■米ドルは一進一退ながらも堅調な値動き
米ドル全体は一進一退しながら、堅調な値動きを示している。ドルインデックスも米ドル/円も、あるポイントをいったんブレイクしたことで、地合いが強化された。
これはほかならぬ、5月30日(火)高値のいったんブレイクである。
前回のコラムにて指摘したように、ここを「転換点」と見なしたわけだから、同高値の打診があったからこそ反騰継続のサインが点灯したと言える。さらに、これから再度打診があれば、一段と基調の好転がもたらされるだろう。
【参考記事】
●為替相場にトランプ・ラリー再来!? 米ドル続伸のサイン点灯、米国株もまだ崩壊しない!(2017年6月16日、陳満咲杜)

(出所:Bloomberg)

(出所:FXブロードネット)
しかし、同高値はいったん打診されたものの、米ドルの急伸は見られず、保ち合いの状況が続いている。米ドル反騰のモメンタムが明らかに強くなく、相場が足踏み状態にあることも確かである。
■米ドル足踏みの理由は米金利の弱含みにあり
その背景としては、やはり、米10年国債利回りの動向がいまいちというところが大きいのではないだろうか。特に米10年国債利回りと米ドル/円の相関性は最近高い。
米10年物国債の利回りは先週(6月12日~)の安値(米利上げ直前の2.10%)から若干上昇してきたものの、目先2.15%前後で推移しており、弱含みの状態であることは否めない。

(出所:Bloomberg)
米国債利回りの低迷は米国債価格の堅調を意味するものだから、これは市場関係者の多くが米利上げ見通しを疑問視していることを物語っている。
もっとも、米2年物国債利回りの方が、FRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策により敏感に反応するとされるが、先週(6月14日)の米利上げ後、同利回りはあまり動いていない。ここに市場コンセンサスが表れている。

(出所:Bloomberg)
もちろん、米利上げ見通しを疑問視する市場コンセンサスの形成は、最近の米経済指標の不振に基づいているが、市場関係者の認識が正しいとは限らない。
なにしろ、FRBは最近の米経済指標の不振を承知した上で、利上げ継続、さらにはバランスシート縮小のプランを提示したほど、「自信」を見せているのだ。
ゆえに、状況は流動的で、これからの米景気次第というところではないかと思う。
さらに言ってみれば、市場コンセンサスが米ドル高に懐疑的であり、また、ポジションもこういった懸念に基づき、米ドルのロングポジションに傾いていないからこそ、何らかの材料でセンチメントが修正されると、米ドルが買われる余地が大きいといえる。
■FRBの「タカ派」スタンスは米株高・金利安を狙ってのこと?
この意味では、FRBの「自信」について違う視点をもって探る必要があるかもしれない。
要するに、FRBは「根拠なき自信」を示すわけがない。最近の米景気の状況を踏まえた上で、あえて「タカ派」のスタンスを維持したのであれば、米株高・金利安といった「安定局面」を狙った意図も透けてみえる。
換言すれば、一般的に利上げはともかく、バランスシートの圧縮が開始されると、非常にインパクトが強い緊縮政策の推進となるから、それが金利の急上昇を招き、株式市場の急落をもたらすといったマイナスの側面が懸念されてもおかしくない。
目先、市場センチメントが利上げ、また緊縮政策の継続に懐疑的な見方に傾いていることを察しているからこそ、FRBはタカ派スタンスを表明したわけだ。この意味において、これから市場が徐々にFRBの意図を織り込んでいくなら、米国債利回りも米ドル全体も反騰しやすいかと思う。
いずれにせよ、目先の市場センチメントの強さから考えると、米ドル全体の反騰が継続されても緩やかなスピードに留まる可能性が大きい。
だから、ドルインデックスも米ドル/円も5月30日(火)高値をいったん打診したものの、力強い続伸に至らなかったわけだ。底固めをしてから再度切り返していくといった市況が想定される中、何らかの材料なしでは、急騰するような値動きは期待薄かもしれない。
■2016年6月23日は市場関係者に語り継がれる歴史的1日
ところで、米ドル全体の値動きはモメンタムに欠けているものの、対英ポンドの値動きを見ると、話は別だと思われる。
英ポンド/米ドルは、5月高値からすでに大きく反落してきているが、同下落トレンドはこれから一段と加速していく可能性が大きいので、米ドル高の可能性に賭けるなら、英ポンド売り・米ドル買いのストラテジーが一番有効かと思う。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 日足)
本日(6月23日)はごく普通の取引日であるが、昨年(2016年)の本日は歴史に残る1日だった。
昨年の6月23日(木)、英国はEU離脱に関する国民投票を行い、投票後24時間以内に英ポンドは10%の急落を演じ、30年ぶりの新安値を更新したことは、記憶に新しい。世界の株式市場もこのサプライズを受けて急落、2016年の「ブラックスワン」として市場関係者に語り継がれたわけだ。
【参考記事】
●緊急特集:EU離脱・英国国民投票まとめ。まさかのEU離脱で世界に激震
■英ポンド/米ドルの下落余地はかなり大きい!
その後も英ポンドは下落を続け、2016年10月安値1.2025ドルを記録してからやっと反騰してきたが、2017年5月高値の1.3046ドルをみると、2016年6月安値の1.3120ドルを回復していないことがわかる。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 月足)
言ってみれば、英ポンドは時間をかけてだいぶ回復してきたが、今なお昨年(2016年)の「ブラックスワン」の影につつまれ、ブル(上昇)基調への復帰といった状況にはほど遠い。
その上、6月9日(金)の英国総選挙で与党が大敗、メイ首相はすでに信用力、指導力を失っている以上、英国内の政治リスクがこれから高まる公算が大きい。EU離脱を巡る混乱が続き、2017年内に再度総選挙の可能性もささやかれる中、英景気回復、また、英利上げの現実味はかなり薄いとみる。

6月9日(金)英国総選挙で与党は大敗、メイ首相はすでに信用力、指導力を失っている
(C)Matt Cardy/Getty Images News
言ってみれば、現在の値動きを2016年EU離脱後の一環と見なした場合、昨年(2016年)10月安値を起点とした切り返しは、英ポンドの大型ベア(下落)トレンドにおけるスピード調整にすぎず、また、同スピード調整はすでに5月高値をもって頭打ちが図られたから、5月高値1.3046ドルからすでに下落波に復帰してきた公算が大きい。

(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:英ポンド/米ドル 月足)
そうなると、英ポンドの下落余地はかなり大きく、目先の値動きはまだ初歩段階にあるといった位置づけもできるだろう。
■しばらく英ポンドを支える材料は出にくいと思われる
カーニー英中銀総裁は利上げ、また、バランスシート縮小の可能性を否定している一方、英中銀チーフエコノミストのホールデン氏は2017年年内利上げを示唆するという矛盾したメッセージが出され、これが英ポンド相場に上下動をもたらしているが、英ポンドの下落構造がしっかり構築されている以上、マーケットは先見性をもって、これからのファンダメンタルズや金融政策を予言しているといえる。
つまり、これからしばらく英ポンドを支える材料は出にくいと思われ、2017年内の英利上げの可能性はないと思った方がよいだろう。さらに、英ポンドが下落トレンドへすでに復帰してきた以上、政治リスクが一段と高まること、また、英国から「ブラックスワン」が再度飛び出すことを警戒しておきたい。
■一転、英ポンド/円には下落回避の可能性が!
最後に、英ポンド/米ドルについて弱気の見方をだいぶ述べてきたが、英ポンド/円は別の視点でフォローすべきだと思う。
英ポンド/円、当面の焦点は200日移動平均線維持の有無にあり、維持できれば、ベアトレンドへ転換することを回避できる可能性が大きい。

(出所:Bloomberg)
言うまでもないが、仮にこのような見通しが正しいのであれば、それはほかならぬ、米ドル/円の上昇が効いてくるわけだから、英ポンド/円の底割れ回避が米ドル/円の上昇トレンドの継続を意味しよう。
市況はいかに。
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