■金先協会、フラッシュクラッシュ発生日の未収金を早期発表
2019年1月3日(木)と言えば、年明け早々外国為替市場で大騒ぎとなったフラッシュクラッシュが起きた日。
そんな1月3日(木)に発生したロスカット等未収金について、金融先物取引業協会(以下、金先協会)がデータを公表しました。
金先協会はFXなど金融先物取引を取り扱う会社の自主規制団体で、通常、毎月中旬に前月分の「ロスカット等未収金発生状況」を公表しています。
ですが、1月3日(木)に発生したロスカット等未収金発生状況については例外的に速報値として1月15日(火)に公表しました。
1月3日(木)のフラッシュクラッシュについて詳しくは【参考記事】をご覧いただきたいのですが、たった3時間で昨年(2018年)の米ドル/円値幅の半分を達成した異例の暴落だっただけに、金先協会としてもロスカット等未収金を例外的に早期発表をしたものと思われます。
【参考記事】
●フラッシュ・クラッシュの真犯人はトルコリラ!? クラッシュ時もスプレッドが優秀なFX会社は?
●フラッシュ・クラッシュで米ドル/円が暴落! 株の下落を伴えば、100円割れの可能性も!?(1月7日、西原宏一&大橋ひろこ)
■フラッシュクラッシュで発生した未収金は9億4300万円
それでは、フラッシュクラッシュが起きた1月3日(木)に発生したロスカット等未収金は実際にいくらだったのでしょうか。
(出所:金先協会)
ここで、金先協会が使用する「ロスカット等未収金」という言葉の定義をまず確認しておくと、「顧客が会員(FX会社など)に支払わなければならない金銭のうち、顧客の取引がロスカット取引により決済されたときの損失が、当該顧客が預託する証拠金額を上回ることにより発生するもの」となっています。
含み損が膨らんでいったとき、通常はFX会社に預け入れた証拠金がゼロになる前に強制ロスカットが行われます。けれど、相場変動が急すぎたなどの事情により、強制ロスカットが間に合わず、口座内の証拠金がゼロを突き抜け、マイナスになってしまうことがまれにあります。このマイナス分がロスカット等未収金ということになります。このマイナス分はいずれ、トレーダーがFX会社に支払わなければなりません。
ロスカット等未収金の「未収金」という言葉を聞くと、トレーダーが支払わなければならない預け入れた証拠金以上に広がった損失分について、FX会社が回収しきれなかった部分だけを指すのかとも感じられますが、そうではないようです。
これを踏まえたうえで、1月3日(木)に発生したロスカット等未収金を見ていくと店頭の個人が5758件で5億8200万円、店頭の法人が199件で1億2600万円、市場の個人が631件で2億2600万円、市場の法人が10件で800万円、合計すると6598件で9億4300万円のロスカット等未収金が発生したことになります。
■金先協会、未収金に「店頭」と「市場」という分類を追加
これまで金先協会はロスカット等未収金の顧客区分を「個人」と「法人」に分けて発表していましたが、今回初めて「店頭」と「市場」という分類をさらに追加しました。
このことについて記者が金先協会に問い合わせたところ、「店頭」は店頭FX、「市場」はくりっく365を指しているとのこと。
また、「店頭」と「市場」という分類を追加した理由については、2018年に金融庁で行われた「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」で、店頭FXとくりっく365の資料がそれぞれ提供されたことから、金先協会でも2019年からロスカット等未収金に「店頭」と「市場」という分類を追加したとのことでした。
【参考資料】
●日経は新レバレッジ規制の結論を知ってる!? 「第1回有識者検討会」で話されたこととは?
●有識者から新レバレッジ規制必要なしとの声も!? 春に規制ありとした日経新聞は誤報?
●有識者検討会に新たな参加者もレバレッジ規制強化の声はなく…!?
●風雲急! 店頭FX原則禁止論まで飛び出した第4回検討会。レバ規制強化派が優位に!?
●急転直下! レバレッジ規制強化は見送り! けれどまだ安心できない隠れた注目点とは?
●一律レバレッジ10倍への規制強化見送り! では何が規制されるのか? 今後の争点は?
■2018年までの未収金は店頭FXとくりっく365の合計だった
ザイFX!ではこれまで、スイスショックや東日本大震災、トルコショックといった過去のビッグイベント時に発生したロスカット等未収金についてまとめた記事を公開してきました。
そのなかで、金先協会が発表するロスカット等未収金はくりっく365を含まない店頭FXの未収金だと紹介していたことがありました。
【参考記事】
●8分間の暴落! トルコショックで何が…!? トルコリラのロスカット未収金の規模は?
そもそも、金先協会は2018年までロスカット等未収金が店頭FXの未収金なのか、店頭FXとくりっく365を合計した未収金なのか明示していませんでした。
ただ、金先協会は「店頭FX月次速報」という統計資料を毎月発表していることもあり、同じく毎月発表されるロスカット等未収金も店頭FXの未収金のことを指すとザイFX!では判断してきました。
ですが、金先協会が今回からロスカット等未収金に「店頭(以下、店頭FX)」と「市場(以下、くりっく365)」という分類を追加したことで、これまで発表されたロスカット等未収金が本当に店頭FXの未収金だったのかという疑問が生じました。
このことについて金先協会に確認したところ、金先協会がこれまで発表してきたロスカット等未収金は店頭FXとくりっく365を分類していない合計の数値だったことが判明しました。
そのため、上記の【参考記事】内で「店頭FXの未収金」などと紹介している部分は、「店頭FXとくりっく365を合計した未収金」というのが正しい表現になります。
■フラッシュクラッシュの未収金は過去3番目に大きな金額
ここからはフラッシュクラッシュが発生した1月3日(木)のロスカット等未収金が過去のビッグイベント時と比べてどうだったのか、比較していきます。
過去のビックイベント時のロスカット等未収金は店頭FXとくりっく365を合計した未収金であるため、1月3日(木)のロスカット等未収金も店頭FXの7億900万円とくりっく365の2億3400万円を合計した9億4300万円という数字を使用します。
金先協会は2010年7月分からロスカット等未収金の発生金額を公表しているのですが、下の図は2010年7月以降に発生した3000万円以上のロスカット等未収金を月単位でグラフにしたものです。
金先協会は2015年4月から法人のロスカット等未収金の発表を開始したため、東日本大震災など2015年3月以前の未収金は個人のみの金額となっています。
ただ、2015年1月のスイスショックの未収金については金先協会が例外的に早期発表をした個人・法人合計の速報値を使用しています。
※ロスカット等未収金は店頭FXとくりっく365のロスカット等未収金を合計した数値
※金先協会は2015年4月から法人のロスカット等未収金を発表を開始したため、東日本大震災時など2015年3月以前の未収金は個人のみの数値
※2015年1月のスイスショックの未収金は個人・法人を合わせた速報値
※金先協会のデータを基にザイFX!編集部が作成
トルコリラが大暴落した2018年8月のトルコショックではロスカット未収金が4445万円と小規模でした。ですが、トルコショックから5カ月後のフラッシュクラッシュでは未収金が9億4300万円とかなり大規模になりました。
これはチャイナショックが起きた2015年8月の9億2200万円をわずかに上回り、スイスショック、東日本大震災に次いで過去3番目に大きな金額です。
わずか5カ月前のトルコショックと比べてフラッシュクラッシュの未収金が大規模になったのはなぜなのでしょうか。
その背景として、トルコショックでは暴落というほどの激しい動きをしたのはトルコリラを中心とした一部の新興国通貨だけだったのに対し、フラッシュクラッシュでは日本のFX取引で建玉残高が最も多い米ドル/円に加え、クロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)全般が瞬間的に暴落したことが挙げられます。
■未収金が小規模にとどまるイベントには傾向が!?
トルコショックのロスカット等未収金は過去のおもなビッグイベントのなかで2番目に小規模だったのですが、未収金が小規模にとどまったケースは他にもあります。
2015年12月の南アフリカランド急落時の未収金は1億3200万円、2016年1月の南アフリカランド急落時は2億6800万円、2017年10月のトルコリラ急落時は3400万円でした。
トルコリラや南アフリカランドなど暴落が新興国通貨だけに止まれば、発生する未収金は大きくならないようです。
また、2015年6月のギリシャ破綻懸念時の未収金は5600万円となりました。
この時は2015年6月30日(火)にIMF(国際通貨基金)への債務返済が迫るなか、2015年6月27日(土)に行われたユーロ圏財務相会合で、ギリシャ支援延長について合意に至らず、2015年6月29日(月)早朝からユーロ/円を中心にリスクオフの動きが加速したことが未収金発生の背景にありました。
【参考記事】
●土曜日の会合でギリシャ支援延長ならず! ギリシャ破綻なら、ユーロ相場はどう動く?
●ギリシャが資本規制導入、銀行は休業! 週明けの為替はユーロ全面安+円全面高!
ただ、このころはギリシャ債務問題が市場の中心的な話題だったこともあり、事前に対策して、リスク回避ができたトレーダーが多かったということかと思われます。
そして、2016年6月の英国民投票時の未収金も2億2800万円とわりと小規模なものにとどまりました。
英国民投票は英国のEU(欧州連合)離脱が決定した衝撃的な出来事でしたが、それは突如起こったことではなく、2016年6月24日(金)という投票日はあらかじめ決まっていましたから、ギリシャ破綻懸念のときと同様に、事前のリスク回避が可能だったと思われます。
■くりっく365のトレーダー、資産が豊富な長期保有派が多い?
今回、金先協会は初めてロスカット等未収金を店頭FXとくりっく365に分けて発表したわけですが、店頭FXとくりっく365でのロスカット等未収金発生金額がどうなっているのか、もう少し詳しく見てみましょう。
ただ、その前に日本のFX取引における店頭FXとくりっく365の市場規模を把握しておきたいと思います。
下表は2018年2月13日(火)に金融庁で行われた第1回「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」で、金融庁が配布した説明資料をもとに作成したものです。
※小数点第2位以下を四捨五入
※金融庁「店頭FX業者の決済リスクへの対応に関する有識者検討会」(第1回)事務局説明資料を基にザイFX!編集部が作成
データは2016年度と少し古いですが、日本のFX取引の取引高は店頭FXが全体の99%程度、くりっく365が1%程度となっています。日本のFXトレーダーのほぼすべてが店頭FXで取引しているといっても過言ではない数字となっていますね。
ですが、建玉残高で見ると店頭FXが80%程度でくりっく365が20%程度、証拠金残高では店頭FXが74%程度でくりっく365が26%程度となっており、取引高と比べてくりっく365の割合が多くなっています。
このことから想像できるのは、くりっく365には資産が豊富でレバレッジをそれほどかけず、ポジションを長期保有するトレーダーが結構いるらしいということです。
■くりっく365の未収金発生金額、未収金全体の25%程度に
それでは改めて、1月3日(木)に発生したロスカット等未収金で店頭FXとくりっく365の発生金額がどうなっているのか、比較してみましょう。
※小数点第2位以下を四捨五入
※金先協会のデータを基にザイFX!編集部が作成
1月3日(木)のロスカット等未収金の発生金額は個人・法人を合わせた合計で、店頭FXが全体の75%程度、くりっく365が25%程度となりました。日本のFX取引の建玉残高や証拠金残高の割合に近い数字となっていますね。
このことから、未収金発生金額における店頭FXとくりっく365の割合は、日本のFX取引の建玉残高や証拠金残高における店頭FXとくりっく365の割合が素直に反映されたと言えそうです。
■くりっく365の1件あたり平均発生金額、店頭FXの3倍に
さらに、1月3日(木)のロスカット等未収金の1件あたり平均発生金額を見てみましょう。
以下の表はロスカット等未収金の発生金額を発生件数で割って算出した1件あたりの平均発生金額をまとめたものになります。
※小数点第1位以下を四捨五入
※金先協会のデータを基にザイFX!編集部が作成
1月3日(火)のロスカット等未収金の1件当たり平均発生金額を低い順から並べると、店頭FXの個人が10万1077円、くりっく365の個人が35万8162円、店頭FXの法人が63万3166円、くりっく365の法人が80万円となります。
1件当たり平均発生金額は法人が個人より高く、くりっく365が店頭FXより高い結果となりました。また、個人や法人合計での1件当たり平均発生金額はくりっく365が店頭FXより3倍ほど高いことがわかります。
ここからは推測にはなりますが、くりっく365のトレーダーはレバレッジをあまりかけないものの、証拠金が大きい分、ポジションも大きいのかもしれません。
そのポジションがロスカットされて未収金が発生したと考えると、くりっく365の1件当たり平均発生金額が店頭FXより高かったことも説明がつきそうです。
(ザイFX!編集部・藤本康文)
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