■G20サミットでS-400問題に進展はあったのか?
G20(20か国・地域)サミットでエルドアン大統領とトランプ大統領の首脳会談が行われました。トランプ大統領はトルコに好意的で、とてもいい雰囲気の会談でした。
会談後にエルドアン大統領は、S-400の導入に関してはトランプ大統領の理解を得たので米国からの制裁を回避できると話しています。
しかし、エルドアン大統領の見方はかなり楽観的と言わざるを得ません。
G20サミットでエルドアン大統領とトランプ大統領が会談。エルドアン大統領はS-400の導入に関してトランプ大統領の理解を得たと話したようだが、エミンさんは、エルドアン大統領の見方はかなり楽観的と指摘しています。その理由とは…!? (C)Anadolu Agency/Getty Images
S-400問題は、G20サミットの首脳会談で解決したわけではありません。トランプ大統領は、トルコにパトリオットミサイルを売らなかったオバマ政権を批判し、トルコは仕方なくS-400の購入を決めたと話しました。
しかし、これは、「オバマ大統領は売らなかったが、私は売りますので、もうS-400は不要ですよ」というメッセージであり、S-400を購入しても制裁しないと約束していません。
そもそも、制裁自体はトランプ大統領の一存で決められるものではありません。米国は昨年(2018年)9月に中国人民解放軍の兵器管理部門に当たる共産党中央軍事委員会装備発展部とその部長を制裁対象に指定したばかりです。
その理由は、ロシアから戦闘機やミサイルシステムを購入し、米国による対ロシア制裁に違反したためです。
米政府の制裁は「敵対者に対する制裁措置法(CAATSA)」に基づくもので、トルコがS-400を購入し、設置しようとした時にトランプ大統領がどんなに頑張っても米議会が制裁を決めると考えます。
この問題については、交渉の余地がないことを米国とNATO(北大西洋条約機構)は、ずっとトルコ政府に伝えています。
■リビア国民軍がトルコに宣戦布告で地政学リスク高まる
今週(7月1日~)、もうひとつの大きな出来事は、リビア国民軍がトルコに宣戦布告したことです。
リビア国民軍とは、リビアの東部を支配している武装組織で、現在、トリポリを拠点としている国民合意政府と対立しています。
国民軍は、トルコがトリポリ政府を軍事支援しているから、トルコの船や飛行機、トルコ国籍の人を攻撃の対象にすると公表しました。
リビアはトルコの隣国ではないので、大きな軍事衝突は起きにくいですが、地政学リスクが増加したことに違いありません。
■与党議員の離党が相次げば、解散総選挙はほぼ確実に
トルコの国内政治でもいろいろな動きがあり、トルコメディアの注目を集めています。
前回のコラムで、アリ・ババジャン元経済担当大臣とギュル元大統領が新たな中道右派の政党を立ち上げる準備をしていると書きましたが、その後、ババジャン氏はエルドアン大統領を訪問し、AKP(公正発展党)から離党することを伝えました。
【参考記事】
●イスタンブール市長再選挙は与党大敗! エルドアン政権弱体化で解散総選挙も…!?(6月26日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領からは、新政党を立ち上げても期待外れに終わるのでやめた方がいいとアドバイスされたそうですが、すでにAKPから数十名の議員が離党し、新政党に参加するとウワサされています。
そうなった場合、1年以内に解散総選挙が行われることは、ほぼ確実となります。
■リスクオン相場を追い風に、トルコリラ/円は19円台へ上昇
トルコリラの見通しですが、G20サミットの首脳会談と、その後のリスクオン相場が追い風となって対円で19円台まで買われました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)
また、観光シーズンに入ったので、9月までトルコに外貨流入も増え、通貨安定に貢献してくれると考えています。一方で、S-400問題は依然として懸念材料です。今後、米議会の動きに注目が集まります。
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