金融マーケットにはいろんなリスクが常に付きまとう。そのうち、いちばん厄介なのは「突発的な事件」で、事前にまったく予測できないのだから、一時的だとしても、インパクトは強くなることが多い。
今週、11月23日(火)に、2つの「突発的な事件」がマーケットに衝撃を与えた。1つは北朝鮮による軍事行動で、もう1つはメルケル独首相の「ユーロの状況は異例なほど深刻」という発言だ。
前者については、地政学リスクが高まったことによって、有事の米ドルと有事の金(ゴールド)が同時に買われる展開となり、ユーロなどの通貨を押し下げることとなった。
そして後者については、さらなるユーロの暴落を誘導した。そのインパクトは北朝鮮の砲弾より強かったとも言える。


みなさんもご存知のように、EU(欧州連合)の中核であるドイツの支持なしでは、EUやECB(欧州中央銀行)が抱えるあらゆる問題を解決することはできないと言っても過言ではない。
その分、メルケル独首相の弱気発言が、市場関係者に大きなショックを与えたことは想像できる。
ましてや、独首相のこの発言は、アイルランド政府がEUとIMFからの支援受け入れを表明して、わずか48時間しか経っていないタイミングで行われたものであり、投資家心理を冷やすには十分すぎるほどのものとなった。
■独首相の発言は失言にすぎず、スタンスは変わらない
もっとも、メルケル独首相の発言の背景には、2013年で期限切れとなる欧州金融安定化基金(EFSF)の後に発足する「欧州版IMF」を念頭に、「今後の危機発生時には、民間投資家にも支援や負担を求める」というドイツの構想を支援しようとする思惑がある。
マーケットはこのようなドイツの不満を見透かしており、2013年より前倒しで民間投資家が負担を強いられるのではないかと、疑心暗鬼になっている矢先でのメルケル独首相の発言であった。
当然のように、ユーロ/米ドルは急落し、ユーロ/円やユーロ/英ポンドといったユーロのクロス相場も巻き込まれる形で下落し、ユーロは全面安となった。まさに「言葉は砲弾より強し」である。
しかし、マーケットが懸念しているのは、アイルランドの財政問題よりも、アイルランドより規模の大きいポルドガルやスペインといった国々に「伝染」していく可能性である。
もちろん、ドイツを含めて、ユーロ圏の各国首脳やECBもこのことをよく知っているはずだ。
したがって、メルケル独首相の発言はあくまでも「失言」であり、ユーロそのものに対するドイツのスタンスが変わったと判断するのは大げさすぎる。
ドイツの中央銀行総裁による強いユーロへの支持表明と、必要があれば現在のEFSFの資金枠(7500億ユーロ)をさらに増資する用意があるといった発言は、このような市場の懸念を払拭する狙いのものであり、ドイツ政府のスタンスを強調したものと受け止めている。
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