■内戦開始から9年…緊迫するシリアで何が起きている?
今、シリアで何が起きているのでしょうか?
実は、シリアの内戦の開始から9年たっていますが、情勢は反政府勢力とアサド政権の戦いから、トルコとアサド政権が直接、軍事衝突するという事態に発展しています。
【参考記事】
●シリア内戦がトルコとロシアの代理戦争に発展!? トルコリラ/円は低ボラ相場が続くか(2月5日、エミン・ユルマズ)
●トルコ人エミン氏がズバリ直言。シリアよ、落ち着け!その時トルコリラは逆に動き出す
トルコ政府は、内戦当初から反政府勢力を支援し、アサド政権の打倒を目指してきましたが、ロシアとイランの軍事支援を取り付けているアサド政権は、徐々に反政府勢力からテリトリーを奪還し、勝利に近づいてきました。
現在、反政府勢力の最後の拠点となっているのは、シリア北部にあるイドリブです。アサド政府軍は、昨年(2019年)12月からイドリブの奪還を目指して総攻撃をかけています。
イドリブは100万人を超える民間人が住んでいて、戦闘が激化してからトルコに大量の難民が押し寄せています。
■シリア内戦は、「トルコVSシリア」の戦争に発展
トルコ政府は、なるべく難民を受け入れるようにしているものの、トルコはすでに300万人以上のシリア難民を抱えていて、トルコ国内で反難民センチメントが高まっています。
情勢の悪化を受け、トルコ政府はシリア北部におけるトルコ軍のプレゼンスを強めましたが、その結果、トルコ兵が直接、アサド政権のターゲットとなり、大量の死者が出ました。
これを受け、トルコ軍は先週(2月24日~)、「春の盾」と命名した軍事作戦を開始し、シリア政府軍の攻撃を始めました。これは宣戦布告であり、シリアの内戦が、トルコ・シリア戦争に発展したことを意味します。
トルコ軍は「春の盾」と命名した軍事作戦を開始。これは宣戦布告であり、シリアの内戦が、トルコとシリアの戦争に発展したことを意味すると、エミンさんは解説している (C)Anadolu Agency/Getty Images
ここでさらに懸念すべき点は、シリア政府のバックにいるロシアとトルコが直接、衝突することです。トルコは、NATO(北大西洋条約機構)加盟国であり、ロシアと戦争になったらNATOも関わらざるを得なくなります。
週末に、米海軍の空母、アイゼンハワーは大西洋から地中海に入りましたが、おそらくシリア情勢の悪化を受けてのことだと思います。
エルドアン大統領とロシアのプーチン大統領は、3月5日(木)にモスクワで首脳会談を行いますが、首脳会談から何らかの休戦合意が出るとの期待が高まっています。
エルドアン大統領とプーチン大統領は3月5日(木)に首脳会談を行う予定。何らかの休戦合意が出るとの期待が高まっている。写真は2018年9月に開催された、トルコ、ロシア、イランによる3カ国会談のときのもの (C)Anadolu Agency/Getty Images
トルコ兵が大量に亡くなったことに対するトルコ世論の怒りとトルコ国内で一気に高まったアンチ・ロシアセンチメントを和らげるため、プーチン大統領も、ある程度、トルコの立場に理解を示すと予想されます。
しかし、依然としてロシアは、シリア上空を飛ぶトルコの戦闘機の安全は保障できないと発表していて、間接的にはトルコを脅しています。
■トルコとロシアの休戦合意期待と原油下落がリラを下支え
先週(2月24日~)、一気に高まった世界的なリスクオフの流れが、今週(3月2日~)に入ってから減速したことで、トルコリラは、対円で17円台後半まで反発していました。
(出所:Trading View)
6.26リラ水準まで上昇した米ドル/トルコリラも、一時6.02リラ台まで下落しました。
(出所:Trading View)
トルコとロシアが何らかの休戦合意に達するだろうとの期待と、原油価格の下落がトルコリラの下支えになっていると考えます。
【参考記事】
●2020年のトルコリラ相場と注目点を解説! 一ケタ台へ? トルコ中銀の利下げは続く!?(2019年12月25日、エミン・ユルマズ)
(出所:Bloomberg)
前回のコラムで、シリア情勢の悪化を受け、エルドアン政権が2016年から行ってきた親ロシア外交が終わりを告げたと伝えました。
【参考記事】
●インフレ懸念も、トルコ経済は回復継続へ。新型コロナによる中国経済の減速も追い風!?(2月12日、エミン・ユルマズ)
つまり、トルコは、再びNATOに接近せざるを得なくなりました。地政学リスクの高まりが不安材料でも、トルコが再び欧米寄りの外交に切り替えたことは、トルコリラのサポート材料になると考えます。
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