(「ソシエテ ジェネラル・会田卓司氏に聞く(2) サプライズ的な日銀追加緩和はあるのか? 」から続く)
■2016年末125円、3年後130円を目指し緩やかな円安が続く
では、今後の米ドル/円相場の見通しはどうか。
「まず、今後3年程度、2018年いっぱいくらいまではゆるやかな円安トレンドが続くと思われます。
メドとしては、2016年末に1ドル=125円、2018年末に1ドル=130円を目指すような展開と予想します。
その根拠としては、まず、現在のアベノミクスと日銀の量的・質的緩和が実体経済に着実に効き始めており、その効果は、今後だんだんはっきりしてくると思うからです」(会田さん)

アベノミクスと日銀の緩和は、実体経済に着実に効き始めている――。会田さんは、その効果は今後だんだんはっきりしてくると見ているようだ
現在のマーケットでは、中国経済の失速、中東の情勢不安、原油価格急落…などさまざまな海外の不安要因で逃避的に円が買われて円高になるという動きが起きている。
こうした動きは、今後も起きる可能性はあるが、いずれも一時的なものであり、基調としてはアベノミクスと量的・質的緩和による、ゆるやかな円安トレンドが継続する、というのが会田さんの見方だ。
■アベノミクスでマネーが膨張する力が生まれてきている
「今回のアベノミクスの成果で最も大事なポイントは、お金の巡りがよくなった、ということです」(会田さん)
それを示すのが、以下の図だと会田さんは言う。

(出所:2016年1月 ソシエテ ジェネラル証券会社 東京支店「新しい日本経済の見方~デフレ完全脱却と財政安定化へ今回は何が違うのか?~」)
これは、政府と企業の貯蓄率を示したものだが、マイナスなら資金需要があり、プラスなら資金需要がない状態を示す。
貯蓄率がプラスということは、企業がお金を溜め込んでいるということで、これはネットの資金需要がマイナスということ。一方、貯蓄率がマイナスということは、お金を積極的に使って貯蓄を減らしたり、借金を増やしたりしているということ。
マクロ経済のもう1つの主体である家計は、住宅ローンなどお金の借り手という面もあるが、銀行へ預金することなどを通じて、ネットでは常に資金の出し手になる。
つまり、企業と政府の資金需要を合わせたものこそが国全体の資金需要を示していると言える。それを会田さんは「ネットの国内資金需要」と呼んでいるわけだが、それは上の図では灰色部分で示されている。
「このネットの国内資金需要こそ、日本経済においてマネーが膨張する力になります。ところが、2000年代はこの貯蓄率がプラス圏で推移しており、これが日本経済がデフレに落ち込んでいた背景となります。
しかし、アベノミクスが始まった2013年頃からこれがマイナス圏に入ってきました。つまり、これはマネーが膨張する力が生まれてきているということです」(会田さん)
■ネットの国内資金需要が一時的に押し戻された原因
ところが、2015年にネットの国内資金需要は、ゼロ近辺まで押し戻されてしまっている。これについて会田さんは、政府側の要因と企業側の要因があるという。

「政府側の要因としては消費税増税によって財政が緊縮的になっていることが挙げられます。しかし、この1月から3.5兆円の補正予算が審議されて実施される見通しですので、これによって政府の資金需要が回復します。
企業側の要因としては、急速な原油安によって日本企業全体の現金支出が少なくなり、懐にお金がたまってしまっているということがあります。
一方で経済のマーケットの環境が世界的に混乱しているので設備・人材への投資や企業買収にも慎重になり、その分、企業貯蓄率が上がってしまっているという事情があります。
しかし、当社の見通しでは原油価格は1バレル=30ドル程度を底に今後、回復していく予想ですし、世界経済の混乱が落ち着くとともに企業は手元資金を株主還元、設備投資、雇用、企業買収などに積極的に使う姿勢を改めて強めていくと思われます」(会田さん)
以上のことから、会田さんは、今後ネットの国内資金需要は再びマイナスを拡大していくと予想する。
「これは、国内の資金需要が拡大しているということで、このマネー膨張の力こそがインフレ圧力となり、デフレ脱却は着実に実現していくと思われます。そして、これはとりもなおさず、円安圧力が継続するということも意味します」(会田さん)

(出所:2016年1月 ソシエテ ジェネラル証券会社 東京支店「新しい日本経済の見方~デフレ完全脱却と財政安定化へ今回は何が違うのか?~」)
今後の米ドル/円を考える上で…
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)