好調だったトルコ製造業の勢いが鈍化。ウクライナ戦争の長期化が悪影響を与え始めた
5月13日(金)にTUIK(トルコ統計局)は3月の鉱工業生産指数を発表しましたが、3月は前年同月比で9.6%上昇となったものの、2月に比べて1.8%低下となりました。2月は年間ベースで13.3%上昇だったことを考えると製造業の勢いが鈍化しているのがわかります。
ウクライナ戦争の長期化に伴う原材料高が、2020年後半から堅調だったトルコの製造業にも悪影響を与え始めました。
(出所:TUIK)
今週(5月16日~)発表されたもっとも重要なマクロ経済指標は、3月の経常収支です。TCMB(トルコ中銀)の発表によると、3月は55.5億ドルの経常赤字となりました。
(出所:TCMB)
3月の赤字は市場コンセンサスより少なかったものの、直近12カ月の経常赤字は242億ドルとなり拡大傾向が続いています。経常赤字の拡大はトルコリラの売り圧力を高めるので、トルコリラ投資家にとって重要な指標のひとつです。
実質実効レートは上昇も、依然として歴史的な割安水準にある
トルコリラの4月の実質実効為替レートは3.26ポイント上昇し、57.05になりました。実質実効為替レートは昨年(2021年)12月に史上最低水準である47.72まで下がった後に上昇に転じましたが、依然として歴史的な割安水準にあります。
【参考記事】
●【トルコリラ見通し】トルコの解散総選挙が、2月か3月に発表されると予想。今はテクニカル分析を使った短期トレードが最適な戦略か(1月12日、エミン・ユルマズ)
(出所:トルコ中銀のデータを元にメルマガ部が作成)
実質実効為替レートが今年(2022年)に入ってから上昇に転じた背景にウクライナ情勢もあります。4月の住宅販売の数字を見ると外国人による住宅購入が急増しているのがわかります。
特にロシア人はイスタンブール、アンタルヤ、アンカラなどの大都市で住宅を購入しているようです。ロシア人の次に多いのはイラン人とイラク人です。
【参考記事】
●【トルコリラ見通し】トルコリラにとってコモディティ価格の下落は追い風。ラマダン明けの再来週以降、本格的に動き出しそう(4月27日、エミン・ユルマズ)
●【トルコリラ見通し】トルコリラ/円は目先、9円までの上昇を想定するべき。ロシアの富裕層の一部が、トルコ資産へ投資を開始!?(4月20日、エミン・ユルマズ)
NATOとエルドアン政権の政治的摩擦が、トルコリラ売りに拍車をかけている。反発しても限定的か…
今週(5月16日~)のトルコリラですが、対米ドル・対円ともに下げが続いていて、米ドル/トルコリラは15.90リラを超え、トルコリラ/円は8.10円まで下がりました。
(出所:TradingView)
(出所:TradingView)
NATO(北大西洋条約機構)とエルドアン政権の政治的摩擦がトルコリラの売りに拍車をかけています。エルドアン大統領は、スウェーデンとフィンランドのNATOへの加盟を認めない考えを示しています。NATOへの新規加盟は全加盟国が認めないとできません。
トルコが両国の加盟を認めない理由は、トルコ軍が長年戦ってきたクルド系テロ組織PKK(クルディスタン労働党)への両国の支援とのことです。
もちろんこれは表向きの理由で、本音はロシアとの関係を悪化させたくないのと両国の加盟を認めるなら欧米から何らかの譲歩を引き出そうということでしょう。
エルドアン大統領はスウェーデンとフィンランドのNATO加盟を認めない考えを示している。クルド系テロ組織への支援を表向きの理由に挙げているが、本音は別にあるという (C)Anadolu Agency/Getty Images
ミサイル防衛システムS-400をロシアから購入以降に、トルコへの輸出がブロックされた米国の次世代戦闘機F-35の引き渡しやトルコにいるシリア難民への支援の強化など様々な交渉材料はあります。
【参考記事】
●トルコリラはスワップ金利狙うには好環境!? トルコが抱えるリスク、S-400問題とは…?(2019年2月27日、エミン・ユルマズ)
一方でトルコの姿勢はNATOの一体感を壊して、ロシアを助ける形になりました。また、NATOとの政治対立がトルコリラの売り要因にもなりました。
トルコ政府は最終的に両国の加盟を認めざるを得ないと思いますが、政治的な対立が残るのでトルコリラの反発は限定的になると予想しています。
エミン・ユルマズ
<内容紹介>
今後の世界経済はどのように展開していくのか?すべてがバブルと思われるほど価格が上昇したいま(2022年春)、リーマンショック以上の世界経済の崩壊(!)が近づいていることを、著者は深く懸念している。さらにサイバーセキュリティへの懸念や暗号通貨の広がりなど、グローバル化、デジタル化した世界経済ならではの、新しい問題についても警鐘を鳴らしている。
著者は、こんなときだからこそ、日本に世界の資金が集まるチャンスとも言う。投資をする人も、そうでない人も、世界経済の大転換期に入った今、是非読んでおきたい一冊である。
⇒Amazon.co.jpで『エブリシング・バブルの崩壊』を見る
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)