■金融庁が仮想通貨交換業者へ立入検査やモニタリングした結果を公表
金融庁は、2018年8月10日(金)、「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ」をウェブサイト上に公表しました。
今回、公表されたのは、これまでに実施された登録業者16社とみなし業者16社に対するモニタリング結果に加え、全みなし業者と登録業者7社に対して行われた立入検査の結果をまとめたもの。
資料のなかには、興味深いデータや金融庁の仮想通貨交換業者に対する今後の方針を示す記述などもありましたので、少し取り上げてみたいと思います。
■仮想通貨交換業者の総資産は、前事業年度比で平均553%拡大!
まず、この資料で真っ先に目を引かれたのが、業界の実態を表すデータとして掲載されていた以下のもの。見ると、仮想通貨交換業者の事業規模がいかに短期間で急速に拡大したのかが、よくわかります。

※登録業者13社とみなし業者4社が対象
※各業者から提出された資料に基づいて作成されたものであり、定義が異なる場合がある
※仮想通貨交換業登録申請によって各業者から提出された資料等に基づき数値を算出しているため、調査時点は一致していない
(出所:金融庁「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ 主なポイント」3ページ)
上の図は、登録業者13社とみなし業者4社のデータを元に作成された前事業年度と直近事業年度の総資産額を表したグラフです。前事業年度では、100億円~1000億円の業者が一番金額が大きいカテゴリーとなっており、この割合が12%でしたが、直近事業年度については、1000億円以上の業者が12%を占め、100億円~1000億円の業者も29%に増加しています。
総資産額の前事業年度比は、対象業者平均で、なんと553%拡大という数値に。
各業者の事業年度の期間などは公表されていませんが、資料にも「昨年秋以降の暗号資産の価格の急騰もあり」とありましたので、ビットコインをはじめとする仮想通貨があきれるほどの暴騰を見せ、それまで興味を持たなかった層にまで一気に仮想通貨取引が広がった2017年と、その前年度に当たる2016年頃の総資産額の対比ではないかと考えられます。

(リアルタイムチャートはこちら → 仮想通貨リアルタイムチャート:ビットコイン/円(BTC/JPY) 月足)
調査対象の業者平均で、総資産が前事業年度比553%拡大だなんて、スゴい勢いだなぁと感じますが、上のチャートのとおり、仮想通貨の暴騰っぷりは常軌を逸するものがありましたし、世間の仮想通貨熱も一部では、かなりヒートアップしていたという状況がありました。
今になってみると、こういうのを「バブル」って言うのかしら? と、思わなくもないのですが、少なくともあの頃は、仮想通貨交換業者が、前事業年度比で平均553%拡大という総資産の伸びを示したとしても、不思議はない環境だったと言えます。
■役職員1名当たり33億円の預かり資産を管理。管理する人が少な過ぎ!?
ただし、仮想通貨業界が急激な成長を続けるなかで、サービスを提供する業者側の運営体制は、必ずしも万全だったとは言い難いというのが、これまでの実情でしょう。
大きいところでは、2018年1月に、みなし業者のコインチェックが起こしたNEM(ネム)流出事件などが挙げられますが、大きな事件は起こさずとも、2018年に入って、金融庁から業務改善命令や業務停止命令などを受けた登録業者、みなし業者は複数ありました。
【参考記事】
●コインチェック事件は全額返金で一転解決!? 消えた580億円分の仮想通貨NEMどうなる?
●金融庁がみなし業者含む7社に行政処分。コインチェックの月間取引高は約4兆円!?
●業界激震! bitFlyerなど6社に業務改善命令。ザイFX!が発見した6社の共通点とは?
いずれも、内部管理態勢や経営管理態勢の不備を指摘されて処分を受けたケースが多かったと記憶していますが、不備を指摘され、処分を受けた業者は、根本的にどんな問題を抱えていたのか…?
問題の背景を端的に表しているデータが「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ」の中に掲載されていました。
以下は、仮想通貨交換業者が有する顧客からの預かり資産の割合と役職員1名当たりが取り扱っている預かり資産の割合を表したグラフです。

※登録業者とみなし業者など32社を対象としたデータ
※各業者から提出された資料に基づいて作成されたものであり、定義が異なる場合がある
※登録業者は2017年12月末時点の数値、みなし業者は直近の利用者財産報告書の数値から算出しているため時点は一致していない
(出所:金融庁「仮想通貨交換業者等の検査・モニタリング 中間とりまとめ 主なポイント」3ページ)
「預かり資産の割合」を見ると、金額が100億円~1000億円の業者が19%、1000億円以上が9%と、巨額の預かり資産を抱えている仮想通貨交換業者が数社あるんだなぁ…ということがうかがい知れますが、それよりもここで注目したいのは、「役職員1名当たりの預かり資産の割合」。
平均すると、仮想通貨交換業者の役職員1名当たり33億円の預かり資産を管理していることになるそうで、資料の中で金融庁は、「少ない役職員で多額の利用者財産を管理している」という点を問題視していました。
あいにく、「役職員1名当たり33億円の預かり資産を管理している」という状態が、一般的な企業にあって適切なのか、そうでないのか、判断するための材料が手元にありませんが、金融庁がそう指摘しているということは、少なくとも、この状態では、顧客資産を安全に管理することや安定した経営・サービス運営を維持することが難しいだろう、ということなんでしょう。
種々の行政処分が下されるに至った仮想通貨交換業者が抱えていた根本的な問題は、相場の過熱感も手伝い、事業規模が急速に拡大した影響で増幅した業務を適切にこなすための人材確保が間に合わず、結果、必要なノウハウやリソースが十分でないまま、万全とは言い難いサービスを顧客に提供し続けていた、という点にあるようです。
では、そうした根本的な問題を抱えた仮想通貨交換業者が…
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