■トルコリラ相場を動かしているのは誰?
犠牲祭によるトルコの大型連休が終わって、トルコリラ相場も再び動き出しました。
大型連休中に相場がほとんど動かなかったことはトルコリラ相場を動かしているのはミセス・ワタナベでも欧州の投資家でもないことを証明しています。トルコリラ相場を動かしているのはトルコ人です。
(出所:Bloomberg)
【ミセス・ワタナベに関する参考記事】
●「ミセス・ワタナベ」のルーツを探れ(1) 実は90年代半ばに英国で生まれた言葉?
●「ミセス・ワタナベ」のルーツを探れ(2) なぜ佐藤、鈴木ではなくワタナベなのか?
今年(2018年)は大手銀行を含むトルコの大手企業の米ドル需要が高く、これらの企業による米ドル買い・トルコリラ売りが足元のトルコリラ安圧力を作っています。
(出所:Bloomberg)
■トルコショックはどうして起きたのか?
トルコの民間セクターには来年(2019年)の5月までに約6兆円の米ドル建て債務の償還があると言われています。また、その3分1は10月期限だそうです。
8月上旬のトルコショックは、これらの企業のトルコリラ売り・米ドル買いにヘッジファンドが便乗したから起きたと考えています。
(出所:Bloomberg)
ヘッジファンドが便乗できるキッカケを与えたのはトランプ政権がトルコに対して発動した制裁です。
■ブランソン牧師が早期釈放されないワケは?
トルコと米国の関係悪化について、表の理由となっているブランソン牧師は釈放される気配がありません。この問題については、与党AKP(公正発展党)の幹部は早く釈放したがっているが、エルドアン大統領が同盟を組んでいる親ロシア派(ユーラシア派)は釈放に反対しているとの見方があります。
以前このコラムで、ブランソン牧師については、8月14日(火)にエルドアン大統領の側近でもある主要コラムニスト、アブドルカディル・セルウィ氏が、ヒュッリイェト(Hurriyet)紙のコラムで「ブランソン牧師は医者の診断書1つで釈放することが可能だ」と書いているのを紹介しました。
【参考記事】
●トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(8月15日、エミン・ユルマズ)
写真(中央)はトルコ政府に長期間拘束されているブランソン牧師。釈放も近いとの見方もあったが、今のところその気配はない… (C)Anadolu Agency/Getty Images
エルドアン大統領の側近で一番影響力を持っているジャーナリストがそのヒントを出してきたので、ブランソン牧師の釈放が近いと予想しました。しかし、それがなかなか実現しません。
AKPの元幹部であるトルコ人の友人によると、セルウィ氏はAKP党内の意見を代表しているそうです。一方で親ロシア派が反対しているのも理解できます。米国との対立はロシアや中国との関係を強化させる、いい口実になっているからです。ブランソン牧師の早期釈放は彼らにとってあまり望ましくありません。
■トルコリラには、まだ下値余地あり。そのワケは?
トルコリラについては、トルコ中銀の裏口利上げの効果もあり、底堅く推移していましたが、週明け(8月27日~)からまた下落に転じました。
【参考記事】
●トルコ中銀が150bpの裏口利上げを実施!? 犠牲祭で小動きも、トルコリラは底堅い!(8月22日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloomberg)
昨日(8月28日)、ムーディーズはトルコの金融機関20社の格付けを引き下げました。これらは18の銀行と2つのイスラム金融会社です。
ドイツ政府がトルコに緊急財政支援を検討しているとの報道もありましたが、メルケル政権はドイツ独自の支援よりもIMF(国際通貨基金)を含めたもっと大きな枠組みによる支援を検討しているのではないかと思います。
しかし、米国とトルコの対立が続いている間は、欧米諸国からの具体的な支援は厳しいと考えます。
トルコリラについては11月まで慎重な見方をしていて、まだ下値余地はあると考えています。トルコ経済のファンダメンタルは悪くないものの、トルコの大手企業の10月までの米ドル買いと米国との政治的対立は大きなリスク要因です。
(出所:Bloomberg)
米国との対立姿勢は両国間よりもエルドアン大統領とトランプ大統領の1on1(1対1)の対立に発展してしまっている部分もあります。
トランプ政権が11月の中間選挙で民主党に対して厳しい戦いを強いられるとの見方も強くなってきています。トランプ大統領は中国、イランやトルコとの対立姿勢をさらに深める可能性もあります。
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