米ドル/円は雇用統計悪化で146.82円まで下げたが、石破総理退陣を見込んだ本邦勢が145~146円に断続的な買い注文を出していた
西原宏一(以下、トレーダー西原) 叶内文子(以下、MC叶内) みなさん、こんにちは。
MC叶内 朝のスタジオへの通勤時、台風が去った空にほうきで掃いた跡のような雲が見られました。ようやく秋の気配ですね。
トレーダー西原 まだ日中は残暑が厳しいですが、朝夕には秋を感じられるようになりましたよね。
さて、今週(9月8日~)も石破総理退陣も含め、秋相場が本格化しそうです。季節だけでなくマーケットの変化も逃さずいきましょう。
それでは叶内さん、まず先週(9月1日~)の振り返りからお願いします
MC叶内 今週もよろしくお願いします。
注目の8月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が2.2万人の増加にとどまり、市場予想を大きく下回りました。さらに、6月分の雇用者数が1万3000人減に下方修正され、4年半ぶりのマイナスとなっています。失業率も4.3%に上昇しました。
これを受けて、NYダウは前日比220ドル安など3指数とも下落しており、これまでのようなバッドニュースイズグッドニュースという受け止めではないのかもしれません。
この金曜日(9月5日)の結果まで含んだ米国株は、週間ベースではNYダウこそ0.3%安となりましたが、S&P500は6481.50、前週末比0.3%高と反発、ナスダック総合指数は1.1%高とこちらも反発しました。
連休明けの9月2日(火)こそ、欧州発で超長期金利の上昇が顕著だったことで米国株も下落、特に大型ハイテク株が売られたものの、その後はアルファベットに好材料が出たことや、半導体ブロードコムの好決算で切り返しています。
日本株も月曜日(9月1日)に一時900円安まであったものの、週後半は半導体中心に米国の流れを受け継いで上昇。また、自動車関税引き下げの米大統領令への署名も買い安心感につながりました。氷見野日銀副総裁の講演が利上げに慎重と受け止められたことも市場心理を安定させました。
日経平価は前週末比300.28円高(+0.70%)の43018.75円と続伸、TOPIXも+0.98% と上昇、3週ぶりです。
そして、週末には石破総理が辞意を表明。シカゴCME(シカゴ・マーカンタイル取引所)の日経平均先物はひとまず買いで反応しています。
為替市場はいかがでしたか?
トレーダー西原 先週の注目点は、欧米勢と本邦勢の米ドル/円に対するスタンスが大きく違うのが明白になったこと。
叶内さんがご指摘してくれたように、8月の雇用統計が悪化。欧米勢はすべての主要通貨に対して米ドル売りを仕掛けます。これは雇用統計の悪化からして当然といえます。
しかし、事業法人を中心に日本勢は145〜146円で米ドル買い注文を断続的に出していました。この事業法人の米ドル買いには、話題の「TARF(ターフ)」と称されるデリバティブ取引も含まれています。これは彼らが、石破退陣が近いと踏んでいたためです。
デリバティブのなかでは「TARF(ターフ)」と呼ばれる取引が広がっているという。通貨オプションを組み合わせた数年単位のものが主流で、企業側が「ドルを140円で3年間確保する」などと契約を結び、あらかじめ設定した上限額まで割安にドルを調達できる仕組み。「中小向けデリバティブの8割以上がTARF」(西日本の地銀)。
(出所:日経新聞)
そのため、欧米勢の米ドル売りで一時146.82円まで下落した米ドル/円ですが、NY市場は147.43円と米ドルが戻して引けています。
そして週末の石破総理退陣報道で、本稿執筆時点での米ドル円は一時148.57円まで急騰しており、米系ヘッジファンドの思惑と相違した動きとなっています。

(出所:TradingView)
そのため、日本の政局の米ドル/円相場への影響力を、彼らがもう一度見直すきっかけとなっています。
それでは叶内さん、為替の展望の前に今週のスケジュールと株の注目点をお願いします。
ユーロ/円は昨年高値175.43円ブレイクを目指し続伸へ。スイスフラン/円の史上最高値更新がクロス円全体を押し上げそう
MC叶内 9月8日(月)にフランスの内閣信任投票を控えています。9月11日(木)にはECB(欧州中央銀行)理事会もあり、欧州の情勢にも注意しておきたいところです。
米国はインフレ指標に注目が集まります。9月10日(木)に8月PPI(卸売物価指数)、9月11日(木)に8月CPI(消費者物価指数)が発表されます。CPIコアの予想は前月比+0.3%で7月並み、前年同月比は+3.1%でこちらも横ばいを見ています。
労働市場の悪化がはっきりしてきたので、インフレ状況を確認しながら今後の利下げのペースと着地点を探ることになるでしょう。
また、9月9日(火)に雇用統計の年次改定暫定値が発表されます。年間で▲800千人下方修正されるとの予想もあるそうです。
そのほか、9月12日(金)に9月ミシガン大学消費者信頼感指数が発表されるほか、9月9日(火)にはアップルの新製品発表イベントが開催予定です。9月9日(火)にオラクル、9月11日(木)にアドビが決算発表を行う予定です。
国内では、政局に目がいきがちでしょう。ポスト石破は誰なのか、それによってどの党と組むのか。財政拡張路線なら株高と言われていますが、財政不安と言われると金利上昇リスクがあるかもしれません。
経済指標では、9月8日(月)に4~6月期GDP(改定値)、8月景気ウォッチャー調査、7月経常収支、9月9日(火)に8月マネーストック、9月11日(木)に7~9月期法人企業景気予測調査、8月国内企業物価指数、8月都心オフィス空室率などの発表が予定されています。9月12日(金)のメジャーSQ算出に向けてはやや荒っぽい動きもあるかもしれません。
なお、中国で9月8日(月)に8月貿易収支、9月10日(木)に8月CPIとPPIの発表があります。
為替市場はいかがですか?
トレーダー西原 先週の作戦会議コラムで、下記のようにご紹介させていただきましたが、世論調査とは関係なく、大方の予想どおり前倒しで自民党総裁選が行われることになりました。
【※関連記事はこちら!】
⇒米ドル安は、対ユーロやスイスフランで狙い目! 米利下げ示唆やFRB独立への攻撃は米ドル安要因。自民党総裁選で日本株高なら円売りも。9月2日から市場は本格化の傾向(9月1日、西原宏一&叶内文子)
8月31日(日)、日経新聞が「自民党総裁選前倒し不要が52%」という世論調査を速報で出していましたが、自民党総裁選が前倒しになる可能性は依然として高いと見ています。総裁選が行われると日本株は上がりやすく、米ドル/円は下げ渋るでしょう。そのため、米ドル安の狙い目は、ユーロ/米ドルか米ドル/スイスフランでの米ドルショート。もしくは、ユーロ/円かスイスフラン/円のロングでしょうか?
次の有力候補は小泉進次郎氏、高市早苗氏、林芳正氏、小林鷹之氏です。この中ではもっとも可能性が高いのが小泉進次郎氏と言われていますが、最も市場にフレンドリーなのは高市早苗氏。
本邦勢は前倒しでの自民党総裁選をある程度予想していたため、前述のように先週金曜日(9月5日)、多くの本邦事業法人は米ドル/円の買い注文を145〜146円台に出していたようです。
しかし、米ドル/円の安値は146.82円だったため、十分に米ドルを手当てできていません。
一方、雇用統計の結果を受けて、対欧州通貨では米ドル売りが進んでいるため、彼らは148円台ではなかなか米ドルを買い上がってこないでしょう。よって、米ドル/円は急騰しないかもしれません。
その結果、総じてクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)が続伸しています。個人的に注目しているのはユーロ/円とスイスフラン/円です。
今年(2025年)のユーロ/円の高値は173.97円。本稿執筆時点では173.90円まで上昇しており、まず今年の高値を抜くと考えています。次のターゲットは昨年高値である175.43円であり、そのラインのブレイクを目指し続伸する可能性が高いと考えています。

(出所:TradingView)
スイスフラン/円の史上最高値は186.04円。本稿執筆時点で185.88円まで上昇しており、スイスフラン/円の史上最高値更新がクロス円全体を押し上げそう(※)です。
(※編集部注:スイスフラン/円は本稿公開時点で186.04円を上抜け史上最高値を更新した)

(出所:TradingView)
ユーロ/円とスイスフラン/円のロングを継続します。他通貨では米ドル売りが進んでいるため、米ドル/円は高値掴みをしないように丁寧に押し目買いでしょうか?

(出所:TradingView)
トレーダー西原 MC叶内 それでは、今月(9月)も株と為替のトレードを楽しんでいきましょう!
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