■3月のマクロ経済指標は製造業の景気が改善
TUIK(トルコ統計局)は、今週(5月10日~)3月の雇用統計を公表しました。3月の失業率は13.1%となり、2月の13.2%から0.1%低下しました。
(出所:TUIK)
雇用統計の中身を見ると、製造業における雇用者数が増加し、サービスセクターが減っているのがわかります。ロックダウン(都市封鎖)でサービスセクターが大打撃を受けている一方で、製造業が好調です。
今週(5月10日~)公表された、3月の鉱工業生産指数も雇用統計を裏付けています。3月の鉱工業生産指数は前年同月比で16.6%上昇し、市場予想であった14.1%を大きく上回りました。特に前月比は0.5%の下落が予想されていたのですが、結果は0.7%増でした。
(出所:TUIK)
3月のマクロ指標でもうひとつポジティブサプライズだったのは、経常収支です。3月の経常収支は33.3億ドルの経常赤字となりましたが、市場予想であった38億ドルを下回りました。これも製造業の景気が改善していることの証です。
■トルコ製造業の回復は、米中対立が要因のひとつに
トルコの製造業が息を吹き返している背景に、パンデミックと米中対立がもたらした特殊な事情があります。パンデミックによる世界のサプライチェーンの乱れによって足元で国際輸送コストが大きく上昇しています。
特にコンテナ船による輸送コストが高騰していますが、バルチック海運指数の上昇からもこの現象を確認することができます。実はこの状況はトルコの製造業に大いに追い風になっています。
本来であれば、中国から物資を調達していたEU(欧州連合)諸国にとってトルコは中国の代替国になっています。トルコはEUに陸路でつながっていて輸送に船を使う必要がないし、トルコリラ安で労働コストが大きく下がっているからです。
もうひとつトルコに追い風になっている要因は米中対立です。米国でバイデン政権が誕生してからEU諸国の中国に対する姿勢が厳しくなってきています。
バイデン政権が誕生してから、EU諸国の中国に対する姿勢が厳しくなってきているとエミンさんは指摘している (C)Scott Olson/Getty Images News
香港問題、ウイグル自治区の強制労働とジェノサイド問題を理由に、EU諸国は対中依存を減らしていきたいと考えていて、その点でもトルコが中国のオルタナティブとして魅力が高まっています。
一方で、欧米はトルコの現政権に対してはかなり厳しい見方をしているので、政権交代がない限り、欧米からトルコへの大規模な投資は難しいと考えます。
【参考記事】
・米国がトルコを「敵」と認定して制裁発動。今後、地政学的にとんでもないリスクに…(2020年12月16日、エミン・ユルマズ)
・EUサミットでトルコに経済制裁の可能性!ワクチン期待からトルコリラの動きは安定(2020年12月9日、エミン・ユルマズ)
■5月後半から、トルコリラのボラティリティが高まるか
今週(5月10日~)のトルコリラですが、対米ドル、対円で大きく動かず、対米ドルでは8.30リラ水準、対円では13円台前半で推移しています。
トルコ中銀は、5月6日(木)に行われた政策会合で、市場予想どおりに政策金利を据え置きました。
今週(5月10日~)はラマダン明けで、14日(木)から3日間はラマダン祭りとなります。例年どおり、お祭り前日からトルコは休日入りしますので、5月12日(水)から5連休ということです。ラマダンとロックダウンが終了する5月後半から、トルコリラのボラティリティが高まると考えます。
【参考記事】
●ラマダン明けから、トルコリラは大きく動くか。トルコ政府がジェノサイド認定に反発する理由(4月28日、エミン・ユルマズ)
(出所:IG証券)
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