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エミン・ユルマズの「トルコリラ相場の明日は天国か? 地獄か?」

なぜ、トルコリラは再び下落しているのか?
エルドアン大統領がトルコ最大の銀行没収!?

2018年09月19日(水)18:05公開 (2018年09月19日(水)18:05更新)
エミン・ユルマズ

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■トルコリラが再び下落している2つの原因とは?

 トルコリラは今週(9月17日~)に入ってからまた大きく落ちています。その原因は2つあると考えています。

トルコリラ/円 4時間足
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 1つ目は、エルドアン大統領によるトルコ最大の銀行、イシュ・バンカス(IS BANKASI)についての発言です。

 エルドアン大統領は現在、トルコ最大野党のCHP(共和人民党)が保有しているイシュ・バンカスの28%の株式を財務省に移管すべきと主張しました。

エルドアン大統領は、トルコ最大野党のCHPが保有しているイシュ・バンカスの28%の株式を財務省に移管すべきと主張。これがトルコリラ下落の原因のひとつに… (C)Anadolu Agency/Getty Images

エルドアン大統領は、CHPが保有しているイシュ・バンカスの28%の株式を財務省に移管すべきと主張。これがトルコリラ下落の原因のひとつに…  (C)Anadolu Agency/Getty Images

 イシュはトルコ語で「事業や仕事」という意味で、イシュ・バンカスは英国の金融業界誌『ザ・バンカー』の世界銀行ランキングでも、いつもトップ100に入っている銀行です。

 その歴史は古く、1924年にトルコ初代大統領ムスタファ・ケマル・アタテュルクの命令で創業されました。

【参考記事】
東ローマ帝国滅亡からクーデター失敗まで! トルコリラ急落の今、トルコの歴史を振り返る
大暴落と安定。約30年間のトルコリラ相場を振り返る。エルドアン政権の功罪とは?

 アタテュルクは自身でも銀行の28%の株式を保有し、亡くなる時に、この株式を当時党首を務めていたCHPに残しました。CHPは今でもアタテュルクの株式をコントロールし、4名の役員を派遣している状況です。

“トルコ建国の父”と呼ばれるムスタファ・ケマル・アタテュルク(1881~1938年)。トルコ革命の指導者であり、トルコ共和国の初代大統領。(C)Archive Photos/Getty Images

■エルドアン大統領がトルコ最大の銀行を没収?

 エルドアン大統領はこの状況を以前も批判していましたが、CHPの株式を財務省に移管すべきとはっきり発言したのは初めてです。

 エルドアン大統領にも一理ありまして、アタテュルクが亡くなった1938年には他に政党がなく、当時はCHPが国家を代表していたので、これらの株式はトルコ共和国に残されていると主張しているのです。

 しかし、エルドアン政権はここ数年、政治的なライバルとされるグループが保有している企業や銀行に政府執行人を派遣し、事実上の財産没収をしてきました。

 今回の発言も、いよいよトルコ最大の銀行が没収されるのではないかとの懸念を投資家に与えてしまいました。

 内外の投資家はトルコの正常化を強く望んでいるし、トルコは市場経済のルールに従ってほしい。私的所有権が尊重されていない国に海外から投資は行われませんし、国内の財産も海外に逃げるだけです。

■エルドアン、プーチン会談がトルコリラ下落の原因に…

 トルコリラの下落を引き起こしているもうひとつの要因は、エルドアン大統領とロシアのプーチン大統領による首脳会談です。

 エルドアン大統領は9月17日(月)にロシアを訪問し、シリア情勢と経済強力についてプーチン大統領と会談を行いました。

 9月3日(月)に行われたテヘランサミット(トルコ、ロシア、イラン首脳による3カ国会談)はトルコの要求がほぼ無視された形で終わったことを前回のコラムでお伝えし、この動きを受け、トルコは米国に接近する可能性が高まったと指摘しました。

【参考記事】
トルコ中銀は、6.25%利上げで満額回答! トルコリラ/円が20円超えを目指すには…!?(9月14日、エミン・ユルマズ)

9月3日(月)にイランの首都、テヘランで開催されたトルコ、ロシア、イランによる3カ国会談で握手する首脳。この時は、トルコの要求は無視されたのだが… (C)Anadolu Agency/Getty Images

9月3日(月)にイランの首都、テヘランで開催されたトルコ、ロシア、イランによる3カ国会談で握手する首脳。この時は、トルコの要求は無視されたのだが… (C)Anadolu Agency/Getty Images

 しかし、9月17日(月)の2カ国首脳会談でシリアのイドリブ地域に非武装地帯が設置されることにロシアが合意しました。また、反政府勢力とアサド政府軍はそれぞれのテリトリーに留まることも合意されたようです。

 つまり、シリア政府の北部奪還作戦にストップがかかり、イドリブにバッファーゾーンができたことでトルコに大量の難民が押し寄せるという最悪の事態が避けられました。9月3日(月)に無視されたトルコの要求はほぼすべて受け入れられた形になっています。

 これはエルドアン政権に外交的なスペースを与えましたので、すぐに米国に接近しなくても良くなりました

 したがって、ブランソン牧師の釈放の可能性も少なくなったということです。

【参考記事】
トルコ人ストラテジストが分析! 牧師釈放は近そう。ならばトルコリラ/円は19円まで反発(8月15日、エミン・ユルマズ)

写真(中央)はトルコ政府に長期間拘束されているブランソン牧師。トルコとロシアの合意によりブランソン牧師の釈放の可能性も少なくなった

写真(中央)はトルコ政府に長期間拘束されているブランソン牧師。トルコとロシアの合意により、ブランソン牧師の釈放の可能性も少なくなった (C)Anadolu Agency/Getty Images

■政治的要因で大きく動いても、17円割れは想定していない

 トルコリラが9月18日(火)に大きく下落した背景にはトルコとロシアの合意があると考えます。

トルコリラ/円 1時間足
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(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 1時間足

 エルドアン政権は米国にアプローチしようとするたびに、ロシアとトルコ国内の親ロシア派(トルコではユーラシア派とも呼ばれる)にストップされている印象があります。

 一方で、欧米のロシアとエルドアン政権に対する態度も厳しくなってきています。 ロシアメディアが伝えているニュースによれば、昨日(9月18日)、ロシアの軍用機がフランスの戦艦から発射されたミサイルで撃ち落とされたようです。

 その直前にもアサド政権のパワーベースであるラタキアに対するミサイル攻撃が行われています。

【参考記事】
トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す

 新冷戦の中のトルコをめぐる覇権争いは今後も続くと考えます。新冷戦については、9月21日(金)発売の『世界は新冷戦に突入 それでも強い日本経済!』(エミン・ユルマズ著 ビジネス社、税込み1620円)というタイトルの私が初めて執筆した本で詳しく解説しております。

 トルコリラは今週(9月17日~)・来週(9月24日~)も政治的な要因で大きく動く場面があると考えますが、トルコ中銀の大幅利上げがある程度効いているので、対円での17円割れは想定していません

【参考記事】
トルコ中銀は、6.25%利上げで満額回答! トルコリラ/円が20円超えを目指すには…!?(9月14日、エミン・ユルマズ)

トルコリラ/円 4時間足
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