米ドル/円は米中交渉「著しい進展」報道で買い戻し先行も、徐々に失速。理由の1つは韓国ウォンの急騰
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
トレーダー西原 先週初(5月12日)は米中交渉が「著しい進展」との報道で、米ドル円相場は買い戻しが先行。一時148.65円まで値を戻す展開となり、一部参加者の間で米ドル/円はボトムアウトしたとの意見も増えました。
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⇒米ドル/円は戻り局面で売りか。関税交渉が進展し「リスクオン」の株高で円安に振れたが、台湾ドルの急騰につれた円高や米財務長官が円安を望まないことで、上値も限定的(5月12日、西原宏一&叶内文子)
ところが、金曜日(5月16日)のNY市場は145円台後半で終えるという乱高下相場を演じています。
それでは、株も含めて先週(5月12日~)の振り返りからいきましょうか? 叶内さん、お願いします。
MC叶内 はい、今週(5月19日~)もよろしくお願いします。
5月12日(月)に米国と中国が関税の大幅引き下げで合意したと発表。非常に早い決着だったこと、関税の引き下げ幅も予想以上だったことでリスクオンとなりました。
NYダウは+3.41% 、S&P500は+5.27% 、ナスダック総合指数は+7.15% といずれも2週ぶり上昇しました。ナスダック総合指数は4月7日(月)の安値から20%以上の上昇、S&P500は年初来でプラスに転じています。上げを主導したのはハイテク株で、特に、エヌビディアは半導体輸出規制見直し案の撤回方針という好材料もあって、週間で16%上昇しています。
日本株も半導体関連などが買われ、5週連続で上昇しました。日経平均は3万8000円台回復までありましたが、週後半は伸び悩み+0.67%、TOPIXは+0.25%で終わっています。日経平均ベースでPER17倍台とやや割高感が出ています。
日米ともに超長期金利の上昇を嫌気するような動きもありました。株式市場で大きな反応はありませんでしたが、先週はいくつか気になった指標がありました。日本のGDPが4四半期ぶりのマイナス成長。米4月PPI(卸売物価指数)が大幅低下。米ミシガン大学消費者信頼感は過去2番目の低さだった一方、1年先インフレ期待は7.3%まで跳ね上がっています。
為替市場はいかがでしたか。
トレーダー西原 叶内さんに紹介いただいたように「米中が関税の大幅引き下げで合意」との報道で週初はリスクオンに。
日経平均が3万8000円台を回復するという展開の中、リスクアセットの豪ドル/円を中心に為替もリスクオン。米ドル/円は一時148.65円まで急騰しています。マーケットには徐々に、米ドル/円に対して強気な意見が拡大していました。
ところが、そうした動きは徐々に失速しています。その要因は2つです。
まずは韓国ウォンの急騰。
米国と韓国は5月初めに為替政策を協議し、協議を継続することで合意したと、事情に詳しい関係者が明らかにした。この報道を受け、アジア時間14日夕方の取引で韓国ウォンは急伸。これに連動し、円も対ドルで上昇している。
(出所:Bloomberg)
先々週の台湾ドルの急騰に続き、韓国ウォンも急騰。韓国ウォンは米ドルに対し一時2%近く上昇しました。
今月(5月)に入り、台湾や韓国という対米貿易黒字国に通貨高圧力がかかっています。
それでは、対米貿易黒字国である日本はどうかというと、日経新聞が「加藤財務相、日米の為替協議を追求 ベッセント氏と再会談検討」と報道しており、なんらかの通貨高圧力が加わるのではないかという懸念を払拭できません。
来週の展望に行く前に、今週のスケジュールと株の見通しをお願いします。
ムーディーズが米国格下げ! ベッセント財務長官が一定の米ドル安をうまく演出。米ドル/円は丁寧な戻り売り継続
MC叶内 はい、まず今週のスケジュールから確認します。
5月20日(火)〜21日(水)にG7(先進7カ国)財務相・中央銀行総裁会議がカナダで開かれます。
経済指標では、中国で5月19日(月)に4月小売売上高・工業生産などがまとまって発表され、5月20日(火)に5月最優遇貸出金利が発表予定です。また、5月22日(木)に各国PMIの発表があります。
米国では、4月コンファレンス・ボード景気先行指数が5月19日(月)公表予定、5月23日(金)に米4月新築住宅販売件数が発表されます。
国内では、5月21日(水)に4月貿易統計、4月訪日外客数、5月22日(木)に3月機械受注、5月23日(金)に4月CPI(消費者物価指数)が発表されます。
決算発表は、国内は一巡し、米国はホーム・デポ、ターゲットなど小売、アナログ・デバイセズ、パロアルトなどハイテクの人気どころがあります。
5月19日(月)、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが台湾で開催されるアジア最大級のIT見本市「COMPUTEX 2025」開幕を前に基調講演を行います。5月20日(火)〜21日(水)にグーグルの開発者会議「グーグル I/O」が開かれます。
今週の注目ポイントです。
週末、5月16日(金)の米国株取引時間終了後に、格付け会社ムーディーズが米国の信用格付けを最上位から1段階引き下げたと発表しました。発表後、米国債は売られ10年債利回りは一時4.49%に上昇、その後戻して引けています。株は時間外取引でS&P500連動ETF(上場投資信託)が0.6%ほど一瞬で下落する場面がありました。週明けのリスク要因となりそうです。
そして、5月20日(火)からのG7財務大臣・中央銀行総裁会議の場で、日米間での財務相会談が模索されており、「為替に関する議論」が行われると見られています。また、G7後に第3回目となる日米の関税交渉も見込まれています。日本株全体としては関税交渉に切り札がなさそうで、頭の重い展開が予想されますが、交渉の結果いかんでは一段高もあるかもしれません。為替の議論によっては物色動向も変わります。
為替市場はいかがですか。
トレーダー西原 以下は、解放の日(※)からの主要通貨の対米ドル騰落率です。
(※編集部注:「解放の日」とは、トランプ大統領が各国・地域に課す相互関税を公表した4月2日(水)のこと。トランプ大統領はこの日を「解放の日」と表現した)

解放の日からの為替相場を振り返ってみると、米ドルは主要通貨に対して全面安であることがわかります。
ただ、こうした米ドル安が米国のトリプル安(株安、債券安、通貨安)に発展すると問題は深刻化します。
米国のトリプル安を誘発する米ドル急落を避け、一定の米ドル安を演出しているのがベッセント財務長官です。
台湾ドルや韓国ドルの急落がきっかけで、他通貨でも米ドル安の流れが加速しそうになると、例えば「米中関税交渉の一時停止」や「米国は関税交渉に通貨安を利用しない」といった報道がタイミングよく飛び出します。
結果として、米国はトリプル安を巧妙に避けながら、対米貿易黒字国の通貨高をうまく誘引しています。
ベッセント財務長官は年初から「日銀の金融正常化とともにドル安、円高が自然なこと」としています。そして、米ドル/円も見事に米ドル安・円高の流れとなっています。
ベッセント財務長官はもともとヘッジファンドの出身で、マーケットのことをよく理解しており、マーケットをうまく誘導していると考えています。
もっとも、先週末にムーディーズによる米国信用格付け引き下げ報道などもあり、米国が無理に米ドルを通貨安に誘導しなくても、米ドルは次第に劣化している展開ともいえます。
米ドル/円は丁寧に反発を待って、米ドルの戻り売り継続で変わらずです。

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは今週も株、為替のトレーディングを楽しんでいきましょう。
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