■米株・米ドルが好材料に反応薄、スピード調整の前兆か
先週(8月18日~)の米ドル全面高に比べ、今週(8月25日~)の値動きは限定的で、米ドル全面高の一服と言えるだろう。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルvs世界の通貨 4時間足)
もっとも、先週(8月22日)のコラムの指摘どおり、米ドル全面高に対するスピード修正が行われやすい時期だから、目下の上昇一服は当然の結果と言える。
【参考記事】
●米金利・米株・米ドル高はリスクオンバブル、米ドル/円はなおレンジ下放れの可能性!(2014年8月22日、陳満咲杜)
ファンダメンタルズでは、欧州の不振が目立ち、日本も消費税増税後の失速がささやかれる。比較的米国の堅調が目立つが、史上最高値圏に位置する米株高に、それは「織り込み済み」といった見方もある。何と言っても、好材料に特に反応しなくなっているところが大きなポイントだ。
昨日(8月28日)リリースされた米第2四半期実質GDPは、予想の+3.9%に対して+4.2%との好数値となり、材料として申し分ないが、株も為替も反応薄だった。
したがって、目下の株高、米ドル高はオーバーした状態にあり、スピード調整に向かう公算が大きいと推測される。また、こういったスピード調整はまだ始まったばかりなので、来週(9月1日~)にかけて継続されるだろう。
■テクニカル的視点でみると、ECBはまだQEに踏み切らない
米株高と米ドル高の一服がウクライナ情勢の緊迫化によるもの、といった解釈も多いが、地政学リスクが本当に意識されるなら、目先の小動きに留まるわけがないだろう。
むしろユーロ/米ドルあたりでは、今夜(8月29日)発表されるEU(欧州連合)圏インフレ指標への警戒感に圧迫され、スピード調整を展開できずにいる面が大きい。
言い換えれば、ユーロにとって悪材料に満ちている現状では、地政学リスクを含め、何でもユーロ売りの材料に成り得るから、安値更新さえ回避できれば上出来であり、それはスピード調整の兆しと受け止められる。
マーケットがEU圏インフレ数値を気にしているのは、他ならぬ、デフレの兆しがあれば、ECB(欧州中央銀行)は来週(9月1日~)にでもQE(量的緩和策)に踏み切るのではないかといった疑心暗鬼である。
指標に関する予測はできないが、テクニカルの視点では、目下、米ドル全面高が一服しやすい時期に位置しているから、もしかしたら、今夜の数値、想定されるほどは悪くなく、また、来週(9月1日~)のECBの決定と行動は、想定されるほど早くないのではないかと推測できる。
要するに材料はマーケットの構造に沿って後についてくるから、このような可能性を完全に排除できないということだ。
■米ドル/円はブルトレンド再開ではなくレンジ拡大にすぎない
ところで、米ドル全面高に対するスピード調整といった表現は、どちらというとトレンドを伸ばしてきた通貨ペアにふさわしく、レンジ変動に留まる通貨ペアの場合、スピード調整よりもレンジ変動そのものと言った方が適切だ。
言うまでもないが、主要通貨のうち、ユーロ/米ドル、英ポンド/米ドルは前者(トレンド)に属し、米ドル/円は後者(レンジ)に属している。
前回(8月22日)のコラムでも指摘したように、巷では米ドル高・円安トレンドの再開や加速に多大な期待が寄せられているが、筆者はなお、レンジ変動に留まっているという見方を保持してきた。
【参考記事】
●米金利・米株・米ドル高はリスクオンバブル、米ドル/円はなおレンジ下放れの可能性!(2014年8月22日、陳満咲杜)
言ってみれば、米ドル/円はレンジ自体を拡大させたものの、レンジを打破し、ブル(上昇)トレンドへ復帰したといった判断は性急である。
実際、週初(25日)に米ドル/円は104.26円の高値をトライしたものの、足元では反落しており、継続して高値更新できずにいること自体、1つのサインではないかとみる。
先週(8月22日)のコラムで指摘したとおり、何しろ、4月高値は104.12円前後に位置、2月安値100.75円からの大型保ち合いは、3.5円未満の小動きで計7カ月も続いてきたから、2000年以降には見られない保ち合いの長期化が確実に確認されている。
【参考記事】
●米金利・米株・米ドル高はリスクオンバブル、米ドル/円はなおレンジ下放れの可能性!(2014年8月22日、陳満咲杜)
テクニカルアナリシスの原則の1つとして、保ち合いのスパンが長ければ長いほど、ブレイク後の値動きが大きく、また強いモメンタムを伴う場合が多いということが知られている。
しかし、今週(8月25日~)の値動きは明らかに違っていたので、ブレイク自体が疑わしいのではと思う。

(出所:米国FXCM)
換言すれば、今週(8月25日~)の104円大台の打診自体、レンジの突破ではなく、レンジ自体の再確認といった視点が論理的で可能性が高いと思う。
■米ドル/円がまだレンジを打破していないとする理由とは?
具体的なアナリシスに関して、筆者が8月27日(水)に作成したレポートが、簡単であるがわかりやすいのではないかと思い、参考として開示しておきたい。本文は以下のとおり。
(出所:米国FXCM)
本日のチャート ドル/円 円高は終わったか?
ドル/円は104関門の打診をもって2月安値を起点とした変動レンジの打破を図ろうとする様子を見せている。これを受け、巷では円高調整が終了し、円安トレンドへ復帰したといった論調が主流となり、円安トレンドの再開に強い期待が寄せられている。
しかし、日足のカウントを再点検しているところ、このような期待が再度裏切られる可能性は寧ろ大きいと思う。何しろ、目先の切り返し、なお調整波の範囲に留まる公算が高く、性急な判断は禁物である。
上のチャートが示すように、年初来高値からの下落、2月安値100.75をもって一段落し、同安値を起点としたジグザグ変動を調整波の一環と捉える。100.75からの値動き、大型ジグザグ変動パターンと見做した場合、5月安値100.82からの切り返し、同ジグザグ変動における子波C(緑)と数えられ、同じ序列における子波A(緑、2月安値~4月高値)と同じ値幅なら、104.20前後のターゲットを示し、8月25日高値の104.25と整合的で、調整波の範囲に留まっていることを示唆。
従って、目先の切り返しをもって円高調整の終焉を判断するには性急であり、また円高調整が続く場合、目下だからこそドル/円のショートを仕掛ける好機だと見る。その上、巷では円安期待感が強い以上、目下の位置付け、一旦証左されると、より強い調整、つまり円高トレンドへのシフトも覚悟しておきたい。
■米ドル/円は99円台半ば~97円台前半まで下落の可能性も
ちなみに、仮に前述の見方が正しければ、米ドル/円の切り返しが104円台前半で終了し、これから円高トレンドへ復帰した場合、2014年年初来高値から2月末安値までの値幅で測ると、99.55-60円前後の下値ターゲットが得られる。
さらに、100.75円~104.25円に拡大されたレンジの値幅と見なした場合、このレンジの下放れが確認される場合、「倍返し」の計算では97円台前半まで下値余地が拡がる。

(出所:米国FXCM)
したがって、米ドル/円が早期高値更新を果たし、強い上昇波を展開して前述のレポートの間違いを証明してくれないと、巷の期待を大きく裏切る形で、むしろこれから円高のスピードが加速していく可能性がある。
その上、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)の動向も大きなポイントとなるが、今回は書き切れないので、また次回に譲る。市況はいかに。
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