■一進一退の為替市場、ドルインデックス上昇の要因は?
為替市場は一進一退の状況を保っている。先週(8月24日)、ブラックマンデーで急落した分、スピード調整のニーズも高く、今週(8月31日~)はこういった値動きが続き、また昨日(9月3日)はECB(欧州中央銀行)のハト派スタンスもあり、ドルインデックスは再度、50日移動平均線(≒96.64)にトライしている。

(出所:米国FXCM)
言うまでもないが、今晩(9月4日)の米雇用統計が一層重要になってくるから、米ドル高基調に回復できるかどうかは今晩の値動きによって、かなり明らかにされよう。
もっとも、リスクオフ継続の有無については、最近では株式相場の動向がより物差しとして有効であろう。
9月2日(水)に発表された中国PMI(購買担当者景気指数)が中国経済の一段の減速を示し、世界の株式相場がまた下落したものの、昨日(9月3日)までの値動きから考えると、リスクオフ志向がいったん収まったようにみえる。したがって、ドルインデックスの反騰も株式市場とリンクした値動きだと言える。
一方、それ以上に、昨日(9月3日)のドルインデックスの上昇は、ユーロ/米ドルの急落がもたらした結果だとも言える。

(出所:米国FXCM)
何しろ、昨日(9月3日)のドラギECB総裁の「行動せずに演じられる最大限のハト派姿勢」はかなりのユーロ売りを招いたから、それがドルインデックスを押し下げた効果の方が大きいとみる。
ドラギ総裁はEU(欧州連合)経済やインフレの見通しに悲観的な見方を示し、公的部門の債券の購入割合を引き上げたと説明、さらなる調整の用意もあり、金融政策強化の可能性について、制限がないことも明言した。
これにより、ECBのQE(量劇緩和策)拡大観測が急速に高まり、それがユーロ売りにつながったことは自然の成り行きだ。
■「米利上げが米ドル高につながる」発想に大きな落とし穴
しかし、ドルインデックスについて57.6%のシェアを誇るユーロの急落が米ドル全体に対して波及する効果が限定されていることも見逃せない。
足元の米ドル/円の軟調がもっとも大きく、それを証左する材料となるだあろう。200日移動平均線(≒120.80円)を回復しきれない米ドル/円の値動きが、米ドル全体の弱さを暗示していると思う。

(出所:米国FXCM)
前述のように、今晩(9月4日)、発表される8月米雇用統計は一層重要になってくる。なぜなら、市場関係者は同指標をもって、今月FRB(米連邦準備制度理事会)が利上げするかどうかを計る上、米国が早期利上げをできるかどうかがマーケットの行方を大きく左右するからだ。
本コラムで繰り返し指摘してきたように、米国株を中心として、世界の株式市場が混乱したのは、いわゆるチャイナショックによるものではなく、世界規模での金余りがもたらした株バブルの破裂に他ならなかった。したがって、米国の早期利上げがあれば、株バブルの崩壊が一段と加速しかねない。
【参考記事】
●中国ショックはまだ序の口で来年が本番!? 米ドル/円の調整は1年近く続く可能性も!(2015年8月28日、陳満咲杜)
ゆえに、前回コラムの最後に言及したように、「米利上げが米ドル高につながる」といった発想には大きな落とし穴がある。
米利上げが株式市場の一段の反落につながれば、少なくとも中期スパンでは米ドルは買われるのではなく、売られるハメになるだろう。
チャイナショックで波乱となったこの前の相場に照らして考えてみると、米ドルではなく、ユーロと円こそがリスク回避先(ユーロの場合、本質的には違うが、結果的に回避先になったと言える)になる公算が大きいから、米利上げが米ドル高につながらないリスクは十分警戒しておきたい。
■利上げどころかQEだという声も根強い
次に、2015年年内の米利上げ観測が多い一方、利上げどころか、次の一手が再度QEだといった声も少なくない。
注意すべきなのは、こういった「過激」な見方が、米ヘッジファンド大手のブリッジウォーター・アソシエイツ創立者レイ・ダリオを始め、投資業界の重鎮らに根強く、決して一蹴できるものではないことだ。
換言すれば、見方が激しく対立している現在、政策の流動性自体が大きなリスクと化しており、不確実性の増大により、再びリスクオフに傾く局面になりかねない。これは米ドルのロング派にとって安心できる状況にはほど遠いだろう。
さらに、仮に米利上げが実施され、かつ株式相場も安定して推移した場合でも、利上げ自体がもたらした効果が長く続かない可能性も大きい。何しろ、マーケットの注目は早くも次の焦点、つまり、利上げの程度やその速度に集まるだろうからだ。
■利上げされてもドル買いは一時的なもので終わる可能性も
FRBは利上げを実施すると共に、景気やインフレの状況に配慮し、次の利上げ観測を牽制する公算が高く、米ドル買いがあっても長く続かず、一時的なもので終わるといった可能性も念頭に置きたい。
言うまでもないが、最近の世界市場の波乱がFRBの判断を一層難しくしたことは間違いない。市場における変動率の高まりで、従来の予想よりさらに強い数字の米雇用統計が出て来なければ、FRBは慎重なスタンスを保つと推測される。
中国景気減速懸念をきっかけに始まった株式市場の反落は、裏を返せば、FRBに自重を促すようなメッセージにも読み取れ、FRBの決断を遅らせる可能性も無視できない。
■ドル/円は再度ベアトレンドへ復帰か。1年程度の円高覚悟
肝心の米ドル/円については、米ドル高の基調がすでに転換され、長ければ1年程度の円高傾向が続くという判断を維持していきたい。
目先の状況について、先週のブラックマンデー(8月24日)で急落した分、スピード修正的なリバウンドもすばやいものだったが、それは8月高値を起点とした全下落幅の61.8%反騰位置に留まり、また、再度200日移動平均線を下回って推移していることから考えると、米ドル/円が再度ベア(下落)トレンドへ復帰した公算は高いとみる。
(出所:米国FXCM)
さらに、8月24日(月)の大陰線が非常に大きかったので、その後の日足がすべて「はらまれている」ことが日足チャートにて確信できる。その上、9月1日(火)の陰線もあとの日足を「はらんでいる」から、ダブル・ハラミかつ、「母線」の下値を打診する勢いの目先は、やはり、下値リスクを警戒しておきたい。
(出所:米国FXCM)
米ドル/円の値動きに先行し、英ポンド/円はすでに8月24日(月)安値を割り込み、ユーロ/円に至っては5月安値を割り込んでいる。7月17日(金)の本コラムで指摘した三尊型(※)の形成や下放れを、ちょっと遅れた形で実現したわけだ。
【参考記事】
●リスクオンなら米ドル買い? 米ドル売り?三尊型形成中のユーロ/円下落に要注意!(2015年7月17日、陳満咲杜)
(※編集部注:「三尊型」はチャートのパターンの1つで、天井を示す典型的な形とされている。仏像が3体並んでいるように見えるために「三尊型」と呼ばれていて、人の頭と両肩に見立てて「ヘッド&ショルダー」と呼ぶこともある)

(出所:米国FXCM)

(出所:米国FXCM)
本日(9月4日)の米雇用統計次第では、再度、一時的に円安局面に振られる可能性を排除できないものの、やはり、円高基調の継続を覚悟したほうが無難だ。市況はいかに。
(PM1:30執筆)
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