米ドルの全面安が進んでいる。
ドルインデックスは81.48まで下がり、昨年11月安値から先月につけた高値までの上昇幅の半分程度を吐き出す形となった。
ドルインデックスの下落に連れた形で、昨年11月の安値から、各通貨は反発を続けている。フィボナッチ数列でその比率を表せば、ユーロは38.2%、英ポンドは50%超、スイスフランにいたっては78.6%に近いレベルの回復を見せている。
ちなみに、米ドル/円は、昨年11月安値から今年5月高値までの上げ幅に対し、足元では78.6%を超えるほどの下落となっている。ただし、米ドル/円は昨年11月安値からの切り返しがいちばん弱かっただけに、米ドル全面安を受け、米ドルの反落が強そうに見えているだけなのだが…
筆者はこのコラムを7月30日(金)に書いているが、前回のコラムで指摘したように、7月も陰線引きが決定的だ(「ドル安が進んでからドル安の材料探し。専門家の話は所詮トレンドの後追いだ!」を参照)。
これで、ドルインデックスが2カ月連続で陰線となるだけではなく、5月の罫線と相まって、「宵の明星(※)」を形成することとなる。これは、米ドル安トレンドの継続を示唆するサインと受け止められるのだ。
(編集部注:「宵の明星」は、上昇相場から下降相場入りへの転換を示すテクニカルのサイン。上昇相場の過程で「十字足」が出現し、これを機に陰線引けが続いた形のこと)
■ドル安が進むにつれ、市場の関心は米国の財政赤字へ
各通貨の中でも、ユーロの反発はマーケットの関心がより高く、市場のコンセンサスから見れば、かなりのサプライズであろう。
甘いだとか、茶番だとか、欧州の金融機関に対するストレステスト(資産査定)はいろいろ批判されているが、結果発表後、ユーロのマイナス材料にはならなかった。
つい最近まで、ユーロのパリティ(1.0000)の可能性を強く主張していた金融機関でさえ、見通しを上方修正し始めたほどだ。

そもそも、ユーロ圏の国々のソブリンリスク(国家に対する信用リスク)が過大に喧伝され過ぎていた。
その上、トリシエECB(欧州中央銀行)総裁が言うように、ユーロ圏全体の財政状況は米国よりマシなもので、たとえば、米国のカリフォルリア州の債務問題の深刻さから見れば、米国のソブリンリスクのほうが大きいはずだ。
米ドル安が進むにつれ、マーケットの焦点は、しだいに米国の財政赤字に移るだろう。
相場の真実とは、トレンドの進行が先で、ファンダメンタルズの材料は後からついてくるものだ(「危機はドルに飛び火しボコボコにされる。資源国・高金利通貨の急落はその前触れ」を参照)。
■格付け会社自身が、格付けがいい加減だと知っている!?
さらに、マーケットの裏に隠れている一部機関投資家の暗躍も見逃せない。
ゴールドマン・サックスが数年前にギリシャ政府の債務隠しを手伝ったと伝えられているが、その一方で、ギリシャ債券の空売りを最初から行っていたそうだ。
また、流されやすいという一般庶民の特徴を利用して、「PIIGS(ブタ達)」(※)といったインパクトの強い造語で市場参加者の感情をあおり、トレンドの形成とその利用を図ったと思われる。
ちなみに、米国の金融改革法案は「暗黒のウォール街」にメスを入れようとしているが、一部ではすでに成功を収めている。
WSJ(ウォールストリート・ジャーナル)の報道によると、3大格付け会社は揃って、債券の発行者に対し、その格付けを公募書に記載しないよう求めたという。
「格付け会社が格付けの責任を負う」という規定が法案に盛り込まれ、これが実施されることを受けたものだが、このことは、格付けがどれくらいいい加減なものであるかを、彼ら自身がよく知っているからに違いない。
(※編集部注:「PIIGS」とは欧州で財政面に不安があると言われるポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペインを指す言葉)
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