■トルコの軍事作戦が2週目に突入
10月9日(水)にスタートした、シリア北東部のクルド人勢力に対するトルコの軍事作戦は、今日(10月16日)で2週目に入りました。
【参考記事】
●シリア北部から米軍撤収で戦争リスク警戒! トルコリラ/円は18円台前半へ下落…(10月9日、エミン・ユルマズ)
EU(欧州連合)各国とサウジアラビアを中心としたアラブ諸国は、軍事作戦に強い反対を表明しています。
ドイツ、フランスとイタリアなど、EU主要国はトルコへの軍事機器の輸出を停止し、トルコで工場を建設する予定だった、ドイツのフォルクスワーゲン社は建設計画の一時停止を表明しました。
EU主要国はトルコへの軍事機器の輸出を停止するなど、制裁を強めている。写真は、2018年9月にエルドアン大統領がドイツを訪問したときのもの (C)Bloomberg/Getty Images
トルコに好意的であるトランプ政権も内外からの批判に耐えられず、10月15日(火)に対トルコ制裁を発表しました。
トルコに好意的なトランプ政権も内外からの批判に耐えられず、トルコ制裁を実施した。写真は、6月に開催されたG20大阪サミットのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
制裁内容は、軍事作戦の直接担当者である3名の閣僚の資産凍結、エルドアン大統領とトランプ大統領が交渉再開で合意していた1000億ドルの貿易合意交渉の停止と、トルコの鉄鋼関連製品に対する関税を50%に引き上げることです。
■米国のトルコ制裁はどれも大した効果がない
実を言うと、これらの制裁は、どれも大した効果のあるものではありません。
1000億ドルの貿易合意は、そもそも実現が難しい上に、まだ始まってもいない交渉を停止しても意味がありませんし、鉄鋼製品の関税引き上げも現時点でトルコから米国へ鉄鋼製品の輸出が少なくなっているのであまり効果がありません。
名指しで制裁対象になっている閣僚3名は、米国に資産を保有していないので資産凍結も実質上効果がありません。
ではなぜ、トランプ政権はこの制裁を公表したのでしょうか?
トランプ大統領は突然、米軍をシリアから撤退させると決断したことで内外から強い批判にさらされています。
発表された制裁はどちらかというと、米国内(民主党と共和党)からの批判をかわすためのものに見えます。米議会は今度、トルコに対して、より強い制裁措置を可決する可能性があります。
トランプ大統領は、今、軽い制裁くらいを自らやらないと米議会から厳しい制裁が来た時に大統領の権限を使って拒否できなくなってしまいます。この制裁は共和党への配慮でもあります。
■株は急落したが、トルコリラは弱いながらも下落せず
今週(10月14日~)のトルコリラですが、対円では相変わらず18円台前半で推移していて、弱いながらも大きく下落していません。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 4時間足)
一方で、トルコの株式市場は10月14日(月)に急落しました。
(出所:Bloomberg)
トルコ政府は、昨年(2018年)のトルコリラショック以降、ロンドン市場でのトルコリラの流動性を枯渇させ、トルコリラを売りにくくしているので、昨年(2018年)のようにトルコリラの暴落が起きなくなっています。
一方で、トルコリラ需要の高まりを受け、トルコ株が大きく売られるという事態が発生してしまいます。
■軍事作戦の行方を見守り、慎重なスタンスで
前回のコラムでも言ったように、トルコの軍事作戦はどこまで続いて、今後どのような展開になるか、まったく予想できません。
【参考記事】
●シリア北部から米軍撤収で戦争リスク警戒! トルコリラ/円は18円台前半へ下落…(10月9日、エミン・ユルマズ)
クルド勢力はシリア政府に助けを求め、シリア政府軍が地域に戻る可能性が高まっているので、軍事作戦の構図が、トルコ対クルド勢力というより、トルコ対アサド政権になりかねません。
【参考記事】
●トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す
トルコの軍事作戦は最初から間違っているので、トルコ軍の早期撤退が望ましいところですが、与党は軍事作戦を背景に支持率を高め、イスタンブール市長選での敗北後に加速した党内の分断に歯止めをかけようとしています。
【参考記事】
●イスタンブール市長再選挙は与党大敗! エルドアン政権弱体化で解散総選挙も…!?(6月26日、エミン・ユルマズ)
トルコリラに関しては、引き続き慎重なスタンスが必要で、トルコの軍事作戦の行方を見守る必要があります。
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