深夜にトランプ砲炸裂! 金融市場は一気にリスクオフへ
2019年8月2日(金)午前2時26分、金融市場に激震が走りました。
トランプ米大統領が「9月1日(日)から3000憶ドル分の中国製品に10%の追加関税を課す」とツイートし、対中関税第4弾の発動が表明されたのです。
...during the talks the U.S. will start, on September 1st, putting a small additional Tariff of 10% on the remaining 300 Billion Dollars of goods and products coming from China into our Country. This does not include the 250 Billion Dollars already Tariffed at 25%...
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) August 1, 2019
いわゆるトランプ砲が炸裂したことで、金融市場は一気にリスクオフモードに突入。米国株や米長期金利、米ドル/円が急落する事態となりました。
(出所:Bloomberg)
上はNYダウと米10年債利回り、米ドル/円の5分足チャートですが、午前2時26分にトランプ米大統領がTwitterで対中関税第4弾を表明したことを受け、一気に下落していることがわかります。
最注目はFOMCだったはずなのにトランプ砲が続いた
そもそも、直近で最大のイベントとして金融市場で注目されていたのは、8月1日(木)午前3時のFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果公表と、8月1日(木)午前3時30分のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見でした。
【参考記事】
●いよいよ運命のFOMC! 米利下げが実施されたらドル安? ドル高?(7月26日、陳満咲杜)
●ハト派なECB。GPIF動けばユーロ/円下落!? いろいろあるが、何はともあれFOMCに注目! (7月29日、西原宏一&大橋ひろこ)
●主要国の中銀が通貨安合戦へ!? FOMCの注目点と米ドル/円の今後の行方を予想!(7月30日、バカラ村)
そのFOMCからトランプ砲に流れがつながっていくことになるわけですが、ここからは外国為替市場、米国株式市場、米債券市場がそれぞれどう動いたのか確認していきましょう。
為替はFOMCを受けた米ドル高からトランプ砲で円高に
今回のFOMCでは0.25%の利下げと、保有資産の縮小終了の2カ月前倒しが決定されましたが、一部で期待されていた0.50%の大幅利下げにはなりませんでした。
また、パウエルFRB議長が記者会見で「長期的な利下げ局面の始まりではない」と発言し、追加利下げ期待が後退したことから、外国為替市場では米ドル高が進んでいました。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)
そんなFOMCの決定を受けてトランプ米大統領は早速、「パウエルFRB議長は我々を失望させた」とツイートしたのでした。
【参考記事】
●FOMC後の米ドル高は極めて自然な反応。でも、その流れが続かないと考える理由は?(8月1日、今井雅人)
....As usual, Powell let us down, but at least he is ending quantitative tightening, which shouldn’t have started in the first place - no inflation. We are winning anyway, but I am certainly not getting much help from the Federal Reserve!
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) July 31, 2019
そして、このツイートから丸1日たたないうちに、対中関税第4弾発動というトランプ砲が炸裂したわけです……こんなことになるなんて、昨日(8月1日)の時点でいったい誰が予測できたでしょうか。
ここで、米ドル全体の動きをもう一度振り返っておきましょう。
FOMCを受けて米ドル高が進んでいたわけですが、その後のトランプ砲が炸裂して大きく下がったのはドルストレート(米ドルが絡んだ通貨ペア)のなかでは米ドル/円だけのようです。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:米ドルVS世界の通貨 1時間足)
次に円全体の値動きを見てみると、トランプ砲を受けて米ドル/円とクロス円(米ドル以外の通貨と円との通貨ペア)がことごとく急落していることがわかります。
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:世界の通貨VS円 1時間足)
つまり、外国為替市場はFOMCを受けて米ドル高の流れだったものの、トランプ砲が炸裂したことで流れが一気に円高に変わった、ということになるわけです。
NYダウは乱高下しながら下落
続いて、足もとのNYダウの動きを確認しましょう。NYダウはFOMCやパウエルFRB議長の発言、トランプ砲を受けて乱高下しながら下落しています。
(出所:Bloomberg)
7月31日(水)のNYダウは売りが先行しました。FOMCでは0.50%の大幅利下げが決定されず、パウエルFRB議長が記者会見で「長期的な利下げ局面の始まりではない」と発言し、追加利下げ期待が後退したことから、株安が進んだのです。
けれど、パウエルFRB議長がその後、「一度きりの利下げではない」と発言すると下げ幅を縮小。トランプ米大統領がパウエルFRB議長を批判するツイートをしたうえ、8月1日(木)23時発表の米ISM製造業景気指数が予想を下回り、米利下げ期待が改めて意識される形でNYダウは買い戻されました。
そんな買い戻しムードのなか、対中関税第4弾というトランプ砲が炸裂したことでNYダウは一転下落する展開に。一時、2万6548.71ドルと6月27日以来、約1カ月ぶりの安値をつけたのでした。
米10年債利回りはFOMCで方向感出ずもトランプ砲で急低下
次に米10年債利回りの足もとの動きを見てみましょう。
(出所:Bloomberg)
7月31日(水)の米10年債利回りはFOMCやパウエルFRB議長の記者会見を受けて上下したものの、2.00%がサポートラインとして意識されたようで、方向感が出ませんでした。
ただ、8月1日(木)のNY時間に2.00%のサポートラインを下抜けると低下が加速。米ISM製造業景気指数が予想より弱かったことも低下を後押ししました。
そして、トランプ砲を受けて一段と低下し、一時、1.87%台と2016年11月上旬以来、およそ2年9カ月ぶりの低水準をつけたわけです。
中国人民元/円は米ドル/円の2倍弱下落!
ここまで、FOMCからトランプ砲までの金融市場の流れを見てきましたが、対中関税第4弾というトランプ砲は文字どおり中国に向けられたものですから、中国人民元への影響も大きいと考えられます。
トランプ砲を受けて中国人民元/円は実際にどのように推移していたのでしょうか。以下はトレイダーズ証券「みんなのFX」の中国人民元/円30分足チャートになります。
(出所:トレイダーズ証券「みんなのFX」)
記事冒頭で書いたとおり、トランプ砲がツイートされたのは8月2日(金)午前2時26分で、中国人民元/円はそこから午前10時まで下落しています。
午前2時の高値は15.67円、午前10時の安値は15.329円ですから、午前2時の高値から2.18%ほど下落したことになります。
一方で、米国は対中関税第4弾を発動させた側ですが、米ドル/円の下落率は中国人民元/円と比べてどうなっているのでしょうか。
(出所:トレイダーズ証券「みんなのFX」)
米ドル/円の8月2日(金)午前2時の高値は108.164円、午前10時の安値は106.852円で、午前2時の高値から1.21%ほど下落していました。
中国人民元/円の下落率は2.18%でしたから、中国人民元/円のほうが米ドル/円より2倍弱下落していたことがわかりました。
米中貿易戦争の再燃を予見していた為替ディーラーは?
対中関税第4弾発動というトランプ砲で米中貿易戦争は再燃したわけですが、トランプ砲直前にそれを予見していた人物がいました。
それがトレイダーズ証券の市場部長で為替ディーラーの井口喜雄さんです。
ザイFX!では7月31日(水)に「みんなまだ知らない中国人民元の謎に迫る! 第1回 米中貿易戦争激化で大儲けする方法」という記事を公開しました。
【参考記事】
●みんなまだ知らない中国人民元の謎に迫る! 第1回 米中貿易戦争激化で大儲けする方法
この記事はザイFX!編集長の井口稔とトレイダーズ証券の井口喜雄さんが中国人民元について対談した様子をお届けしたものです。
そのなかで井口喜雄さんは6月末の米中首脳会談でいったん休戦したように見える米中貿易戦争について、以下のように語っていました。
(出所:みんなまだ知らない中国人民元の謎に迫る! 第1回 米中貿易戦争激化で大儲けする方法)
上のように井口喜雄さんは「米中貿易戦争はいつ再燃してもおかしくない」という考えを示していたのです。
中国人民元/円が米ドル/円の2倍下落することも予見!
さらに、井口喜雄さんはトランプ流の米中貿易戦争のやり方や、米中貿易戦争が再燃した場合、中国人民元/円が活用できるということにも言及していたのでした。
(出所:みんなまだ知らない中国人民元の謎に迫る! 第1回 米中貿易戦争激化で大儲けする方法)
また、米中貿易戦争を手掛かりにした中国人民元/円のトレードの例として、2019年5月のトランプ砲を挙げ、中国人民元/円が米ドル/円の2倍下落していたことに触れていたのでした。
(出所:みんなまだ知らない中国人民元の謎に迫る! 第1回 米中貿易戦争激化で大儲けする方法)
そして、今回のトランプ砲でも中国人民元/円は米ドル/円より2倍弱下落していたわけですから、「井口喜雄さんの予言どおりになった」と言っても過言ではない動きとなったのです。
1ドル=7.0元の防衛ラインの攻防から目が離せない
そんな井口喜雄さんは中国人民元について、もうひとつ重要なことを指摘しています。
米ドル/中国人民元は1ドル=7.0元が中国当局の防衛ラインと言われていますが、米中貿易戦争がさらに進むと1ドル=7.0元を突破して、7.0元台から8.0元を目指す展開がきてもおかしくないというのです。
(出所:みんなまだ知らない中国人民元の謎に迫る! 第1回 米中貿易戦争激化で大儲けする方法)
それでは今回のトランプ砲を受けて米ドル/中国人民元はどのように推移しているのか、確認しましょう。
(出所:Bloomberg)
今回のトランプ砲を受けて米ドル/中国人民元は1ドル=7.0元の防衛ラインに再び近づいています。
防衛ラインと聞いて思い出されるのは、SNB(スイス国立銀行[スイスの中央銀行])が1ユーロ=1.2000フランに設定していた防衛ラインを2015年1月に突如撤廃し、ユーロ/スイスフランが歴史に残る大暴落を演じたスイスショックです。
【参考記事】
●ユーロ/スイスフランが約3800pips大暴落! スイス中銀が防衛ラインの撤廃を発表!
●プライスが消えた…。現役インターバンクディーラーが語ったスイスショックの瞬間
(リアルタイムチャートはこちら → FXチャート&レート:ユーロ/スイスフラン 5分足)
米ドル/中国人民元の1ドル=7.0元の防衛ラインは中国当局が公式発表しているわけではないので、ユーロ/スイスフランとまったく同じ状況ではありません。
けれど、1ドル=7.0元は少なからぬ市場参加者が注目している水準であることは間違いないので、ここを上抜けた場合、金融市場全体に動揺が走る可能性があります。
トランプ砲の傍らで市場参加者が注目する1ドル=7.0元の防衛ラインに近づいてきた米ドル/中国人民元の動きもチェックしておいたほうがよさそうです。
(追記:米ドル/中国人民元は2019年8月5日(月)、1ドル=7.0元の防衛ラインを突破しました)
(ザイFX!編集部・藤本康文)
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