■米国がロシア製ミサイルをめぐって、トルコに制裁発動
米国は12月14日(月)、トルコにCAATSA制裁を発動させることを決めました。CAATSAとは、2017年に成立した「敵対者に対する制裁措置法」のことです。
今までロシア、イラン、北朝鮮に対して発動されてきましたが、NATO(北大西洋条約機構)加盟国で、一応、米国の同盟国である国に対して発動されたのは初めてのことです。
米国は12月14日、トルコに対しCAATSA制裁を発動させることを決定。NATO加盟国で、一応米国の同盟国である国に対して発動されたのは初めて。ただ、そこには深い意味がありそうで… (C) Chip Somodevilla/Getty Images News
米国が制裁を発動させた理由は、トルコが、ロシアから購入した地対空ミサイルS-400です。トルコは、S-400が原因でF-35戦闘機の開発プログラムからも排除され、F-35を購入できなくなっています。
【参考記事】
●トルコ、S-400発射実験を行うも失敗か。バイデン政権誕生ならリラは圧迫される!?(10月21日、エミン・ユルマズ)
■トランプ大統領がトルコに制裁を発動させた真意とは?
では、米国の制裁とはどういうものなのでしょうか?
この制裁は、SSB(トルコ国防産業庁)とその幹部らを対象にしたもので、一見、軽い内容のものに見えます。ロシアやイランに対して行われているような、重い経済的な制裁がないのはポイントです。
一方で、SSB本体に対しては、米国の軍事技術を輸入できない、米金融機関から総額1000万ドルを超える融資や信用供与をもらえないという制裁が科されているので、これはトルコの防衛産業に大きな打撃を与える可能性があります。
トルコは近年、国産戦車や国産軍事ヘリの開発に力を入れていて、重要な技術の一部を米国からの輸入品に頼っています。また、トルコ軍はNATOの一部であることから、既存の軍事機器の中に米国製のものが多く、今後の部品調達が困難になる可能性もあります。
トランプ大統領は、今まで対トルコ制裁に否定的で、議会からの要求を無視して制裁を発動させませんでした。このタイミングで制裁に踏み切った理由については、「トルコとバイデン次期政権の関係を悪化させたいのではないか?」との見方もありますが、個人的には違うと考えています。
エルドアン政権に批判的なバイデン大統領がCAATSA制裁を打ち出していたら内容がもっと重いものになっていたでしょう。トランプ大統領は、比較的軽い内容の制裁を先に打ち出すことで、エルドアン政権を保護しようとしたのではないかと考えています。
トランプ大統領は比較的軽い内容の制裁を先に打ち出すことで、エルドアン政権を保護しようとしたのではないかとエミンさんは見ているという。 写真は昨年6月に開催されたG20大阪サミットのときのもの (C)Bloomberg/Getty Images
■米国がトルコを「敵」と認定したことは、とんでもないリスク
今週(12月14日~)のトルコリラですが、対米ドル、対円で先週(12月7日~)の水準と大きく変わっていません。
制裁懸念で、一時8.00リラを超えていた米ドル/リラは7.85リラ水準まで下落、トルコリラ/円は13.20円水準で推移しています。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
EU(欧州連合)と米国の制裁は大した内容ではなく、トルコ経済への影響はほとんどないとの見方でトルコリラが買い戻されましたが、個人的には、市場が、この出来事の長期的なインプリケーションをまだ評価できていないと思います。
大事なのは制裁の内容よりも、トルコが米国の敵に認定されたことです。つまり、ロシア、イランや北朝鮮と同じカテゴリーに置かれてしまいました。これは地政学的にとんでもないリスクであり、バイデン政権誕生後の動きが気になります。
【参考記事】
●米大統領選の結果はトルコリラにも影響大! バイデン優勢でトルコと米国の関係悪化!?(10月14日、エミン・ユルマズ)
トルコが米国の敵に認定されてしまったことは、地政学的にとんでもないリスクがあるというエミンさん。バイデン政権誕生後の動きが気になる… (C)Scott Olson/Getty Images News
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