■日欧の「総裁ショック」で今週も波乱の市場に
激動の為替市場は、今週(2月4日~)も波乱に満ちていた。
2月5日(火)には、白川日銀総裁の早期辞任が伝わり、円売りを再燃させた。
そして2月7日(木)、ドラギECB(欧州中央銀行)総裁がユーロ高を牽制し、ユーロの急落がもたらされた。
日欧の「総裁ショック」が続いているなか、市場の基調もにわかに修正されしてきたと思う。
もっとも、白川氏が今期限りで退職することは確実なので、辞任というより前倒し退職にすぎない。
それでもマーケットで株高・円安が進んだのは、トレンドの強さゆえである。
言い換えれば、株高・円安というトレンドのなか、材料が何であれ、取引に利用されるものなら、何でも目一杯利用されたというわけだ。
■ユーロ高トレンドは一服の兆し
一方、トレンドが依然強いとはいえ、かつてのモメンタムほどではないことも、白川総裁の早期退職という材料で露呈されている。
というのは、世論では「デフレを脱出できないのは日銀のせいだ」といった認識が強く、過激な量的緩和策に慎重な立場を取ってきた白川氏に対する見方も厳しい。
が、白川総裁の早期退職で大幅高となった株式のパフォーマンスに比べ、円安は小幅程度に留まっていた。
まず、米ドル/円は、2月5日(火)には93.79円まで上昇したが、翌日2月6日(水)は94.06円までしか高値を更新できずにいた。
ユーロ/円では2月5日(火)の高値127.41円に対して、6日(水)の高値が127.70円に留まり、豪ドル/円も2月5日(火)高値の97.43円を翌日更新できなかった。
昨日(7日(木))に高値更新したのは英ポンド/円と加ドル/円ぐらいだから、執筆中の現時点では、対円通貨ペアにおける整合性の欠如から、円安モメンタムの低下が読み取れる。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 1時間足)
そして2月7日(木)、ユーロ/円が大きく反落した。ドラギECB総裁の「口先介入」がユーロ売りをもたらし、ユーロ高トレンド一服の兆しを匂わせる。
2月5日(火)安値の124.02円割れがあれば、ユーロ/円の上昇一服をおおむね判定できるのではないかとみる。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/円 1時間足)
もっとも、米ドル/円、ユーロ/円をはじめ、円安トレンドの進行スピードが過激だっただけに、足元ではまずスピード調整を行ってもおかしくなかろう。
■米ドル/円95円への期待は裏切られる?
日銀次期総裁人事や日本の経常赤字といった材料に期待し、95円の心理的大台を目指すといった思惑がくすぶるなか、市場関係者を失望させる可能性が逆に大きくなっているのではないかと思う。
マーケットというものは、市場の自己実現性を持つ一方、大衆の意表を突く習性も有していることを忘れてはいけない。
この意味では、「猫も杓子も」95円やら、100円やらと騒ぐなか、目先に限っては慎重なスタンスを取ったほうが無難であろう。
昨日(2月7日)一番動いていたユーロ/円が先行的な意味合いを持つなら、円安トレンドにおけるスピード調整の可能性について、ユーロ/円の日足から以下のようなサインが読み取れることを軽視すべきではないかもしれない。
日本伝統のチャート分析で言うと、2月4日(月)のローソク足の値幅を抱き込む形で2月5日(火)のローソク足が形成されており、「抱き線」というパターン(丸線で囲まれた部分)が示されていた。
(出所:米国FXCM)
このパターンが安値圏にて出現したなら、買いサインと解釈されるが、高値圏に出てきた場合、売りサインと解釈されている。
したがって、2月6日(水)にわずかに高値更新した後、陰線引けしたのは、この「抱き線」の意味合いに沿ったような値動きに見える。
また、昨日(2月7日(木))の陰線を入れて考えた場合でも、4日(月)のローソク足から「宵の明星」(四角線に囲まれた部分)の足型が示されており、やはりこれも売りサインとみなされる。
2012年9月安値から、米ドル/円と相まって、一貫して円安トレンドを大きく進めてきたユーロ/円の上昇一服があれば、必然的に米ドル/円やほかのクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)通貨ペアにも影響がある。
近々スピード調整による反動、つまり円売りポジションの買い戻しも意識しておくべきだろう。
2012年11月からの円安進行のスピードが速すぎただけに、場合によって、円安トレンドの再開は夏場まで待たなければならない可能性もある。
■RSIをトレンド系指標として見ると、円安が本物とわかる
もちろん、円安トレンドは簡単に崩れないから、円売りポジションの買戻しがあってもあくまでスピード調整に留まり、円安トレンド自体は継続されるだろう。
それを証左する材料として、今回は米ドル/円とユーロ/円の月足を見てみたい。
(出所:米国FXCM)
(出所:米国FXCM)
両チャートの月足には、RSIが表示されるが、RSIの変動レンジをよく観察すれば、実はブル(上昇)トレンドとベア(下降)トレンドが分かれていることがわかる(赤ライン部分で分かれている)。
つまり、RSIはオシレーター系指標でありながら、トレンド系指標の役割も果たすわけだ。
このような見方をマスターし、RSIを観察すれば、米ドル/円にしてもユーロ/円にしても、両通貨ペアが下落ウェッジというフォーメーションの上放れと同時に、かつてのベア変動レンジからブル変動レンジへ大きくシフトしてきたことがわかる。
ゆえに、今回の円安トレンドが本物で、これからも続く公算が高いというわけだ。
■RSIに点灯したリバーサルシグナル
また、RSIの見方を極めれば、足元では加熱しすぎで、トレンドの進行が行きすぎた分、リバーサルのシグナルも読み取れる。
米ドル/円で見ると、RSIが対応する位置が、2007年高値に対応する位置よりも高く、またユーロ/円でも、2009年高値に対応する位置よりも高いことがわかる。
これがいわゆるリバーサルシグナルの点灯で、近々スピード調整の可能性があることを示唆している。
まとめてみると、巷の円安期待の強さと対照的に、テクニカル的には円安がいったん限界にきている。
早ければ本日(2月8日)、遅ければ来週(2月11日~)から調整してくると思う。
もちろん、短期スパンに限って言うと、調整する前にもう一段高することもあり得るが、総じて上値余地は限定的で、反落しやすい時期に差し掛かっているのではないかとみる。市況はいかに。
最後に、今回は目先の市況に専念したため、前回のコラムで予告していた「総括」がまた次回になってしまうことを、ここでお詫びしたい。
【参考記事】
●「ミスター円相場」と「アベノミクス相場」、18年の時を経た2つの相場の相違点とは?(2013年2月1日、陳満咲杜)
(2月8日 PM1:20執筆)
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