FRB(米連邦準備制度理事会)がタダ同然で紙幣を印刷し、その紙幣で債券などの資産を買い、資金を市場に供給することである。
その結果、市場に現金があふれて、米ドルの価値を押し下げ、株価を押し上げていくことである。
実際の状況も、そのとおりの展開となっている。
下の図は2回行われた「QE」の金額と内容を比較したものだ。ドルインデックスとNYダウを比較して見れば、前述の説明が正しいことは一目瞭然だろう。
(出所:米国FXCM)
●「QE1(量的緩和策第1弾)」
・実施総額:1兆7500億ドル
・実施期間:2009年3月~2010年3月(約1年間)
・買い取り対象:住宅ローン担保証券(MBS)、政府機関債
●「QE2(量的緩和第2弾)」
・実施総額:8500~9000億ドル
・実施期間:2010年11月~2011年6月(約8カ月)
・買い取り対象:米国債
「QE1」実施時と同様に、量的緩和策の終了で市中の資金流動性が低下してくるので、理論どおりならば、その反動で「債券安・株安・米ドル高」といった流れが作り出されるはずだ。
実際、債券王のビル・グロース氏が率いる世界最大の債券ファンド「PIMCO」が保有する米国債をすべて手放したのも、前述した流れを読んでいるためである。要するに、FRBという最大の買い手がいなくなれば、米国債の価格は落ちてくるという理屈だ。
■ギリシャ危機も米国債が選好されている一因に
ところで、「PIMCO」が米国債を手放した後も、米国債は反落するどころか、むしろ価格は上昇していた。
マーケットは米国の景気後退のリスクを重く受け取り、リスク回避先として米国債を引き続き選んでいるようだ。
米国の長期金利(10年もの国債の金利)は低下傾向にあり、これが金利差に敏感な米ドル/円のアタマを押さえる最大の要因になっていると指摘する声は多い。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 日足)
その一方で、ギリシャ危機の深刻さが増すにつれて、「PIIGS(ポルトガル・アイルランド・イタリア・ギリシャ・スペイン)」発行の国債とドイツ国債のスプレッド(金利上乗せ幅)は拡大し続けている。
それと同時に米国債も買われ、利回り低下(債券価格は上昇)がもたらされた。
また、ギリシャ危機を含めて、米国と世界経済の二番底懸念が強まるに連れて、米国株が続落して「債券高」と「株安」が同時進行するといった現象が強まっており、理論どおりになっていないことがわかる。
■米ドルは株式市場の影響を大きく受けている
それでは、為替市場への影響はどうなるかというと、今のところは、一応理論どおりの反応を見せている。
だが、注意していただきたいのは、米国株が先週まで2002年10月以来の6週続落となり、リスク選好度が低下している中で、ユーロや豪ドルなどが売られ、対照的に米ドルが買われている側面が大きいということだ。
ギリシャのデフォルト(債務不履行)云々よりも、株式市場のパフォーマンスの影響のほうが大きかったと言える。
したがって、最近のクロス円における円高傾向も納得できるのではないだろうか?
つまり、金利差に敏感な米ドル/円は米国債が安定していること(利回りは低迷)によりアタマを抑えられ、その一方で、ユーロ/米ドルなどのメジャー通貨ペアはリスク度の低下で売られる傾向となっているため、結果的に、クロス円も低迷を余儀なくされているのだ。
このように、世界中の金融セクターがお互いに影響しあって、毎回違った反応を見せることが多いため、教科書どおりにならないことは少なくない。
ただ、米ドル/円を除いて、今のところは米ドルの反騰が教科書どおりに進んでいるので、メインテーマの「QE3」がないかぎり、しばらくは「米ドル高」の流れが続くと思っている。
ここまで「正論」で「米ドル高」の蓋然性を説明してきたが、先週のコラムで提起していた「邪説」もある(「『QE3』の可能性は完全には消えていない。発動される場合、タイミングを計る方法は?」を参照)。
あの前IMF専務理事の逮捕に絡む記述は、スペースの都合により、残念ながら、また次回に譲る。
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