■トルコ中銀は年内に2~4%の追加利下げも
昨日(9月3日)、公表されたトルコの8月CPI(消費者物価指数)は、前月比でプラス0.86%、前年同月比でプラス15.01%となりました。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
15カ月ぶりの低水準で、インフレ率の下落トレンドが継続していますが、今回、気になったのはCPIではなく、PPI(生産者物価指数)の下落でした。
PPIは8月にマイナス0.59%となり、前年同月比ではプラス13.45%になりました。インフレ率の予想を超える改善は、非常にポジティブな動きですが、インフレ率の下落を受け、トルコ中銀のさらなる利下げの可能性も高まったと見ています。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
このままでは、年内に2~4%の追加利下げが行われるでしょう。一方で、インフレ率の下落は季節要因も影響していて、秋以降にインフレ率の上昇が加速する可能性もあります。
■トルコと米国の関係改善で外交はまた複雑化
インフレに限らず、トルコ経済のマクロ指標の改善が継続しているものの、トルコの外交はまた複雑化してきました。
トルコと米国の接近を受け、シリア政府軍とロシアは、シリア北部の反政府勢力への攻撃を激化させています。
【参考記事】
●米国と関係改善で、次の懸念はロシア…。トルコリラが大幅下落している理由とは?(8月21日、エミン・ユルマズ)
シリアの北部にあるトルコ軍の基地もシリア政府軍に包囲され、1000人規模の部隊が動けなくなりました。
また、イドリブ地方の空爆で多数の民間人の犠牲が出たため、難民がトルコ国境に押し寄せ、国境の治安部隊と難民の衝突が起きています。
これらの動きを受け、エルドアン大統領は先週(8月26日~)、27日(火)にモスクワを訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談を行いました。
エルドアン大統領は、ロシア製の戦闘機にも関心を示し、米国から購入する予定だったF-35の代わりに、ロシアの戦闘機の購入を検討すると話しています。
■トルコの外交を簡潔に整理してみると…
トルコ出身の私でも理解に苦しむトルコ外交ですが、おそらく日本人の皆さんはどうなっているかわからない状況だと思います。
簡潔に整理しますと、トルコは現在、米国とロシア(そして間接的には中国)の間に挟まっている状態です。
米国に接近すれば、ロシアがシリア北部の空爆をはじめ、大量の難民がトルコに押し寄せます。
写真は2019年6月に開催されたG20大阪サミットで握手をするエルドアン大統領とトランプ大統領。米国に接近すればロシアが、ロシアに接近すれば米国が……とトルコ外交は複雑化している (C)Anadolu Agency/Getty Images
ロシアに接近すれば、今度は米国やNATO(北大西洋条約機構)との関係が悪化し、米国のクルド勢力への支援が一段と強まります。
トルコが抱えているジレンマはトルコだけに限った話ではなく、実は現在、新興国の多くで起きています。新しい冷戦の開始を受け、今までのように米中や米ロに対して、等しい距離でいることができなくなりました。
新興国は、どちら側につくか選ばないといけないですが、どちらを選んでも無害で済まないような状況です。
■本格的なトルコリラ上昇は難しいか…
今週(9月3日~)のトルコリラですが、CPIの下落を受け、米ドル/トルコリラは、5.8リラ台半ばから5.7リラ台前半まで下がり、トルコリラ/円も18.50円近辺まで上昇してきました。
(出所:Bloomberg)
(出所:Bloomberg)
米中貿易交渉の進展次第でトルコリラ高が進む可能性もありますが、トルコ中銀による利下げの可能性は、トルコリラの頭を押さえる要因だと考えます。
シリア情勢の複雑化と解散総選挙の可能性も考慮しますと、トルコリラの本格的な上昇は難しく、対円では17円台前半までの下値余地はあると考えます。
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)