■トルコのマフィアボスのユーチューブ動画が話題に
トルコで最近もっとも盛り上がっている話題は、ユーチューバーになったマフィアのボスの話です。
このマフィアのボスとは、現在、アラブ首長国連邦のドバイに逃亡中のセダト・ペケル氏です。ペケル氏はトルコ民族主義者に好かれている、いわゆる右翼マフィアであり、熱烈なエルドアン支持者としても知られています。
年齢も49歳とまだ若いですが、彼がボスを務めていたマフィアは、トルコでは最大規模のものだといわれています。
ペケル氏は先月(5月)から自身のユーチューブチャンネルでエルドアン政権の主要閣僚が関与した汚職やスキャンダルを暴露する動画を8回公開しました。
写真はトルコのエルドアン大統領。ドバイに逃亡したマフィアボスのセダト・ぺケル氏は、自身のユーチューブチャンネルでエルドアン政権の主要閣僚が関与した汚職やスキャンダルを暴露する動画を配信。視聴回数が1000万回を超えた動画もあるという (C)Anadolu Agency/Getty Images
これらの動画にトルコ国民からの関心が高く、視聴回数が1000万回を超えた動画もありました。また、複数のジャーナリストによるペケル氏の動画を解説する動画もたくさん出て、これらも高再生数を記録しています。
■1人のマフィアボスの話に関心が集まっているワケとは?
なぜ1人のマフィアボスの話に、ここまでの関心が集まっているのでしょうか?
その理由は、ペケル氏がただのマフィアではないからです。トルコには本当の意味でのマフィアが存在しておらず、マフィアといわれるような人たちの多くは、トルコの諜報機関つまり公安のために働くフリーランサーのような人たちだからです。
そのため、マフィアは政治家やジャーナリストと深く絡んでいて、政権の意向に沿って活動することが多いです。
ペケル氏はこれまでの動画で、直接エルドアン大統領を標的にしませんでしたが、ソイル内務大臣やユルドゥルム元首相のスキャンダルを暴露しています。トルコでは近年、汚職や政治家によるスキャンダルが大問題になっていますが、汚職を報道するはずのトルコメディアも事実上消滅しているので、それが今まで国民になかなか伝わりませんでした。
メディア大手は、エルドアン家に近いビジネスマンが国営銀行からの無担保ローンで買収していて、政府に批判的な報道がまったく見られないからです。
わずかに残っている反政府メディアも相当な圧力を受けています。ペケル氏の暴露動画がここまで大きな関心を集めている背景には、トルコメディアのこのような悲しい事実があります。メディアが伝えられなかったことをペケル氏が1人で暴露してしまっているからです。
■マフィアボスの動画でトルコ政治大揺れ。リラにも悪影響…
今週(5月31日~)のトルコリラですが、対米ドル・対円で下落トレンドが継続していて、対米ドルでは8.50リラを越え、対円では12.80円を割る場面がありました。
ペケル氏の動画によってトルコ政治が大きく揺れていて、その悪影響がトルコリラの動きにも現れていると考えています。
(出所:IG証券)
(出所:IG証券)
政治の不安定化のシナリオとしてもっとも可能性が高いのは解散総選挙です。現在、エルドアン大統領が率いるAKP(公正発展党)と極右政党のMHP(民族主義労働党)は同盟を組んでいますが、もしMHPがこの同盟から脱退すると決めたら解散総選挙が避けられなくなります。
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