■米国と関係改善で、今度はロシアが懸念材料に…
喜捨祭(犠牲祭)明けのトルコは大きな動きが続いています。前回のコラムでは、米国とトルコが安全地帯設置に合意したことと、米国とトルコの接近について書きました。
【参考記事】
●米国との関係改善でトルコリラは底堅い! 解散総選挙と追加利下げがリスク要因に…(8月14日、エミン・ユルマズ)
この動きを受け、シリア政府軍とロシアは、トルコが支援しているシリア反政府勢力の拠点であるイドリブの空爆を始めました。
この空爆によって民間人の犠牲は多数出ていますが、今までと違う点はトルコ軍の車列も狙われているということです。これは米国とトルコの接近に対するロシアのレスポンスである可能性が高いと考えます。
直近の軍の人事で親ロシア派の将校が大量にリタイアさせられているとも言われていて、トルコとロシアの関係は今後さらに悪化する可能性があります。
写真は2019年6月に開催されたG20大阪サミットで握手をするエルドアン大統領とトランプ大統領。トルコと米国の関係改善により、今度はロシアとの関係が懸念材料に… (C)Anadolu Agency/Getty Images
一方で、この動きによってS-400が稼働する可能性が低下し、トルコと欧米の関係が改善しますので、トルコリラにとってはポジティブな動きです。
【参考記事】
●トルコリラはスワップ金利狙うには好環境!? トルコが抱えるリスク、S-400問題とは…?(2月27日、エミン・ユルマズ)
■トルコ東部の3都市の市長が解任
今週(8月19日~)起きたもうひとつ大きな出来事は、トルコ東部の3都市の市長が解任されたことです。
これらの都市にはクルド人が多く住んでいて、3月の統一地方選挙でもクルド系政党のHDP(国民民主主義党)の候補者が勝利したばかりです。
トルコ政府は3都市の市長をテロ関連の容疑で解任し、市長職に政府から執行人を派遣することを決めました。この決断は民主主義のプロセスを無視しているため、クルド問題をさらに複雑化させる可能性があります。
そもそも解任された市長たちに容疑がかかっているのであれば、なぜ立候補を許したのかという疑問があります。また、東部の市長が解任されるのであれば、野党が勝利している西部の大都市の市長もなんらかの理由で解任されてもおかしくないということになります。
この出来事はトルコ政治を不安定化させる可能性が高く、残念な判断だと考えます。
■トルコリラが大きく下落しているワケとは…
今週(8月19日~)のトルコリラですが、対米ドル・対円で大きく下げだしました。
※通常は「米ドル/トルコリラ」ですが、トルコリラの下落をわかりやすくするため、「トルコリラ/米ドル」のチャートを掲載しています。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
クルドとシリア情勢の悪化に加え、トルコ中銀が支払準備率と、準備預金に支払う金利の変更を行ったことがネガティブ材料になりました。
■トルコ中銀が打ち出した新制度の中身とは?
トルコ中銀は、貸し出しの伸び率が年間で10%から20%の銀行に対して新たな優遇措置を発表し、貸し渋っている銀行は逆に罰することにしました。
新しい制度では、市場にお金をたくさん貸している銀行の支払準備率は7%から2%に引き下げられ、トルコ中銀が支払う金利も13%から15%に引き上げられました。
貸し渋っている銀行の支払準備率は変わらないものの、トルコ中銀が払う金利は13%から5%に下げられました。
ここまでドラスティックなやり方に踏み切った理由は、民間銀行の貸し出しが伸びないからです。
トルコの景気後退を受け、銀行のリスク管理は厳しくなっていて、政策金利を引き下げても民間銀行のローン金利は政府が期待しているほど下がっていません。
(出所:Bloombergのデータを基にザイFX!が作成)
したがって、新制度は民間銀行に対する政府の怒りと警告である可能性も否めません。
なぜならば、新しい制度の恩恵を受ける民間銀行は少なく、恩恵を受けるのはほとんど国営銀行です。トルコ政府は資金の流動性を増やすことによって景気が改善すると期待していますが、これらの措置はインフレ率を上昇させる可能性が高く、トルコリラの下落要因となります。
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