■「FX、7割の人が損してる説」はウソ
FXでは7割の人が損をしている――俗にそんなことが言われたりするが、本当だろうか?
FX投資家に損益状況を尋ねた調査を見てみると、利益になった人の割合は41.6%、損失になった人が41.1%と拮抗している。どうやら「FX、7割の人が損してる説」は言い過ぎのようだ。
同じ調査をさらに過去にさかのぼると、2012年から2014年にかけての3年間は損した人よりも儲かった人のほうが多い。「FX、7割の人が損してる説」は言い過ぎどころか、ウソなのだろうか。
※外為どっとコム総研『外為白書2017-18(第9号)』および「外為短観」のデータを基に筆者とザイFX!編集部が作成
■正解は「FX、円安だと半分の人が儲かる説」か
上の図のとおり、過去の回答データと米ドル/円の年足を重ねてみると、トレンドとの関係が見えてくる。「FX、円安トレンドが鮮明だと半分くらいの人が儲かる説」だ。
以前、金融先物取引業協会が実施した調査で「FXで利益を残した人は全体の60.3%」という結果を取り上げたことがあるが、今回、この損益を尋ねる調査を行なっているのは、「外為どっとコム総研」。
【参考記事】
●実態調査でわかった「FXで儲けた人は6割!でも低所得者は下手!?」という残酷な現実
外為どっとコム総研は、外為どっとコムが設立したFX会社が所有する唯一のシンクタンクであり、外為どっとコムの口座保有者を対象にした調査の結果を年に1回、『外為白書』として書籍化している。
為替市場やFX業界の全体を俯瞰したデータ本としては、唯一の書籍である『外為白書』。2018年10月には最新の『外為白書2017-18(第9号)』が刊行された。
⇒Amazon.co.jpで『外為白書2017-18(第9号)』(外為どっとコム総合研究所)見る
『外為白書』を読むと、FX業界全体のトレンドや変化が見えてくるため、筆者は毎年楽しみにしている1冊だ。
■FX業界全体を俯瞰する貴重な「白書」
『外為白書』の内容は大きく2つに分かれている。前半では1年間の相場の動きを通貨ペアごとに、また、月ごとに細かく解説してくれる。「あの時、何が起きて動いたか」をすぐに確認でき、資料的な価値は高い。
後半部分は、前述したような外為どっとコム利用者へのアンケート調査による調査データやFX業界全体の取引データの分析だ。
今回は後半部分から、興味深いデータをいくつか紹介していこう。
■2018年、スマホがついにパソコンを逆転!
今回、大きな変化が起きたのは、取引に使うデバイスだ。FXの取引ツールはずっとパソコンが第1位だったが、ついにスマートフォンがパソコンを抜いてトップに立った。
2011年に16.5%だったスマホ普及率が、足もとでは79.4%(※)にまで高まっている。FX会社もスマホアプリの開発に血道を上げているし、パソコン版よりもユーザビリティに優れたアプリも多い。
(※博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2018」の「スマートフォン所有率の時系列推移:東京地区」より)
トレーダーに取材していても「スマホからのほうが発注しやすい」、「約定力はスマホからのほうが優れてるように感じる」、「パソコンのモニターは電源を入れなくなった」といった声を聞くことも少なくない。
※外為どっとコム総研『外為白書2017-18(第9号)』および「外為短観」のデータと博報堂DYメディアパートナーズ「メディア定点調査2018」の「スマートフォン所有率の時系列推移:東京地区」を基に筆者とザイFX!編集部が作成
■FXからビットコインへの流出は極めて限定的
次に注目したいのが、仮想通貨。とくに「FXから仮想通貨へと資金が流出する動き」についてだ。
外為どっとコム総研では仮想通貨への投資意欲についても定期的に調査を行なっている。調査対象は外為どっとコムの口座開設者だから、「FX投資家が仮想通貨をどう見ているか」の温度感を測るには最適なデータだろう。
ビットコインが史上最高値に達した2017年12月時点で、仮想通貨へ投資している人は8.6%だった。4カ月後でも10.9%にすぎない。FX投資家の1割ほどしか仮想通貨へ進出していないことになる。
(リアルタイムチャートはこちら → 仮想通貨リアルタイムチャート:ビットコイン/円(BTC/JPY) 週足)
「FXから仮想通貨へ資金が流れている」なんて騒がれた割には、非常に少ない印象だ。
■FXから仮想通貨への移行は当面進みそうにない
それでは今後、FXから仮想通貨へ流れる可能性があるかといえば、「No」だ。
2017年12月に「取引したくない」と答えた人は39.5%だったが、仮想通貨バブルの破裂が意識され始めた2018年4月には51.4%まで上昇している。
仮想通貨のボラティリティが選好されるよりも、紛失のリスクや税制面などのデメリットを敬遠する人のほうが多いようだ。
ビットコインは230万円台を付けたバブルのピークから1年、40万円割れまで下落している。市況の回復には新たな資金の流入が必要だが、少なくとも日本のFX投資家に期待するのは難しいようだ。
【参考記事】
●ビットコインはなぜ暴落? 今のチャートは2013年以降とソックリ! 大底は近いかも…
●ザイFX!で2018年を振り返ろう!(3)仮想通貨流出事件&暴落。暗黒時代到来かよ!?
※外為どっとコム総研『外為白書2017-18(第9号)』および「外為短観」のデータを基に筆者とザイFX!編集部が作成
■2018年の主役だったトルコリラ
米中貿易摩擦やBrexit(英国のEU離脱)、VIXショックなどさまざまなテーマがあった2018年の為替市場。FX投資家の視点から振り返ると、もっとも象徴的な通貨はトルコリラだったのではないだろうか。
2015年頃から日本のFX会社が積極的に取り扱うようになったトルコリラ。当時のレートは50円前後だったが、2018年には15円台まで暴落。SNSではスワップ派投資家の悲鳴が聞こえた。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:トルコリラ/円 週足)
【参考記事】
●トルコリラ/円が一時、16円台まで暴落! トルコリラ急落の震源地はユーロか!?
●トルコリラ/円は一時15円台まで大幅続落! 原因はトランプとエルドアンの両大統領!?
世界的にはマイナーな、エキゾチック通貨の1つに過ぎないトルコリラだが、日本では非常に高い人気を誇っていた。
外為どっとコム総研のデータでも、それが裏付けられる。毎月行なわれている「買いで注目の通貨ペア」、「売りで注目の通貨ペア」を尋ねる設問だ。
■買いの注目通貨ペアランキング2位
買いの第1位は米ドル/円で不動だが、2位以下の通貨ペアは変動も多い。2018年におおむね2位の座を確保していたのはトルコリラ/円だった。
※外為どっとコム総研『外為白書2017-18(第9号)』および「外為短観」のデータを基に筆者とザイFX!編集部が作成
トルコリラ/円は2016年には、やや順位を落とす場面もあったが、2017年後半から2位をキープしている。同期間中の月足はきれいな下落トレンドだ。どれだけ価格が下がっても目を離せない健気なFX投資家の姿が浮かんでくる。
■日本人が生み出した「いびつなバランス」
外為どっとコムでは、口座開設者向けに利用者のオーダー状況や売買比率、ポジション比率なども公開している。
【参考記事】
●外為どっとコムの「外為注文情報」を使ってストップを狙う動きに乗るヒミツの方法(バカラ村)
これらはトレードに即効性のある非常に役立つ情報なのだが、トルコリラ/円のポジション比率は暴落する直前の8月初旬、95%が買いに偏っていた。
今回紹介している『外為白書2017-18(第9号)』の刊行に合わせて外為どっとコム総研の神田卓也調査部長による、説明会も開催されたのだが、トルコリラについてこう話していた。
「さすがにここまで傾くケースは珍しい。数年前、豪ドル/円が人気のあった時代でも買いの比率は80%前後だった。今年(2018年)のトルコリラはいびつなバランスでした」
■売りの注目通貨ペアでも急上昇!
ただ、ヤラれてばかりでもなかったようで、トルコリラ/円は売りの注目通貨ペアでも上位に食い込んでいた。
トルコリラ/円が暴落した2018年5月から8月にかけては、一時、売りの注目通貨ペアとして2位まで浮上している。トルコリラ暴落を売りのチャンスと考えた投資家も多かったようだ。
※外為どっとコム総研『外為白書2017-18(第9号)』および「外為短観」のデータを基に筆者とザイFX!編集部が作成
■ランキングに異変…! 米ドル/円を脅かすのは…?
ちなみに売りの注目通貨ペアでも米ドル/円の強さは揺るがないのだが、買いほどの盤石さではない。
米ドル/円は2016年、Brexitが決まった英ポンド/円に、一時売りの注目通貨ペア1位を明け渡したものの、再び首位を奪還。それから25カ月間、1位を守ってきたのだが、2018年11月にはユーロ/米ドルが0.3ポイント差まで肉薄している。
英国とのBrexit交渉やイタリアの予算をめぐる混乱などが懸念されたようだ。
では、実際に個人投資家のポジションは11月にどうなっていたのか。それをすぐに確認できるのは、外為どっとコムの大きな利点。
顧客限定情報である「外為情報ナビ」から「ポジション比率情報」を確認すると、11月には売りが70%に偏る場面もあるなど、投資家心理がユーロ売りへと傾いていたことが確認できる。
※外為どっとコムの外為情報ナビ「ポジション比率情報」
■「米ドル/円は売り越しとなった翌月に天井をつける」法則
さて、『外為白書』から少し離れるのだが、前出の説明会で神田さんが興味深い指摘を行なっていた。
日本の店頭FXでは米ドル/円はいつも買いに偏りがちだ。統計が開始された2008年11月以降、米ドル/円のネット残高が売り越しに転じたのは5回しかない。
そのうちの2回は売り越し幅がごくわずかなので無視するとして、残り3回はアベノミクス円安がピークを付ける直前の2015年5月、トランプラリーが猛威を奮った2016年11月、そして、2018年9月だ。
過去に売り越しに転じた2015年5月と、2016年11月はいずれも米ドル/円は翌月に天井を付けた。直近で売り越しとなった2018年9月の翌月には2018年高値となる114円54銭をつけており、「米ドル/円は売り越しとなった翌月に天井をつける」法則が当てはまる可能性がある。注意が必要だろう。
※金融先物取引業協会のデータを基に筆者とザイFX!編集部が作成
■外為どっとコム総研でオススメの2つのレポート
筆者は外為どっとコム総研のホームページを訪れることが非常に多い。あまり知られていないかもしれないが、ここには注目すべき2つのレポートが掲載されるからだ。
1つは『外為白書』の月刊版とも言える「外為短観」だ。注目通貨ペアなどの定例の質問に加えて、仮想通貨への投資意欲や利用する取引ツールなどの特別質問が掲載される。更新は毎月下旬だ。
もう1つは「外為トゥデイ」。毎営業日、前日の値動きや出来事をまとめてくれるレポートだ。「この日は何が起きたっけ?」と振り返るのに非常に便利だし、2009年7月からおよそ10年分のバックナンバーが閲覧できる。
バックテスト中などに、「この日は何が起きたっけ?」と思ったら、ぜひ「外為トゥデイ」のバックナンバーを漁ってみてほしい。
■外為どっとコムが「特別な存在」に思える理由
シンクタンクを持つ、唯一のFX会社である外為どっとコム。『外為白書』や「外為短観」が同社の利益に直接つながるとは正直、思えないのだが、老舗FX会社として、あるいは大手の一角としての責任感がこうした取り組みにつながっているのかも…。
自社の利益だけでなく、業界全体を盛り上げていこうとする姿勢、個人的にはとても好感を持っている。外為どっとコム総研の豊富なコンテンツ、知らなかった人は、ぜひ、読んでみて!
(文/ミドルマン・高城泰 編集担当/ザイFX!編集部・向井友代)
株主:株式会社ダイヤモンド社(100%)
加入協会:一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)