■トルコのマクロ指標は明暗分かれる
トルコの直近のマクロ指標を検証すると、ポジティブな指標とネガティブな指標が混在していることがわかります。
2021年1-3月期のGDP成長率はプラス7%になりました。プラス6.7%だった市場予想を超える好結果です。中身を見ると、1-3月期に製造業が12.2%、サービスセクターが5.9%、農業が7.5%成長したのがわかります。
(出所:TUIK)
やはり長引いたロックダウン(都市封鎖)の影響で、サービスセクターの伸びは弱いですが、製造業がEU(欧州連合)向けの輸出が大きく回復したことを受け、絶好調でした。
【参考記事】
●トルコ製造業が大幅回復。 その理由とは? 5月後半から、トルコリラは動き出すと予想(5月12日、エミン・ユルマズ)
1-3月期に輸出が前年同期比で3.3%増となり、輸入が1.1%減となりました。これは製造業の回復とともに経常赤字の縮小を意味しているのでポジティブな指標です。
また、1-3月期に家庭の消費が前年同期比で7.4%増となったのも景気回復に貢献しています。ここまでがポジティブな指標をまとめたものです。
■CPIとPPIの乖離が悩ましい問題に
ネガティブな指標の代表はCPI(消費者物価指数)です。5月のCPIは前年同月比で16.59%上昇となり、4月に比べて下がったものの依然として高い水準にあります。
(出所:TUIK)
悩ましい問題のひとつは、PPI(生産者物価指数)と消費者物価指数の乖離です。5月は、その差が21.74%と記録的な数字でした。
【参考記事】
●米長期金利2%超えならトルコリラ一段安か。CPIとPPIの乖離幅拡大は、何を意味する?(4月7日、エミン・ユルマズ)
PPIが高いということは、生産者の原料調達コストが高いという意味なので、いずれそのコスト分が販売価格に反映されます。これはトルコが長期に渡って高インフレに悩まされる可能性があるということです。
PPIの上昇はトルコに限った話ではなく、世界的にサプライチェーンの乱れによる原材料不足が発生したことが、コストプッシュインフレを起こしています。このままでは、今まで好調だったトルコの製造業も悪影響を受けることは避けられません。
実際に、5月の製造業PMIは49.3となり、1年ぶりに50を下回りました。5月はロックダウンの影響が大きいので、6月以降のデータを見ないと何とも言えませんが、サプライチェーンのボトルネックが解消しないと製造業の勢いもなくなると考えます。
■エルドアン大統領とバイデン大統領の首脳会談に注目
今週(6月7日~)のトルコリラですが、米ドル/トルコリラは8.70リラ水準まで上昇した後は下げだして、現在、8.60リラ前後に落ち着いています。
(出所:IG証券)
対円でも狭いレンジながら、12.60円から12.70円まで戻しました。
(出所:IG証券)
トルコリラの実質実効為替レートは5月に60.55となりました。実質実効為替レートは昨年の11月に史上最安水準である60.45を記録したあとに上昇に転じ、2月に69まで回復していました。
(出所:トルコ中銀のデータを基にメルマガ部が作成)
足元で再び最安値水準に近づいた背景に、マクロ指標よりトルコ政治の不安定化の可能性があると考えます。
前回のコラムで紹介したマフィアボスのペケル氏は今週(6月7日~)も、新しい動画を公開し、またエルドアン政権の汚職を暴露しています。
【参考記事】
●マフィアボスの動画にトルコ国民は高い関心。トルコ政治は大揺れで、リラにも悪影響か(6月2日、エミン・ユルマズ)
エルドアン大統領は6月14日(月)に、NATO(北大西洋条約機構)サミットにて、バイデン米大統領と会談をする予定です。
米国とトルコの関係が改善に向かうか、それとも悪化し続けるかを見極めるうえ大変重要な首脳会談です。米国との関係改善がトルコリラに大いにプラスになるので、トルコリラの投資家も注目すべきイベントです。
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