■米ドル全面高が鮮明に! その背景は?
ドルインデックスが先週(10月10日~)、2016年7月高値を更新、足元98.50前後まで上昇し、米ドル全面高の基調が鮮明になっている。米「早期利上げ」観測の高まりがもっとも大きな背景だとされる。

(出所:CQG)
しかし、前回の本コラムが指摘したとおり、2016年年内に米利上げがあっても、とても「早期」と言えなくなっているから、そもそも「米利上げがあるから米ドルが買われる」といったロジック自体が奇妙に思われる。
【参考記事】
●英ポンドの底はまだまだ下だが、もはや「早期」でない米利上げでドル高はムリ!?(2016年10月14日、陳満咲杜)
■イエレン議長が示した「高圧経済」とは?
その上、先週末(10月14日)のイエレンFRB(米連邦準備制度理事会)議長の発言が、明らかにハト派だったことも見逃せない。
イエレン議長は、「高圧経済」という新しい言い方をして、一時的に景気が過熱することを容認する考えを示した。議長の発言が、各地区連銀総裁の利上げ催促姿勢を牽制する目的かどうかは定かではないが、2016年年初来、ずっと金利を据え置いてきたことの妥当性を強調し、自らの主導権を示したことは間違いない。
わざわざ新しい言い方をしてまで金利据え置きの理由を強調しているから、イエレン議長に対する逆風も強かったと思われる。
何しろ、マーケットは散々FRBの「利上げ詐欺」にあってきた。その都度、波乱を余儀なくされ、今回もその可能性があるのだ。
換言すれば、「規定路線」とされる12月利上げ自体が100%確実だと言い切れないから、事前に何らかの伏線を張った方がよいという判断があったのではないだろうか。
■市場の「ストックホルム症候群」って?
このあたりのことに関して、10月16日(日)に、市場の「ストックホルム症候群(※)」というやや過激なタイトルを付けた分析を書いたので、以下に開示しておきたい。
(※編集部注:「ストックホルム症候群」とは、犯罪の被害者が、加害者と長時間共に過ごすことによって、加害者に共感し、過度に同情したり、好意を持ったりすることをいう)
14日の米国債相市場では利回り曲線がスティープ化し、5年債と30年債の利回り差は3月以来の大幅な拡大となった。これは明らかにイエレン議長の話が反映した結果だと思う。
イエレン議長が「高圧経済」をしばらく維持することを表明、成長トレンドの一部を修復するという自分のロジックを披露したわけで、あきらかにハト派の基調を強めていた。
利上げを正当化できるほど米経済が強いかどうか経済指標に注目が集まっているが、もはや「早期利上げ」でなくなる目下、12月利上げの確率も言われるほど高くないのでは。何しろ、「高圧経済」なら、景気が過熱するのを容認し、また加熱するかどうかを見極める目下では、よほど強い指標が出ない限り、状況が流動的だ。
もっとも不確実の高い材料は米大統領選だ。政治的な暗示をできないから、イエレンさんが「高圧経済」云々を指摘しはじめたではないかとさえ疑われるが、いずれにせよ、こういったコンセプト、かつての日本にはなかった。
新しい単語とコンセプトが出たが、市場関係者はさほどサプライズしていないでしょう。というのが、イエレンさんの話、ハト派的なことは間違いないが、これまでもハト派だったから、今更驚くわけにはいかない。しかし、スタンスの再確認という意味では、従来観測の後退をもたらすでしょう。
というのが、フェデラルファンド(FF)金利先物市場の動向によると、12月までの利上げ確率は約69%。9月27日の時点では50%だったことに鑑み、大分上昇してきたので、12月利上げが「規定路線」と勘違いされやすいところ、「高圧経済」云々を持ち出すこと、実に妙手だと思われる。
だから、FRBの「利上げ詐欺」に散々やられたとしても、マーケットはその度興奮し、また「やられること」を甘受してきた。市場の「ストックホルム症候群」をコントロールするには、FRBは世界の中央銀行として一枚も二枚に上手なわけだ。
ゆえに、しばらくドル高基調が続くとしても、目先限定的であろう、「高圧経済」のコンセプトを完全に消化するまで・・・
■米ドル/円の高値トライに継続力はある?
この意味では、現在の米ドル高基調、とりわけ、米ドル/円の高値トライに継続力があるかどうかは、慎重に測った方がよい。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドル/円 1時間足)
「FRBの利上げ詐欺」に散々やられたからこそ、マーケットは今度の利上げを確実視し、また、より一層反応してきたと思われるが、今までの経緯からすると、「早期」ではなく、「晩期」の利上げ可能性を「好感」しすぎた、という側面が強いのではないだろうか。
このためか、昨日(10月20日)からなされている黒田日銀総裁などが「追加緩和を見送りを示唆」という報道に対する、市場の反応は鈍かった。
「ストックホルム症候群」は根本的にいうと、感情や認識の乱れだから、こういった反応があっても仕方がないが、追加緩和観測は円安の「生命線」であるだけに、果たして、このような状況が長く続くかどうか疑問だ。
■ユーロの波乱が米ドル高を押し進めた
一方、昨日(10月20日)はユーロの波乱が、米ドル高を一段押し上げた側面も見逃せない。
ドラギECB(欧州中央銀行)議長がテーパリングを否定。これ以前から報道されていたECBのQE(量的緩和策)停止、といった観測がなくなることで、ユーロは一段安となり、英EU離脱が決定された6月24日(金)安値を更新した。これにより、目先、米ドル高基調がさらに強まっていくことも覚悟しておきたい。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/米ドル 日足)
実際、米「晩期」利上げでもマーケットが過激な反応を示し、米ドル高をガンガン推進していくなら、米ドル高自体が利上げの障害になるリスクも大きい。
■ユーロも円も、対ドルの安値打診はいったん限界に近い?
この意味では、QE継続が表明されたユーロにしても、追加緩和見送りが示唆された円にしても、対ドルの安値打診は、目先すでにいったん限界に近づいているのではないだろうか。米ドル高一辺倒のスタンスとは、引き続き距離を保ちたい。
ちなみに、2015年3月以来、ドルインデックスは大型保ち合いを形成してきた。

(出所:CQG)
これは「FRB利上げ詐欺」にあったというだけでなく、そもそも2011年4月安値を起点とした米ドル高トレンドに対するスピード調整、といった意味合いが重要であった。この視点でも、目先、米ドル高の基調は強いものの、積極的な高値追いには躊躇せざるを得ない。
このあたりの解釈はまた次回、市況はいかに。
(14:00執筆)
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