■ファーウェイ・ショックで株価大暴落!
昨日(12月6日)、「ファーウェイ・ショック」が起きた。
「ファーウェイの副会長で、創立者の任正非氏の娘でもある孟晩舟さんがカナダで逮捕され、アメリカに引き渡される予定である」という報道が流れた途端、米国株先物から大暴落が始まり、日経平均先物に至っては、ザラ場では一時、11月21日(水)安値を下回り、2万1000円の節目に迫った。

(出所:Bloomberg)
マーケットにとって、この出来事がサプライズであることは間違いないが、事件の内容はかなり深く、市場関係者の想定をはるかに超えていたこともあって、逆にマーケットへの影響は一時的に留まるのではないかと思う。
なにしろ、事件の真相が解明されるとしても、それは少しずつのことだろう。そうなると、市場関係者は逆に冷静になっていくはずだと推測される。
まず、昨日(12月6日)のショックは、「せっかく米中対立が一服したのに、同事件でまた激化するのではないか」といった懸念に由来したに違いない。
■ファーウェイ副会長逮捕は巧妙に仕組まれていた?
しかし、孟さんの逮捕は、実は報道された昨日(12月6日)ではなく、なんと12月1日(土)だったことがわかり、市場関係者の多くは逆に冷静になれたのではないかと思う。

ファーウェイ創業者・任正非氏の長女であり、ファーウェイ副会長の孟晩舟氏。ファーウェイ入社当初は任正非氏との親子関係を隠し、受付嬢からキャリアをスタートしたという。
12月1日(土)と言えば、アルゼンチンでトランプ米大統領と習近平中国国家主席が会談した日ではないか。要するに、米政府は会談しながら、孟ファーウェイ副会長の逮捕に踏み切ったのだから、最初から戦略の一環として実行していたことがわかる。
となると、トランプ政権が最初から徹底的に中国への対抗策として計画した行動なので、米中対立が再度激化するリスクも計算済みだと言える。この逮捕自体も、もはや“談判”の一部であり、また、合意順守を中国に迫る計画の一部として理解できれば、市場関係者のショックもやわらぐのではないかと思われる。
そして何よりも、ファーウェイ社を事実上、米国から追い出した米国政府は本気だ。ファーウェイ社を追い込む作戦が、もう何年も前からスタートしていたことは、もはや公然の秘密で、中国ZTE社へ厳しい制裁を下したのも、ファーウェイ社制裁への布石と言われるほどだった。
■米政府はファーウェイ社追及の絶好のタイミングを待っていた
ZTE社にしてもファーウェイ社にしても、いろいろな疑惑がある中で、最も大きな容疑は米国の対イラン制裁に違反するイランとの秘密貿易、また金融取引であろう。
ZTE社はその容疑を事実上認め、莫大な罰金を米政府に収め、また10年間米政府の監督下に置かれることで延命しているが、ファーウェイ社への追及は、今まで表面上はまったく動きがなかった。
しかし、今回の逮捕でわかったのは、米政府は確実な証拠をつかんでおり、絶好のタイミングを待っていたということだ。確実な証拠なしでファーウェイ副会長に刑事責任を課すはずもなく、また米中首脳会談と同時進行の逮捕に踏み切ることはできない。
ゆえに、ファーウェイ社はZTE社以上に米政府から厳しい処罰を受けるだろう。
また、確実な証拠をつかまれた以上、中国政府も同事件を理由として、この間に達成した合意を破れない。
トランプ政権の綿密な計算の下で行われる逮捕劇にマーケットは最初驚くが、その後、すぐその戦略を理解し、また、ある意味では「歓迎」する向きになる可能性さえあるのではないかと思う。
■米政府は少なくとも5、6年前からファーウェイ社を捜査か
実際、ZTE社を制裁できたのは、FBIの手柄だと言われている。ZTE社の米政府対策要員が、実はFBIの捜索員だったらしい。
同捜索員が押さえたZTE社の内部資料には、「F7」という暗号で表された中国大手ライバル会社がしばしば登場し、F7社が米政府監視の目を盗んでイラン政府との貿易をうまくやっているといった半分嫉妬、半分うらやむような記載が多くあった。
暗号化しながらではあるが、F7社が米国のある会社を子会社にしたことも同時に記されており、ここから同会社を買収しようとしたのがファーウェイ社であったことがばれたわけだ。
米政府は少なくとも5、6年前から、ファーウェイ社の本格捜査に着手していたと推測される。
ファーウェイ(華為技術)はスマホのシェアで世界2位、売上高9兆円と言われる巨大企業だ。
■イラン政府からも証拠を入手していたというウワサも
また、孟ファーウェイ副会長に刑事責任を課すのは、彼女が米政府の監視を逃れるグローバル金融決済システムの開発や利用を主導したからだと言われている。これは利用されたHSBCが米当局に通報したことだという。
さらに、イラン政府は米政府に接近し、トランプ政権との会談を求めたところ、米政府は前提条件として、ファーウェイ社との取引記録を出すように言い、イラン政府が水面下で証拠を引き渡したとのウワサもある。換言すれば、このウワサが事実であれば、ファーウェイ社はイラン政府にも裏切られたというわけだ。
こういった証拠を押さえながら、米政府が行動を取らなかったのは、最高のタイミングを待つためだったということを、12月1日(土)の逮捕で世界に知らしめたわけだ。
しかし、逮捕のニュースが流された時点では、12月1日(土)の逮捕だったことが報じられず、市場関係者はまったく偶然の出来事だとしか思っていなかったため、一時のパニックになったというのも理解されやすいかと思う。
逆にいえば、12月1日(土)の逮捕が今となって報道されたわけを、その後、市場関係者が吟味すれば、すぐその真意に気づくはずである。
■ファーウェイ・ショックが発生する地合いはあった
事実は小説よりも奇なり。言いたいのは、ファーウェイの件は米中対立の象徴的な出来事で、米中対立はこれからも長く続くだろう、ということだ。
マーケットはその長期戦を受け入れるしかなく、また、いちいちサプライズを感じるわけにはいかないから、ファーウェイ・ショックはすでに過去のものとなり、これからの同事件の進展がどうであれ、もうマーケットへの影響はかなり限定的になるかと思う。
したがって、我々は「ファーウェイ・ショック自体」ではなく、「ファーウェイ・ショックを通じた市場に対する判断」に焦点を合わせなければならない。
もっとも、ファーウェイ・ショックが発生する地合いがあったことも見逃せない。米2年債利回りと5年債利回りの逆転、いわゆる逆イールドの現象が起きていることを、マーケットが景気後退へのサインとして受け取り、弱気センチメントにかなり傾いていたから、ファーウェイ副会長の逮捕が弱気センチメントを限界まで拡大したわけだ。
言い換えれば、ファーウェイ・ショックはファーウェイ事件に起因したとはいえ、本当はマーケットの弱気ムードの結果だったと言える。
■今後は米政府の戦略を歓迎するムードに…?
ところで、前述のように、今となっては、市場関係者は冷静になり、むしろ米政府の戦略や行動を「歓迎」するようにムードが変わりつつあるのではないかと思う。
なぜなら、米利上げ観測で株が急落してきたから、逆イールドやファーウェイ・ショックが起こったのであり、株の急落があったからこそ、現時点で来年(2019年)どころか、12月利上げもいったん見送られるのではないかとの観測も急浮上してきたので、逆に株の底打ちにつながりやすいのではないかと思われるからだ。
このような考えが正しいかどうかはともかく、大事なのは相場のことを相場に聞く姿勢だ。筆者が一番大事にしているのは、市場自体のメッセージだ。
マーケットは明らかに底打ちのメッセージを送っているから、ファーウェイ・ショックがあったからこそ、株式にしても、米ドル/円にしても、すでに底打ちしたか、底打ちに近い状況ではないかと思う。チャートをまず以下に開示するが、詳細はまた次回に。

(出所:Bloomberg)

(出所:Bloomberg)

(出所:Bloomberg)
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