■トルコ政府が要求する米牧師釈放の条件とは?
トルコと米国の間で大きな問題となっている米国人牧師ですが、いまだに釈放されていません。トルコメディアは今まで、トルコ政府が牧師の代わりに米国在住のギュレン氏の引き渡しを要求していたと報じていましたが、それは違っていたようです。
【参考記事】
●トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(8月15日、エミン・ユルマズ)
写真(中央)はトルコ政府に長期間拘束されているブランソン牧師。トルコ政府が米国に要求する釈放の条件とは? (C)Anadolu Agency/Getty Images
ウォール・ストリート・ジャーナルが8月19日(日)に報じた記事によると、トルコ政府は牧師の釈放の代わりに米国にトルコ国営銀行ハルクバンクに対する捜査の中止を要求しているそうです。
■トルコ国営銀行ハルクバンクへの捜査とは?
ハルクバンクに対する捜査とは何でしょうか?
実は、2012年にイランへの経済制裁をバイパスし、マネー・ロンダリングをしたとの罪で、ハルクバンクに対して、米政府によって莫大な罰金が課される可能性があります。
2012年の経済制裁は、イランから石油輸入してもいいが、その代金を現金で渡してはいけないというものでした。石油の代金の代わりにイランが必要としているもの(食料、薬品、農作機械など)を渡してもいいが、現金を渡すとそれが核兵器の開発に使用されるとの理由からでした。
当時のエルドアン政権は、イラン出身でトルコ国籍も取得している、レザ・ザラブという若いビジネスマンを経由してイランに金(ゴールドのインゴット)を渡したとされています。
当時のエルドアン政権は、2012年のイランへの経済制裁時に、若いビジネスマンを経由して金(ゴールドのインゴット)を渡したとされている (C)Anadolu Agency/Getty Images
金は流動性が高く、ドバイなどを経由してすぐに米ドルに変換でき、最終的にはイランが必要としている現金をエルドアン政権のおかげで手に入れることができたわけです。
■米国の要求はトルコ政府が親ロシア政策をやめること?
この取引に関わっていたトルコ政府の閣僚やハルクバンクの総裁などの官僚は、ザラブ氏から多額の賄賂と高級腕時計などのプレゼントを受け取っていたことが2013年12月の汚職スキャンダルで発覚し、当時4人の閣僚が辞任しました。
ザラブ氏が2016年にマイアミで逮捕され、検察側と司法取引もしているのでこの事件の真相を米国はよく知っています。
したがって、ハルクバンクに対しては3兆円を超える大きな罰金が課されるだろうと昨年(2017年)末から専門家が言っています。
ウォール・ストリート・ジャーナルの記事によると、米国はトルコ政府の要求を固く拒否しているそうです。
トランプ政権は「何らかの交渉を始めるにもまず牧師を釈放すべき」とはっきりトルコ政府に伝えています。個人的にも牧師が釈放されてもハルクバンクへの罰金は消えないと考えます。
牧師の問題とイラン制裁のバイパスは別問題だし、米国が譲歩するとしても、トルコに牧師の釈放以上のことを要求すると考えます。それはトルコ政府が親ロシア政策をやめることではないかと思います。
■トルコ中銀の裏口利上げでトルコリラは底堅い
トルコリラの方ですが、今週(8月20日~)はトルコが喜捨祭(犠牲祭ともいう)のため大型連休に入っており、相場があまり動いていません。
【参考記事】
●FX会社が警戒するトルコの「犠牲祭」とは? 日本発のトルコリラショック再開はある!?
(出所:Bloomberg)
米国の格付け会社大手2社が、8月18日(土)にトルコ国債の格付けを引き下げました。
S&Pはトルコの格付けを「BB-」から「B+」に引き下げました。見通しはステーブルです。続けて、ムーディーズも格付けを「Ba2」から「Ba3」に格下げしています。こちらは見通しまでネガティブにしています。
格下げがあったものの、すでに織り込み済みであることから、為替への影響は限定的でした。どちらかというとトルコ中銀の裏口利上げの効果が現れてトルコリラは底堅い動きをしています。
(出所:Bloomberg)
裏口利上げとはトルコ中銀がよく使用している方法で、政策金利を引き上げないで、政策金利より高い金利で貸出を行うというやり方です。ステルス利上げともいいます。
トルコ中銀は先週(8月13日~)から、国内の銀行への貸し出しを通常の1週間レポ金利である17.75%ではなく、150bp高い翌日物(オーバーナイト)の貸出金利で行なっています。
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!編集部が作成)
トルコ中銀は後期流動性貸出金利を使用していた時期もあって、これが市場の混乱を招くということで金利政策の簡素化を図って、貸出金利を一本化したはずでした。
しかし、直近の騒動でまた元にもどってしまったようです。いずれにしても今週(8月20日~)のトルコリラ相場はトルコが大型連休のため大きな動きがないと予想しております。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)