、「ここがあの取引所のアドレスか」と特定できるからだ。
■不正送金先のアドレスが行なったメッセージのやりとり
さらに、ビットコインにはない機能として、NEMは送金の際にメッセージを添付することができ、ブロックチェーン上にはメッセージの履歴も残されている。また、そのメッセージは暗号化も可能だ。
不正送金ウォレットは、暗号化メッセージでいくつかのウォレットとやりとりを行なっている。便宜上「うっかりさん」と名付けたウォレットと、不正送金ウォレットのやり取りを見てみよう。
※メッセージは原文ママ。ただし、メッセージ中に記載されたアドレスとIDはザイFX!編集部が伏せ字とした
最後の長文メッセージに登場する「DASH」は、匿名送金を特徴とする仮想通貨だ。いかにも「釣り」っぽいメッセージだが、うっかり暗号化をし忘れた可能性もあるし、DASHのブロックチェーンを見ると、該当する取引はたしかに存在している。
もし、このメッセージが釣りでないとしたら、不正送金アドレスの持ち主は日本人、あるいは日本語を理解できる外国人だということになるが……。
■暗号化されたメッセージでも頻繁にやり取り
もうひとつ気になるのは、うっかりさんが最初にXEMをもらったアドレスだ。
このアドレスを仮に「大本さん」と名付けると、大本さんは不正送金アドレスとやりとりしていた別のアドレス(「慎重さん」とする)にもXEMを送金している。
慎重さんは2つほどの別アドレスを持っているようでもあり、それを含めて不正送金アドレスと6回ほどメッセージをやりとりしている。そのうち、不正送金アドレスから送られたメッセージは暗号化されていないのだが、これは文章ではなく、パスワードのような文字列だった。
話がややこしくなってしまったが、XEMの流れを図示すると以下のようになる。
この図に示したのは2月4日までのおもな動きだが、それ以降も動きはある。
■ICO応募や取引所送金、資金洗浄の方法を探っている?
うっかりさんも慎重さんも同じアドレス(大本さん)からXEMを受け取っていることから、この3つのアドレスの持ち主は同一人物と考えることもできそうだ。
この人物は不正送金アドレスとやり取りしながら、最終的には海外取引所へXEMを送金している。「ある人物が不正送金アドレスの持ち主と相談しながら、XEMを現金化する方法を模索しているのでは?」と疑ってしまうが……。
不正送金アドレスは、このほかにも日本人と思われるアドレスと、暗号化されたメッセージで会話している形跡がある。
また、不正送金アドレスから暗号化メッセージとともに1000XEMを受け取り、その1時間半後にICO(イニシャル・コイン・オファリング)へ応募しているアドレスもある。
【参考記事】
●「ICO」とは? 「IPO」と何がどう違うの? テックビューロ発、「COMSA」のしくみは?
これらの現金化の試みはいずれも100XEM(約6200円)から1000XEM(約6万2000円)程度だが、まずは少額で探っているようにも見える。
■格安NEM販売所を立ち上げて換金へ?
そんな犯人の動きだが2月7日(水)になり、また新たな方法を模索しているようだ。不正送金されたXEMが分散されたアドレスのうちのひとつから、約1時間半のうちに27件のメッセージつき送金が行なわれたのだ。
そのメッセージには「XEM -15% OFF」との言葉とともにURLが記載されている。そのURLは通常のウェブブラウザではアクセスできない「ディープウェブ」のものだ。
アクセスはまったくオススメしないが、そのURLをみると、ビットコインとライトコインをNEMに交換するサービスが表示される。その交換レートはたしかに15%オフとなっている。不正送金されたNEMの持ち主が販売所を立ち上げて、ビットコインやライトコインに交換することで換金しようとしているのだろうか。
■ブロックチェーンからわかること
こうやってブロックチェーンの送金履歴をたどることで、仮想通貨の流れを追うことはできる。しかし、ウォレットの持ち主はわからない。仮想通貨の利点であると同時に、国家が暗号通貨を嫌う理由のひとつだ。
ブロックチェーンには過去すべての送金記録が残されており、ビットコインの開発者とされる「サトシ・ナカモト」のものらしきウォレットや、犯罪組織のタグが付されたウォレットなどもある。仮想通貨への理解を深めたい人はぜひ、ブロックチェーンの記録を見てみよう。
(文/ミドルマン・高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・堀之内智&井口稔)
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