■米ドルの急落はサプライズ的側面が大きかった
先週のコラムでは、米ドル/円が100円の大台へタッチせずに反落してくる公算が高いことを書いていたが、マーケットはそのとおりの展開を見せてくれた。しかし、あまりにも劇的な値動きだった。
【参考記事】
●約1年ごとに天井を打つサイクルを見よ!米ドル/円は桜のごとく一旦散る運命にあり(2013年4月12日、陳満咲杜)

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 4時間足)
まず、100円の節目にギリギリまで接近していたこともあり、事実上、100円の大台打診の有無が大した意味を持たない物差しとなっていた。
その後の反落は予想どおりとはいえ、あまりにも「タイミング良く」出された米為替報告書のほか、ボストンテロという想像もつかない材料が出てきたので、米ドルの急落は想定内とはいえ、やはりサプライズ的側面が大きかった。
もっとも、筆者の持論、つまり、「材料は値動きの後を追って発生するもの」といった理屈に照らすと、前述の材料は、中身はともかく、「タイミング良く」出たことに関してはうなずける。
前回のコラムで強調したように、円安トレンドはいったん頭打ちの時期に差し掛かっていたから、何らかの材料が出てきて、米ドルの反落がうながされること自体は、むしろ当然の成り行きと言える。
ゆえに筆者は、初めて自ら主催するセミナーの日程を、あらかじめ4月6日(土)に決定していた。
セミナーにおいて、4月6日(土)を選んで開催した理由について、「来週、米ドルの反落が見られるので、本日開催することによって、皆さんに印象づけたい」と説明していた。
先週末(4月12日)から今週月曜(4月15日)にかけての米ドル急落のおかげで、少なくとも筆者のメンツは一応保たれたが、正直、その時点で、これから何の材料が出てくるかはまったく予想していなかった。
■米ドル/円をサポートする“アベクロライン”とは?
ところで、足元の米ドルの切り返しも、想定より強いものである。
執筆中の現時点では、98.70円まで回復しており、本日(4月19日)も陽線引けなら、4月16日(火)から4連騰になるだけに、再度高値更新の勢いさえ感じられる。
では、米ドル/円が再度高値更新し、円安トレンドを継続させていくのだろうか。先週(4月8日~)の米ドル/円の反落は、あくまでメイントレンドにおける一時的なスピード調整だったのであろうか。
こういった疑問に答えるために、米ドル/円とクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の両方を、もう1回点検しよう。
まず米ドル/円だが、週足で見てみると、下のチャートに記したように、上昇チャネルを確認できる。
(出所:米国FXCM)
同チャネルのサポートラインは、アベノミクスで始まり、黒田新政で大陽線が形成された先々週(4月1日~)の安値を連結しているから、名付けて“アベクロライン”と呼んでいる。
■“アベクロライン”の平行線がレジスタンスとなりそう
同ラインと平行に引いた抵抗ラインは、ちょうど2月と3月第1週の高値を連結したラインと重なる。そして、先週(4月8日~)はわずかに同ラインをブレイクして高値をつけたあと、そこから下がって安く引けたことから、同ラインの役割が確認された。
同抵抗ラインが当面レジスタンスとして効果を発揮するなら、米ドル/円の高値再更新も容易ではなかろう。
次に注目されるのは先々週(4月1日~)と先週(4月8日~)の間で、マドを空けていたことだ。
株式と違って、日足でさえ、マド空けが珍しい為替市場では、週足におけるマド空けは特別な意味を持つ。
実際、日銀の異次元緩和で大きく上昇した先々週(4月1日~)の大陽線の後にマドが空けられ、また先週(4月8日~)の足型は「塔婆」に近いだけに、当面のトップアウトを示唆する組み合わせとして有力視され、やはり、高値の再更新は難しいようにみえる。
今週(4月15日~)の反落を、一種のマド埋めの動きとして見る場合、足元の切り返しはマド埋め後の反動としてよく見られる値動きだ。しかし、このような値動きは往々にして長続きせず、再度、頭打ちして反落してくる公算が大きいとみられる。
■ドルインデックスから主要通貨に対する米ドルの強弱を測る
クロス円を測る上では、米ドル/円以外に一番大事なのはドルインデックスの動向だ。というのは、ドルインデックスの強弱をもって主要通貨に対する米ドルの強弱を測れる上、円に対する状況も推測できるからだ。
最近のドルインデックスを見るにあたり、金の暴落との関係からもヒントが得られる。
(出所:米国FXCM)
伝統的に、金と米ドルの値動きは相反する傾向が強いが、最近の傾向では、むしろ似たような値動きが観察される。
4月12日(金)と15日(月)の2日間、金が30年ぶりの暴落を果たしたなか、ドルインデックスは軟調な推移に留まった。そして、17日(水)にドルインデックスは大きく反騰したが、これは金の値動きとの関連性云々よりも、バイトマン独連邦銀行総裁による「ユーロ利下げ」発言による側面が大きかった。
したがって、最近の米ドルの強弱と金相場は関連性が薄い上、金の暴落は、金自体の供給関係やサイクルに基づく要因が大きく、中国経済減速云々との関係から解釈することはあくまで事後的なものだと思う。
何しろ、中国の経済成長の減速は規定路線だし、広く予想されていたから、今さらサプライズ的な材料ではない。その上、同じ中国景気後退をもって人民元の19年ぶりの高値更新は解釈できない。
■主要通貨は引き続き米ドルに対して軟調に推移
閑話休題。要するに最近マーケットを震撼させている事件として大きく取り上げられた金の暴落と中国GDPの低下はあくまでも独立性の高いものであり、為替マーケットへのインパクトは弱い。
米ドル相場全体はユーロ/米ドルをメインにすえて考えた方がよい。そして、ユーロ圏の利下げ予測をドルインデックスを支える主要な要素ととらえた方が無難だ。
EU(欧州連合)の利下げがあれば、ユーロの切り返しを支える随一の要素、すなわち金利差の要素が消えることになるから、米ドルが一段と買われることが予想される。
ただし、一時、出口政策がささやかれていたFRB(米連邦準備制度理事会)にとって、最近の商品相場急落により、デフレ懸念が浮上していることは新たな頭痛の種となっているはずだ。
そのため、米政策の転換はなお時期尚早で、ドルインデックスは強含みでありながら、当面レンジ変動に留まるのではないかと推測される。
要するに、米ドル全般が底堅く推移しているから、ユーロ、英ポンドなどの主要通貨は、引き続き米ドルに対して軟調に動くと予想される。
■円安に振れる局面は、戻り売りの好機か
その上、豪ドルなど資源国通貨は、商品相場につられて目先下値打診を続ける見通しであることも米ドルの堅調につながっている。
となると、筆者がいつも強調しているように、クロス円は、実はドルインデックスが堅調な局面ほど軟調であることが多い。
米ドル/円の高値再更新が、筆者の推測のように難しいのであれば、米ドル/円よりもクロス円の方が総じて円安トレンドに対する修正を先行し、また、その値幅も大きいだろうと思われる。
実際、クロス円の中で、上昇局面ではリード役を果たしてきた豪ドル/円が、調整局面におけるリード役を引き続き担うのではないかとみる。
執筆中の現時点で、豪ドル/円が101.55円前後のレートを示し、先週末(4月12日)安値の103.05円や今週(4月15日~)高値の103.84円になおほど遠い状況から考えて、円安トレンドに対する調整は、まだ始まったばかりで、すぐさま終焉するよりも、これからも継続される公算が高いと思う。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:豪ドル/円 4時間足)
筆者の見方が正しければ、足元でまた円安に振れる局面は、むしろ戻り売り(外貨売り・円買い)の好機ととらえることもできる。市況は如何に。
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