■パンデミックの悪影響をもっとも受けるのは新興国
日本では、米国経済やEU(欧州連合)経済が受ける悪影響ばかりが報道されていますが、実は、パンデミックによる経済停滞の悪影響をもっとも強く受けるのは、先進国ではなく新興国です。
新興国は、先進国のような財政出動ができず、国民へのヘリコプターマネー(※)も導入できません。
(※編集部注:「ヘリコプターマネー」とは、中央銀行や政府が大量の貨幣を供給する政策のこと)
経済活動を完全に止めてしまうと国民が反発するので、先進国のような厳しいロックダウンを行うこともできず、感染が、まだ拡大し続けています。
新興国の場合、元々、医療制度がしっかりとしていない国も多く、医療支出がGDPに占める比率も低いところがほとんどです。したがって、多くの国で医療崩壊が起きてしまっています。
トルコは、新興国の中でも医療制度が優れている国なので医療崩壊は起きていないものの、トルコ政府は大幅な財政出動ができないので、経済の停滞は著しいです。IMF(国際通貨基金)によれば、トルコの2020年成長率見通しはマイナス5%になります。
■トルコ政府は経済活動の正常化を急いでいる
トルコの新型コロナウイルスの感染者数は、5月12日(火)時点で14万1475人、死者の数は3894人に達しています。
(出所:Worldometerのデータを基にザイFX!編集部にて作成)
(出所:Worldometerのデータを基にザイFX!編集部にて作成)
感染者数の伸びはピークを過ぎて、現時点で下げに転じています。これを受け、トルコ政府は、一部のショッピングモールや飲食店の営業を許可しました。
トルコ航空も、今、止まっている国際線のフライトを6月までにほとんど再開させようとしています。観光は、トルコにとって重要な外貨獲得手段であり、政府は正常化を急いでいます。
■トルコリラの下落トレンドはいったん落ち着く
トルコリラですが、先週(5月4日~)までの下落トレンドが、いったん収束しました。7.30リラ水準まで上昇した米ドル/トルコリラは、足元で7.00リラ前後まで下落し、14.50円を割っていたトルコリラ/円も、再び15円を超えてきました。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
トルコ中銀は、米ドル/トルコリラが7.00リラを超えないように、しばらく直接の米ドル売りで対応しようとしましたが、外貨準備高が大きく低下しているので、その防衛線を簡単に突破されてしまいました。
【参考記事】
●トルコの新型コロナ感染拡大は鈍化傾向。トルコリラ/円は15.50円前後で下げ止まるか(4月15日、エミン・ユルマズ)
■トルコ政府の資金調達は容易ではなさそう…
最終手段として、先週(5月4日~)、トルコ政府は、トルコリラの空売りを止めるため、UBS、シティグループ、BNPパリバという欧米の大手金融機関に対して取引規制を行いました。これを受け、トルコリラは反発し、ひとまず、下落が止まりました。
(出所:IG証券)
この手法は、一時的な解決法としては効果を発揮しましたが、トルコリラの流動性を著しく低下させてしまう可能性があり、今後、グローバル市場でのトルコリラの売買が減っていくことが懸念されます。
パンデミックによる経済停滞で資金需要が高まったトルコ政府は、外交政策の転換を始めました。欧米諸国にマスクなどの医療物資の支援を行い、EU加盟への意欲をひさびさに見せ始めています。
この動きは、トルコリラにとってポジティブな材料です。
一方で、欧米諸国は現政権への対応をすぐに変えるとは考えにくく、この方法によるトルコ政府の資金調達は容易ではありません。
S-400の稼働は延期されていますが、稼働を完全に諦めなければならない可能性が高いと考えます。
【参考記事】
●トルコリラはスワップ金利狙うには好環境!? トルコが抱えるリスク、S-400問題とは…?(2019年2月27日、エミン・ユルマズ)
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